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 60年代から80年代にかけて、千葉県で開発・造成された住宅地は、台地上の平坦な畑をそのまま宅地に転用したものも多いが、丘陵の山肌を切り崩して造成したものも多い。それは大掛かりな工事であり、いかに地価が安かろうとも、ある程度の資本力のある開発会社でなければ手を出せない事業である。

 しかしながら、これが山武市辺りまで来ると、総武本線の日向駅周辺には規模の大きい住宅団地もあるが、都心から遠く、利便性の低いエリアである山武は、大手のデベロッパーの開発候補地とはならず、地価狂乱の波に乗ろうとした地元の有象無象の中小業者の手による小規模な分譲地が乱立することとなった。

 そうした小規模な分譲地の開発を手掛けた業者は、当然大手デベロッパーと比較して資金力に劣り、ついでに誠意にも劣る業者も珍しくなく、丘陵の合間に延びる谷津田や沼をただ埋め立てて造成しただけの横着な分譲地を町全域に乱立させ、数多くの建売住宅が販売された。もちろん、周知の通り田んぼや沼を埋めただけの宅地など、よほど念入りに改良工事を行わない限り宅地として適さない軟弱地盤であり、結果として、旧山武町では地盤沈下を原因とする欠陥住宅の被害が数百戸に及び、当時の住宅販売会社が集団訴訟を起こされる事態となった。

 今回は、そんな山武の谷間の分譲地をいくつか訪問してきた。どれも小規模なもので、常識外れの立地であること以外はこれと言って特徴もないものばかりであるが、山武の谷間の分譲地というものがどんなものか見ていただきたいと思う。ちなみに、今回訪問した分譲地は、すべて更地で販売されたもので、造成と建売住宅の建築が同時に行われた分譲地ではない。
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山武ではどこでも見られる谷間の水田。こうした水田も宅地として転用されてきた。

 まずは山武市親田にある分譲地。谷津田を潰して造成された分譲地は、当然周囲も水田ばかりであり、アクセスするには水田の間に延びる農道を抜けていかなくてはならない。しかしこうした農道は、そもそも地元農家が軽トラで通行することしか想定しておらず、地元自治体も、数戸しかないミニ分譲地のためにわざわざ高規格な道路を建設したりしない。ガードレールもなく、夜間の通行には不安を覚える細道ばかりだ。分譲地は谷間のどん詰まりに位置しており行き止まりなので通過車両は皆無なのだが、万が一夜間に対向車が来た時のことなど考えたくもない。ただこの親田の分譲地に向かう車道は、後述する2つの分譲地と比較すればまだ広い方で、その分、住宅の数もそれなりにある。
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親田の分譲地に向かう農道。

 分譲地の入口の脇には、既に半壊状態となった農家住宅の廃屋があった。往年は立派な民家であったことは推察できるが、画像では見えないが壁は剥がれ、無住となって相当の年月が経過しているものと思われる。かつてこの谷津田で耕作していた農家のものだろうか。水田が宅地に転用されたということは、すなわちその耕地を手放し、離農した、あるいは耕作地を縮小した農家があったということである。俗なイメージとして、農家は先祖代々の土地を赤の他人に手放すことを躊躇い、結果として再利用もされない耕作放棄地が生まれていくというものがあるが、その一方で、こうして地元業者に土地を売り飛ばす農家も一定数存在するのである。
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分譲地の入口にあった農家住宅の廃屋。

 分譲地内は、特に何の変哲もない規格住宅が点在する、おなじみの限界分譲地の光景であるが、周囲は山武杉が並んだ丘陵に囲まれ、ここが低地に造成されていることが一目で分かる。雰囲気としては、これはこれで悪くないのだが、現実にはこうして山林に囲まれている場所は通気が良くないし、谷間なので水が流れ込み、湿気が多い。
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親田の分譲地内。建売には見えないが、特段変わった住宅もない。
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分譲地の周囲には丘陵の山肌が迫る。

 分譲地の奥に進むと空き地も目立ってくるが、その中に、またしても古民家の廃屋がある。こちらは入口にあるものとは異なり小さな民家で、おそらく元小作農の零細農家のものと思われるが、それにしても、分譲地の中に、こうした旧来の民家が残されているケースは珍しい。開発当初はまだ居住していたのだろうか。それにしてはあまりに荒廃が進み、いつ崩落してもおかしくない状態だ。また、分譲地内には、別荘と思われる建物の空き家もあり、これも廃屋と化している最中であった。
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分譲地の奥は空地が多い。
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分譲地内の一画に、旧来の民家の廃屋が残る。
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無住となって長い年月が経過しているのか、骨組みも歪み、崩落の日は近い。
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放置された別荘風の建物。


 続いて訪れたのは、山武市川崎の分譲地。先ほどの親田の分譲地からも近い。ところがこちらの分譲地は、先の親田と比べてアクセス道路が分かりにくい。もちろん、居住者は通り慣れているので道に迷うこともないだろうが、そもそも宅地の販売時、初めて訪問する客にしてみれば、こんな細い農道の奥にあるというだけで大きなマイナスポイントであり、それがそのまま販売不振に直結し、こちらは親田の分譲地よりも区画数はずっと多いものの、その大半が今なお更地のままだ。
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川崎の分譲地。区画の大半が更地だ。
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僅かに家屋が立ち並ぶ区画。

 そしてここは、街路や空き区画の管理状況が非常に悪い。ほとんどの区画が更地で、通行人も皆無なのだから無理もないのだが、街路は既にひび割れて雑草に覆われ、見るも無残な有様だ。何を勘違いしているのか、ご丁寧に所有地を単管パイプで包囲している区画もあるが、残念ながらここの空地には、無断駐車の需要すらない。ここは行き止まりで通過車両もほとんどなく、路上駐車で事足りるからだ。途中「月極駐車場」の看板が放棄されていた区画があったのだが、こんなところで駐車場を経営していたのだろうか。ちなみにこの川崎の分譲地には、戸建を改築した賃貸アパートが一棟あるのだが、ここもまた、常時入居者を募集していて、一向に成約する気配がない。
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家屋のない区画の街路は極めて荒れている。
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単管パイプで囲われた区画。その必要性は全くない。
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放棄された月極駐車場の看板。どこのチャレンジャーがこんなところで駐車場を経営していたのか。

 最後に紹介するのは、山武市戸田の分譲地。これもまた、先の分譲地からほど近い所にあるが、3つの中では、最も成東駅から遠い。ちなみにこれら3つの分譲地の近くにある県道118号線は、成東駅と八街駅を結ぶ路線バスの運行ルートであり、実はこの3つとも、車があれば成東の市街地からさして遠くもないのだが、それでも山武市内の他の分譲地と比較しても空き地が多いのは、やはりアクセスする道路が狭すぎることが原因と思われる。その中でも特にこの戸田の分譲地は、一部の区間は、周囲の水田の水面よりも低い細い農道の先にあり、不安なことこの上ない。
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県道118号線と戸田の分譲地を結ぶ農道。ほぼ水田の水面と変わらない低さだ。

 分譲地近くを流れる作田川は小さな川であるが、豪雨時に増水、氾濫することがたまにある。この戸田の分譲地へ向かう農道も、増水時には水没してしまうのではと思われる低さだが、それが販売不振の理由となったのか、この戸田の分譲地には家屋が3戸しかない(うち1戸は空き家)。既存の集落からも離れ、もはや「ニュータウン」でも何でもない、薄暗い丘陵の谷間に突如出現した寂しい限界集落だ。分譲地へ向かう道の周囲の水田も既に耕作放棄され、非常に陰鬱な雰囲気である。住民も少ないためか、分譲地へ向かう道路も荒れている。
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画像奥の杉林の奥に、戸田の分譲地がある。
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ややピンボケだが、画像中央、赤丸で囲った位置に、分譲地に建つ住宅が見える。
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2世帯が利用するのみの道路のため、荒れている。
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既存の集落から離れた谷間の奥に、僅か3戸の家屋が建つ。ただの限界集落である。

 ここは区画数も少なく、ほとんど空き地なので書くこともないのだが、圏央道から近いために、自動車の走行音が谷間に響き渡り、こんな立地でありながら静寂ですらない。親田や川崎の分譲地は、まだしもウグイスの鳴き声などが聞こえて長閑な雰囲気だったのだが、これではほぼ唯一のメリットすら台無しである。また、分譲地の最奥には太陽光パネル基地が設けられていた。
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分譲地はほとんど空き地で書くこともないが、ここは圏央道を走行する車両の音が谷間に響く。
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最奥部にあった太陽光パネル基地。
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僅か3戸の家屋のうち、1戸は既に空き家となっている。

 と言うことで今回は、山武の谷間にある限界分譲地を軽く紹介してみた。実を言うと、思ったほど印象は悪くなく、これはこれで隠れ里的で面白いとは思うのだが、やはり実際に居住するとなると、利便性は度外視しても、アクセス道路の劣悪さや、湿気、地盤など、様々なデメリットに悩まされるであろうことは想像に難くない。だが、家屋が少ないので、一般の宅地利用とは異なる面白い利用方法があるかもしれない。ただし今回紹介した分譲地内の売地は「成東駅から遠くない」ことに一縷の望みをかけた往生際の悪い売主が多いのか、坪数万円にも及ぶフザケた売値を提示しているものがほとんどである。
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谷間の分譲地へのアクセス 



山武市親田・川崎・戸田
・総武本線成東駅よりちばフラワーバス「八街線」 「野堀」「川崎入口」バス停下車