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 70年代半ばから開発が始められた千葉県の限界分譲地は、既存の農村集落からは離れた山林や田畑の片隅に位置するものが多い。元々は土着の地主が所有していた山林や農地を、開発業者が取得して開発を進めたものだが、地主にしても、自宅から近い田畑や土地を優先して手放す理由もなく、管理が行き届きにくい人里離れた立地の所有地から順次手放していったものであろう。

 また、同じ農村地帯でも、地域によって分譲地が集中しているところとそうでないところがあり、これは、おそらくある地主が所有地を売却して利益を得たとなると、狭い農村社会ではその噂がすぐに広がり、連鎖反応を起こして所有地を手放す方が続いたものであろう(実際不動産販売の現場では、近隣で売主が立て続けに現れることがあると聞く)。

 しかしそんな中、まれに農村集落の合間にぽっかりと切り開かれた分譲地もある事にはある。しかしそのような分譲地は往々にして利用率が低い。山林の限界分譲地に比べれば、既存の農村集落には商店がまだ残されていたり、郵便局があったり、バス路線も残されていたりと少しは利便性が良いものなのだが、やはり住宅を建てるにしても、既に人の住む集落に、言葉は悪いが「よそ者」として入り込んでいくのは抵抗があったためだろうか、ほとんど利用されずに放置されているのが現状である。
埴谷 農村の分譲地 (1)
山武市埴谷の農村集落の中に残る分譲地。写真中央、白い車の左側に見える柵の付近が分譲地。
埴谷 農村の分譲地 (5)
埴谷 農村の分譲地 (6)
既存の住宅に取り囲まれた10区画程度の小さな分譲地だが、家屋は一つもない。

 今回紹介する山武市松尾町古和(こわ)の分譲地も、そんな既存集落の中に位置している。旧松尾町は、総武本線の松尾駅は特急も停まることがない、商業施設も少ない小さな町であるが、駅より南側、九十九里平野に広がる水田地帯には限界分譲地がいくつか見られる。しかし今回紹介する松尾町古和は、松尾駅より北側、杉林が多く残る山間部の集落であり、この地域には限界分譲地はほとんど見られない。

 そもそも松尾町の山間部周辺は、成田空港の航路の真下であり騒音区域に指定されているところが大半なので、開発されたのは主にゴルフ場や工業団地であり、もとより農村集落自体が少ないエリアである。商業施設もなく、この分譲地の開発当時は圏央道もなければ、「芝山はにわ道」の名称がある、成田空港まで結ぶ県道62号線も未開通で、一体この立地でどんな資産性を見出したのか不思議でならない。
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総武本線松尾駅。駅舎は1898年(明治31年)の駅開設当時のものが今もそのまま残る小さな駅である。
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松尾駅の南側にはすぐに水田が広がり、商業施設も少ない小さな田舎町だ。

 古和の分譲地は県道112号線から少し横道に入った立地で、周囲は竹林や杉林に囲まれ非常に分かりにくい立地にある。車一台がようやく通れる細い林間の小道を抜けると分譲地が見えてくるが、舗装は部分的にしか行われておらず、分譲地内の街路も狭い。国土地理院の航空写真を見る限り、この分譲地は1975年の時点で既に開発が完了し住宅が建てられているので、分譲地の規格も当時の水準のものである。開発以前の古い写真では山林であったようだ。
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古和の分譲地へ向かう細い道。雑木林や竹林は昨年の台風15号の影響かやや荒れている。
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1975年に撮影された古和の分譲地付近の航空写真(赤枠内)。既に開発は完了し、住宅の建設が始められている。

 分譲地に入ってすぐに気がつくことは、未利用地が荒れているのは仕方ないにせよ、今残されている家屋の多くが、一目見ただけでバブル期以前の古い家屋であることである。既に繰り返し述べているように、70年代に投機商品として盛んに開発・分譲された千葉の限界分譲地が、実際に一般の住宅地として利用され始めるのは、地価がさらに高騰した80年代末のバブル期以降のことが多く、分譲当初に早々に建てられた住宅は極めて少ない。

 しかしこの分譲地に建つ住宅は、ざっと見てその半数ほどが70年代後半~80年代初頭のものと思われる古いものである。今と異なりこの時代は、おそらく農村集落に向かうバス路線なども多く残されていたはずで、当時はこうした農村集落に近い立地の方が、実際の宅地利用者には好まれたのであろうか。
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分譲地の内部。バブル期よりも古い家屋が目立つ。

 とは言っても、区画の圧倒的多数を占めるのは未利用の更地である点は他の限界分譲地と変わりはなく、草刈り業者の看板もいくつか見受けられるが、多くの区画が、今は雑草を刈られることもなく放置されている。ちなみに2020年7月の時点で、この分譲地は1区画の売地がアットホームの物件広告に掲載されているが、その坪単価は既に1万円を割っており(価格は30万円)、しかもこんな農村に位置していながらその区画は都市部の分譲地に見られるような旗竿地で、まったくお気に入り登録者数が増えることもなく長期間掲載されているものである。
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区画の大半が未利用の更地である点は他の限界分譲地と変わらない。
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売地の看板はいくつか見受けられ、個人で設置したと思われる看板もある。
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アットホームに掲載されている古和の分譲地の売地情報。価格は30万円だが、この立地で旗竿地だ。

 余談であるが、僕の知人が以前、ある不動産を取得する際に、その売主がこの古和の分譲地も1区画所有していて、契約時に、その区画の売却を持ち掛けられたことがあるそうだ。売主が提示した価格は30坪で50万円という価格だったそうだが、その時売買契約に立ち会っていた司法書士がたまたま松尾町の出身で、その価格を聞くなり「そんな高い値段では売れませんよ!」と売主を諫めたそうである。もとより知人は、自宅からも遠いこの分譲地を買う気などなかったのだが、それにしても今やこの分譲地は、地元関係者から、50万円という売値でも「高い」と一蹴されてしまうような土地になってしまっているということである。
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地元関係者からは、50万円で「高い」と一蹴されてしまう分譲地。

 分譲地内には、既に修復不能なまでに損壊した空き家も見られるが、庭の雑草が伸びていても、進入路だけが辛うじて確保されていて空き家なのかどうか判別しがたい住宅もいくつかある。開発時期や住宅の築年数から考えても、当初の取得者はもはや相当な高齢のはずで、敷地の管理もままならないのかもしれない。実は僕の自宅の裏の家もそのような状態になっている住宅で、年配の方が1人で暮らしているのだが、既に体も悪く、庭は荒れ放題である。
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屋根も剥がれ、修復不能となった空き家。
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空き家でなくても、あまり適切な管理が行き届いているとは言い難い家もいくつか見受けられる。

 冒頭でも述べたようにこの分譲地は既存の農村集落の合間に残されていた山林を造成して作られているので、分譲地から一歩出ればすぐに、元々の土着の住民の家屋が並んでいるのだが、よく見るとそれらの中にも、既に放置されて相当年数が経過していると思われる空き家がある。少子高齢化が進んだ今、こうした地方の農村部で過疎高齢化が進んでいることは改めて指摘するまでもなく、この分譲地も今やニュータウンどころか、既存の農村集落の合間に新たに出現した集落のひとつであるに過ぎず、抱えている問題もまったく同じである。
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分譲地に近接した既存の住宅にも空き家が目立つ地域である。

 否、同じどころか、元からの農村集落は元々この地で農業を営み、人間関係や生活基盤をこの地に据えている世帯がほとんどである中、分譲地というものは元々その地に地縁も血縁もない世帯の寄り合いであり、農家のように継ぐべき家業もなければ、優先すべきほどの人間関係も少なく、いったん独立して家を出た子供世代が、再びUターンしてこの地に戻って生活する可能性は、農村集落よりもさらに少ないであろう。それこそが限界分譲地の空き家が抱える問題なのである。
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一般の給与取得者の住宅地として利用された分譲地は、農地を持つ農村集落より更にUターンの可能性が少ない。

 この分譲地は、空き地が駐車場や家庭菜園用地として利用されているところが目立つ。近隣の住民が新たに区画を買い増ししたのか、それともそうでないまま利用しているのかは見ただけではわからないが、Uターンの可能性が低いのであれば、残された道はただひとつ、新規の住民の利用を待つのみである。

 その際、まったくの未管理の荒れ地の合間に住宅が点在する分譲地と、僅かながらも菜園などに利用されていて、何より利用者の存在が明確な区画も多い分譲地、好みは分かれるかもしれないが、利用する上では所有者に連絡が取れる区画の多い分譲地の方が格段に有利なことは言うまでもない。

 農村集落と分譲地における決定的な違いは、分譲地は土地の買い増しが比較的容易であり、農地のような利用制限もないという点である。このメリットを生かす方向に持って行かなければ、その分譲地に未来はないと言っても過言ではない。対して、資産価値がなければないなりに、周辺住民が気軽に利用できる区画数が一つでも増えれば、こうした立地の分譲地でも活用する方は、まだまだいるのではないかと僕は考えている。
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未管理の区画が続く一画。

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菜園や駐車場として利用されている一画。同じ分譲地でも、手入れされていれば印象はずっと違う。


農村集落の合間に出現した「ニュー集落」へのアクセス

山武市松尾町古和
・圏央道松尾横芝インターより車で5分
・成田空港第2ターミナルより空港シャトルバス横芝屋形海岸行 「松尾ゴルフクラブ入口」バス停下車 徒歩18分
・総武本線松尾駅/芝山鉄道芝山千代田駅より芝山ふれあいバス 「金尾」バス停下車 徒歩3分