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 現在は周辺自治体と合併して山武市となった旧山武町は、古くから山武杉の産地で知られる、広大な杉林を抱えた丘陵と谷津田が残る静かな田舎町であるが、この町も、成田空港の開港前後からすさまじい乱開発の嵐が吹き荒れた町のひとつである。農地としても利用されていなかった杉林の一部を、まるでくり抜くように無秩序に宅地造成され、それが今なお多くが更地のまま残されているのだが、そんな旧山武町の中心部、山武市役所の山武支所の周辺には、旧山武町時代のスプロールの集大成とも言える分譲地が広がっている。
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今なお山武支所周辺に広がる広大な杉林。この林の中に、無数の分譲地がある。
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山武支所周辺に広がる市街地。

 山武支所の周辺は、商業施設はスーパーや薬局がある程度でバラエティに乏しいが、学校や公民館、消防署などの公共施設や、「さんぶの森公園」をはじめとした公園や温泉施設なども配備され、道路の幅員も広く歩道も確保されており、住環境自体はそれほど劣悪なわけではない。ところがこのエリアは総武本線の日向駅から3㎞ほど離れた立地で駅近とは言えず、しかもその日向駅自体、簡素な駅舎が建つだけで他は何もない山村の小さな無人駅である。
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立地は不便だが、道路の幅員や整備状況は申し分なく、スーパーもあり、住環境は悪くない。

 山武市は現在でも、コミュニティバス「山武市基幹バス」の運行を行っているが、このバスはどちらかと言えば成東を起点に太平洋側のエリアをカバーするもので、旧山武町側は十分にカバーされているとは言えない。否、以前は他にも路線はあったのだが、おそらく利用者が極端に少なかったのであろう、旧山武町北部をカバーする路線は廃止されてしまい、現在は事前登録制のオンデマンドタクシーが唯一の交通手段となっている地域が大半である。

 今回紹介する「さんぶの森ホープタウン」は、今のところコミュニティバスの路線はカバーしているものの、元々コミュニティバスは福祉政策の色合いが強く利用者の多くは高齢者や障碍者なので、はっきり言ってアクセス良好な宅地とは言えず、それが未だ多くの更地を残す主因となってきたわけであるが、2018年10月13日より、新しくこの山武町エリアと成田空港を結ぶ「さんむウイングライナー」の実証実験運行が開始されることとなった。(余談であるが、「山武」の読みは、旧山武町時代は「さんぶまち」で、現在は「(山武市)さんむし」と、読み方が異なるため、仮名表記もこのように二つの読みが混在している)
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さんぶの森公園前に設置された新路線「さんむウイングライナー」のバス停。

 実証実験運行の期間は2年半。運行会社は京成グループのバス会社で、成東に営業所を置くちばフラワーバスだ。京成電鉄のプレスリリースによると、この路線は、若者の移住促進に取り組む山武市からの要望を受けて運行を開始するものであるとのことで、これまで、空港特需を見込んだ分譲地が星の数ほど存在しながら、肝心の空港までのまともな交通アクセス手段が整備されてこなかった旧山武町エリアが、開港から40年を経て、ようやく空港の衛星都市としての舵取りを開始した記念すべき路線である。

 (参考資料:「さんむウイングライナー」の実証実験運行の開始を知らせる京成電鉄のプレスリリース  http://www.keisei.co.jp/information/files/info/20181009_173401586359.pdf)

 都心回帰が指摘される昨今、快速の増便も叶わず、複線化の見込みがまったくない総武本線を利用した都心部への通勤などもはや非現実的な話で、今日では、JRと京成の2路線の駅を持ち、関東各地への高速バス網も網羅した成田空港へのアクセスを重視するのが、空港周辺の自治体のトレンドとなっている。多古町は既に空港アクセスの路線バスを1日20往復運行しており、横芝光町のコミュニティバスも、日曜限定ではあるが成田空港へ乗り入れている。これが本来、この辺りの分譲地が担うべきであったはずの役割であり、山武からもまた新たな人の流れが生み出される可能性を秘めた期待の新路線であるが、あいにく今回紹介する「さんぶの森ホープヒルズ」は、そんな町の期待を大きく裏切る結果を残したまま今に至っている。
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さんぶの森ホープヒルズの入口に残るモニュメント。
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ホープヒルズは山武支所の近くに大規模に造成された分譲地だ。

 「さんぶの森ホープヒルズ」の宅地が展開するのは、住所で言えば山武市美杉野1~4丁目。山武市役所都市整備課に残された開発許可の資料を見ると、1丁目から4丁目まで、それぞれが異なる開発業者によって、規模が大きいために県の確認検査を経たのちに造成・開発されており、概ね90年代半ばごろの開発だ。「美しい杉の野」などという、そのいかにも取ってつけたような瑞祥地名を見てもお分かりだと思うが、ここは元々山武町大字埴谷の一部だったものが、開発を経て「美杉野」なる地名に変更されている。

 分譲地の入口を始め、分譲地内各所には、販売会社の看板が立てられている。台帳に記載された開発業者名と異なるが、別業者が販売を手掛けるまでに至った詳しい経緯は山武市役所の都市整備課でも把握していない。

 販売会社の看板には「全管連グループ HABITAまちづくり株式会社」とあり、「全管連グループ」でググってみると早速被害者の会のサイトがヒット。僕は見たことはないのだが、この全管連グループの元社長は「マネーの虎」とかいうテレビ番組にも出演経験があるとのことで、既にご存知の方も多いかもしれない。

 もちろん、全管連グループは既に巨額の負債を抱えて破綻しており、今なお分譲地各所に残る連絡先の電話番号は、どこに掛けても「現在は利用されておりません」のアナウンスが流れるのみであった。
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分譲地内に残る看板。電話は既につながらない。

 分譲地の入口のモニュメントの隣には、そんな全管連グループの「まちづくり理念」と題した看板が残されている。読んでみても、空疎な能書きを書き散らしただけの中身のない内容であるが、結局のところ資金繰りが悪化すれば、こんな看板1つ撤去することもなく、尻拭いをすべて地元に押し付けてトンズラする開発業者にまちづくりの理念を語られたところでヘソで茶が沸くだけだ。
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分譲地内に掲げられた開発業者の能書き。

 この分譲地は総区画数が600ほどあり広いので、入口は複数あるのだが、別の入口には、管理会社の案内センターの建物が残されている。グーグルのストリートビューでは、まだ存命していた頃の景観が撮影されており、八街駅行きのバス停まで設置されている模様が確認できるのだが(どうやら自前で運行していたようだ)、今となっては完全に廃墟と化している。

 この案内所が位置する前の通りは「田園ショッピングストリート」と銘打たれており、どうやらこの通りは商店街にしたい思惑があったようで、通りには今でも「自分のお店を持つ夢が今ならさんぶの森で実現可能なチャンス」「自慢の料理に値段を付けて行列のできる店ができたらいいな!」などと書かれた哀しい看板が残されている。

 だが、ご覧の通り現実には店などほとんどないどころか建物もまばらであり、行列のできる店どころか絵に描いた餅を焼いてくれる店すらなく、すでに一部の区画は畑に転用されてしまいおよそ商店街とは程遠い様相を晒している。
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雑草に覆われた案内センター跡。
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何一つ撤去することなく放置されている。
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「田園ショッピングストリート」と銘打たれた街路。店はほとんどない。
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読んでいて哀しくなる名店街管理センターの看板。
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ショッピングストリート近くに残る、未供用の街路。

 しかし、分譲地内にある建物自体は、贅を凝らした洒落た家が多く、菜園づくりに汗を流す住民の方もチラホラ見受けられ、元々大規模に切り開かれた造成地なので空も広く、暗い印象は受けない。90年代に開発された分譲地は、成田空港の開港前夜に切り開かれたものとは異なり、1区画の敷地面積が広く道路の幅員も充分確保したものが多いので、多くの空地が残るとは言え、今でも住宅の建築は続いている。

 ただ、この分譲地は公営水道と集中ガスも確保されているためか(排水は浄化槽)、周辺の山武の他の分譲地よりも高めの売出価格で販売されているので、それが未利用地の多い理由のひとつでもあろう。居住性は優れていても、利便性は他のミニ分譲地と大差はないからだ。
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建物は、個人個人の思いが詰まる洒落たものが多い。
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隙間なく住戸が立ち並ぶ一画もあり、一般的な郊外住宅地と変わらない風景だ。

 しかし分譲地全体を見れば、いまだ半数以上の区画が更地であり、末期的なスプロールの状況にある。多くの空地には所有者の名前を掲げた看板が立てられ(管理組合で建てているらしく仕様が統一されている)、売地の看板も至る所にあるが、中には全管連グループの名を冠した売地看板もあり、破たんからまだそれほど年月が経過していない現在、これらの管理地が現在どのような状況にあるかは調べてみないと分からない。

 全管連グループが破綻した今、ここは特定の販売業者が一括して販売する分譲地ではなくなっており、団地内ではいたるところに、様々な地元業者が広告を出している。
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所有者名の看板は自治管理組合が掲示しているようで、上の画像のもので仕様が統一されている。
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全管連グループの会社が売主となった物件。現在は誰の所有なのだろうか。
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住宅地としての機能性は悪くないため、今は地元業者が盛んに仲介を行っている。

 しかしさすがに管理会社が不在となり、しかも家屋もまばらなエリアが大半なため、歩道などの共有部は管理不全の状態にあるところが多く、一部の遊歩道は閉鎖されている。特に家屋の密度が低い団地内のある一画には、おそらく築数年程度しか経過していないと思われる空き家が立ち並ぶところもあり、あるいは建売販売しようとした家屋が、販売会社の倒産など、何らかの理由で未入居のまま放置されているのかもしれない。いずれにせよ、それはおよそ「まちづくり」と呼ぶに値しない無惨な光景であり、地域の将来に何の責任も持たぬ開発会社に乱開発を許した旧山武町の負の遺産といえよう。
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劣化が進む遊歩道。
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一部の歩道は封鎖されている。
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居住している形跡が見られない家屋が散見される一画。
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築浅の空き家。あるいは未販売の建売住宅だろうか。
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ほぼ新築に近い空き家が並ぶエリア。まちづくりの名に値しない。

 たとえ開発業者が倒産して消え失せても、まちはそこに残り、住民はこれからも暮らしていかなくてはならない。今、旧山武町に残るスプロール化した宅地をいったんリセットし、また新たに一からまちづくりを始めるなんて、それこそ絵空事だ。人口減少が続く中、どこかで取捨選択を迫られる事態は起こり得ようが、残された分譲地を、可能であれば工夫して生かしていく試みが問われている。そのための試みの一つとして、この山武町に新たに空港への路線バスの運行が開始されることを、僕は素直に喜びたい。僕はこのブログでは、山武町についてあまり良い話を書かないが、自家用車では頻繁にドライブで訪れるお気に入りの町である。空港へのアクセス手段が確保された、静かな限界ニュータウンとして再起することを願わずにはいられない。
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さんぶの森ホープヒルズへのアクセス

山武市美杉野
・圏央道山武成東インターより車で6分
・成田空港第2ターミナル・総武本線成東駅より「さんむウイングライナー」 さんぶの森公園バス停下車 徒歩8分(2018年10月13日より運行開始)