成田空港の経済圏である北総台地上の限界分譲地と比較すると、九十九里平野にある分譲地は空地の比率が高い。九十九里平野に造成された分譲地は、名目としてはあくまで別荘地として販売されたものが、地価狂乱の時代に、定住用の一般住宅用地として利用されたところが多いのだが、空港業務の関連企業が多い北総台地と異なり九十九里方面は農業・漁業以外の産業に乏しく(一部の地域を除いて観光業はあまり盛んではない)、また交通事情も悪く、都心どころか千葉市付近への通勤も苦労が伴うことから、さすがのバブル期においても家屋の建築は僅かしか進まなかった。
そのため、九十九里平野の分譲地の多くは、大半の区画が今なお更地であり、不在地主の所有地を管理する草刈り業者の一大主戦場となっている。少し歩くだけでも、日栄不動産(日栄土木)、大里綜合管理、両総管理、千葉緑化管理、ログ平、ナンソウトレーディングなどの、幾社もの所有者名入りの立て看板が立ち並んでいる光景を見ることが出来る。
上記の業者は不動産業務の部門を持つところもあり、併せて「売地」の看板も同時に立てられていることも少なくないが、しかしあくまで彼らは宅地の管理や草刈り業務が本業であって、どちらかと言えば土地の売買には消極的な傾向がある。受託した土地の管理を続ければ継続的な収入が見込めるが、いったん売却してしまったら、雀の涙ほどにもならない手数料を1回手にするだけで、顧客が1人消えてしまうからだ。元々需要も少ないので、一般的な不動産ポータルサイトに物件情報を掲載することも少なく、あくまで自社サイトのみで細々と公開しているのみである。
実際、僕も一度、上に記載した草刈り業者の1社に売地の価格を問い合わせたところ、売地の看板はあくまで地主に頼まれて出しているだけなので、価格を知りたかったら所有者に直接問い合わせてくれと言われてしまった。たまに捨て値で登場する売地は、こうした管理会社の物件よりもむしろ、本来なら限界分譲地の更地など見向きもしないような業者が、何かの事情で仕方なく引き受けたものが多い。
そんな訳で、九十九里平野の分譲地は、区画の9割近くが更地と言う超過疎状態にあるものも少なくないので、当然のことながらその中には、共有地の管理が追い付かず荒廃が進むところも多い。家屋が一棟もない、あるいは家屋が残されていても誰も利用していない分譲地は、当ブログでは「放棄分譲地」と定義しているが、規模の小さなものであれば、九十九里平野はそんな放棄分譲地も珍しくないのが実情だ。今回は山武市小松にある、今現在、まさにそんな放棄分譲地と化しつつある小さな限界分譲地を紹介したい。
その分譲地は、総武本線の成東駅から南東におよそ6㎞。県道124号線の沿道近く、木戸川に面した水田地帯にある。九十九里浜の小松海水浴場までは、ここからさらに4㎞ほどあり、別荘地としては極めて中途半端な立地で、辺りを見渡しても広大な水田しかない。九十九里平野の場合、海岸近くは旧来からの集落が多いので、のちに開発された分譲地は、どうしてもこのような中途半端な立地に位置するものが多い。
分譲地の入口には「警告 不法投棄巡視区域」と書かれた立て看板が立つ。人気のない限界分譲地は不法投棄の温床になりやすいことはこれまでも指摘してきたが、山武市の場合、この手の不法投棄禁止の看板の奥には、往々にして管理不全の限界分譲地が存在しており一種の目印にもなっていて、これでは何だか逆効果である気がしなくもない。
舗装された進入路を進み、いくつかの日栄不動産の看板をやり過ごすと、やがて未舗装の進入路が見えてくる。季節はちょうど草刈りの時期で、訪問時はどこからか草刈り機のエンジン音が聞こえたが、それもなければ辺りは家屋も少なく、なかなかワイルドで魅力的な環境だ。未舗装道路の脇は完全に雑木林と化しているが、その木々の合間の奥にも管理会社の看板が見えることから、本来はこの雑木林も分譲地として切り売りされたものであろうか。周囲を木々に囲まれ、プライベートを確保しやすい区画というものも魅力的だが、果たして建築可能かどうかは調べてみないと分からない。
奥に進むと、やがて部分的に舗装された一角が見える。区画数は数えるほどしかない小さなミニ開発地で、ここを造成した業者は一応舗装も施したようだが、家屋は一棟もなく、既に雑草は舗装道路上にまで浸食している。看板を出しているのは両総管理で、同社は一応不動産売買業務も行っているのだが、自社サイトの物件情報を見ても、売地の大まかな所在地と価格が羅列してあるだけで画像がないので、具体的にどの区画の情報なのかわからない。しかし「山武市小松」と記載のある売地はどれも数百万円もする高額なものばかりで、問い合わせる気も起きない。売地の看板があろうがなかろうが、機会があれば手放したいと考えているのはどの区画の地主も同じだと思うが、現在の価格水準に納得してくれない方が多いのはまことに困りものである。
再び先の未舗装道路に戻りさらに奥へ進んでみると、道路脇に上水道の制水弁のハンドホールを見つけた。驚くべきことであるが、この分譲地は上水道が引かれており、売地の広告の中には公営水道引き込み済みと記載されたものもある。八街は、このような僻地の限界分譲地の水道網は容赦なく見殺しにして個別井戸の利用を強いるが、山武は律義にもこんな管理不全の分譲地にまで上水道を整備していることもあり、それが結果的に市財政の重い負担となっていて、果たしてどちらが正解なのか判断に悩む。
分譲地のちょうど中央部辺りには、太陽光パネル基地が設置されている。この分譲地は事実上山林のようなものなので、太陽光パネルを設置したからと言って周囲の住環境を云々するような状況でもないが、パネルは東西南の三方角地に設置されており、本来、宅地として最も条件の良いはずの区画がパネル基地に転用されてしまっているのは何とも淋しい限りだ。なお、この太陽光パネル基地から道路を挟んだ南側には、何かの会社であろう大きな建物がある。
太陽光パネルの西側には、北に向けて長く伸びる横道がある。奥の方に家屋の屋根が見えるので進んでみたが、相変わらず周囲は空き区画ばかりだ。草刈り業務が行われてまだ日が浅いのか、雑草もなく綺麗な更地であるが、管理会社の看板がない区画はもはや足を踏み入れる余地もない。
そのうち1区画に建つ看板は、先に紹介した管理会社の看板ではなく、個人名が記された自前のものであるようだ。連絡先として携帯電話の番号が記されているので、おそらく売却の意思があるものと思われるが、なぜかこの区画だけ無意味に擁壁が造られていて車両が進入できない。こんな平坦な分譲地で、周囲の他の区画はどこも道路との高低差などないのに、なぜわざわざ擁壁を造ったのであろうか。お金を掛けて、ただでさえ低い流動性を余計に下げてしまうという、限界分譲地においては最悪の禁じ手である。
突き当たりには3軒の民家があり、どの家も住民がいる模様だ。ここは幸いにも、最奥部に利用中の家屋があり恒常的に車両の往来もあるため、未舗装道路も踏み固められており、通行そのものには何ら支障はない。こうした、利用区画と未利用区画の位置関係が、道路の管理状況を左右するという良い例である。これがもし、入り口付近にしか利用区画がなかったら、その奥は荒れ果てていく一方となろう。なお、最奥部の家屋の向かいには一棟、既に倒壊した廃屋もあった。
民家の先は行き止まりなので、再び先ほどの太陽光パネル基地まで引き返して、今度は太陽光パネルの西側から、やはり北方向へ長く伸びるブロックへの侵入を試みる。だが、東側のブロックと異なり、こちら西側の道路は、入口からすでに雑草が繁茂していて人が往来している気配がまったくない。航空写真では、この道路の奥にも家屋が存在するのが確認できるのだが、どうやら今は利用されていないようだ。訪問日は快晴で気温も高く、虫刺されなどが気になったが、意を決して進入してみることにした。
少し奥に進んだだけで、周囲はひどい藪となり早くも発狂寸前だが、やがて道路脇に宅地の土留めと思われるブロックが見えてきて、その先、道路の左側は管理された区画となる。どうやら管理業者は、先に訪問した西側の街路から、区画をまたいでこちら側のブロックに来て草刈り業務を行っているようである。既にパネル東側の道路は、車両が通行できる状況ではなくなっている。
開けた区画の北西側には、フェンスで閉ざされた一軒の民家が見えてくる。かなり築年が経過していると思われる古い民家で、駐車車両もなく、周囲の道路状況から考えても住民がいるようには思えないが、その割に敷地内はキレイに片づけられ雑草も少ないので、時折所有者が管理に来ているのかもしれない。そしてその民家の北側は、既に竹の群生も始まった荒れ地となるのだが、そこにはまたしても大阪系業者の看板が立てられていた。
こんな売物件に関心を払っても仕方ないので無視してさらに奥に進もうとすると、道路のど真ん中に人の肩ほどまでの高さまで成長した若竹が生えている。人の往来もなくなり、いよいよこの分譲地は道路まで雑木林と化しつつあるようだ。その竹を横目にしばらく進むと、今度はウッドデッキが設置された小さな家屋が見えてきた。しかしこちらは既に雑草に埋もれ、空き家となって年月が経過しているようだ。かつては別荘として使われていたのだろうか。
その別荘を通り過ぎると、やがて先ほど東側の道路の最奥部で目にした倒壊家屋の裏側に到達し、こちらも行き止まりとなる。
そして最後は、太陽光パネル基地の南東に位置するブロックに足を踏み入れてみることにした。ここは道路も舗装され、ハンドホールも設置されていることから上水道も配備された綺麗な分譲地で、空き区画も草刈り業者が管理していて荒れているところはない。奥に一件の民家があるが、居住感は乏しく、別荘用の住宅かもしれない。
ここのブロックには、両総管理、日栄不動産、大里綜合管理の3社の看板が入り混じっていたが、そのうち大里綜合管理の管理区画は、同社のサイトに物件広告が掲載されていたので、併せて紹介しておきたい。34坪で45万円という価格で坪単価は1.3万円だが、公営水道引き込み済みと記載されている。
今回訪問した分譲地は以上である。ブロックによって、その管理状況は雲泥の差があるが、元々この辺りにある分譲地は、開発許可が不要な範囲で造成された小規模開発ばかりであり、今回紹介した分譲地も、それぞれが別の時期に開発されたミニ別荘地の集積地である。周囲には他にも、数区画程度のミニ開発地が至る所に存在するが、そんなものまで一つ一つ紹介していてはキリがないので、今回はこの4つのミニ開発地に的を絞って紹介してみた。
いずれも九十九里平野で見られる典型的な限界分譲地で、その管理状況も、また販売価格も千差万別だが、最初に述べたとおり、九十九里平野の分譲地はとにかく家屋が少ない。地価狂乱のあおりを食らって仕方なく限界分譲地を選択せざるを得なかった時代とは異なり、今の時代になって、わざわざこんな僻地の分譲地に関心を持つ方は、どちらかと言えば、家屋が立ち並ぶ住宅地より、周囲に隣家も無いような隠れ家的な立地を好まれる方が多いのではないだろうか。
言うまでもなく資産価値は0だが、とにかく膨大な数の分譲地があるので、その中からお気に入りの一区画を探すのは、いわば少年時代の秘密基地作り、宝探しのような楽しさがある。当ブログでも、今後も九十九里平野の分譲地を、更に大網・白子方面まで足を延ばして散策したいと考えているので、同じく限界分譲地で土地を探す方にとって、当ブログが少しでもお力になれれば幸いである。
- 圏央道山武成東インターより車で約20分
(当該分譲地への訪問に適した公共交通機関はありません)
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