少し前に動画チャンネルでその模様をお話したが、僕はここ数か月、僕の故郷の静岡県から千葉に移住してきた古い友人の家探しを行っていた。友人は保証人不要のURの賃貸住宅に入居したのだが、僕の家まで土地整備の作業の手伝いに来るのに片道で2時間ほどかかるので、もう少し近い距離で、住居費用も安く済むような家を僕の自宅の近所で探すことになった。その結果、幸運にも僕の家からさほど遠くない旧別荘地で、ほとんど補修も必要のない小さな別荘を50万円で購入できることになった。その経緯については以下の動画でお話している。
一方、今回の家探しの中で、実はもう1件、所有者と連絡がつき、商談が進んでいた物件があった。結果として前述の50万円の別荘の商談が先に成立してしまったので、その物件については僕は見送ることになったのだが、後述する僕の知人のYouTuberで、千葉の外房で小屋暮らしの模様を発信しているかずひろさんが買うことになった。そのご本人より今回の記事化の承諾もいただいているので、こちらについても簡単に紹介することにしたい。これはこれで魔訶不思議な物件であり、備忘録として記録にとどめておく。
僕が購入したわけではないので詳細な所在地は伏せるが、この別荘も僕が住む横芝光町に位置し、僕の自宅からもそれほど遠くない。九十九里の沿岸部はどこもそうだが、あまりリゾート感のない、既存集落の合間の遊休地を開発して作られたような別荘地が散在している。件の別荘は私道の舗装もされていない、空き家が目立つ限界分譲地の一角にあるもので、雑草に覆われ、すでに長く使用されている形跡もなかった。建物は相当傷んでおりトイレも汲み取りだが、平屋の小さな家なので、補修は辛うじてまだ可能であると思われたので、この家の所有者に買取を打診してみようと考えた。
そこで、まずは所有者を調べるために地番を割り出して登記簿を請求したところ、建物は登記されていなかった。ただこれに関しては特に驚くような話ではなく、古い別荘(特にローンを組まず建築されたもの)は登記が行われていないケースが多い。未登記物件の売買は銀行の融資が下りないが、そもそも今の時代は、わざわざローンを組んでまで別荘を買う人はまずいないし、資産性がなければ登記がしてあろうと結局は融資は受けられないので、建物登記の有無は意外と問題になることはない。別荘の市場では当たり前の日常として未登記建物の売買が行われている。
一方で土地の登記は、地元で長年営業を続けている老舗の不動産会社の名義になっていた。その登記は1979年(昭和54年)と非常に古いもので、登記簿記載の会社の住所も、おそらく社屋の移転前のものと思われる古いものだった、合併前の旧町名の住所が記載されていて、すでに本店は移転しているのに登記が更新されていないのが気になったが、現在も近隣で普通に営業を続けている会社なので、これなら話が早いだろうと考えて、さっそく電話で問い合わせてみることにした。
ところが奇妙なことに、電話に出た事務の方も、その後折り返し電話を頂いた社長の方も、その土地建物については何も知らなかった。社長自身、僕の問い合わせで初めてその土地が自社の所有地であることを知ったらしく、自社物件でありながら、現地を見に行くまでどの土地なのかも把握していなかった。すでに40年以上前の登記なので、おそらく先代の社長が扱った物件だろうとは語っていたのだが、通常、建物があれば未登記であろうと固定資産税の請求は間違いなく来るはずである。それが届いていないのだから、詳細は分からないが、土地は間違いなく自社の名義だが、建物はおそらく別の人が所有しているとのことであった。
もちろん現在はその不動産会社も地代は一切受け取っておらず、土地の賃貸契約書も残されていなかったので、その建物所有者が誰なのかもわからなかった。そこで社長は横芝光町役場の税務課を通じ、建物の固定資産税の請求先の方から連絡をもらえるよう伝言を頼むことになった。通常、特に差し迫った事情がない限りは、固定資産税の情報から地権者や建物所有者に連絡を入れてもらえることはないのだが、今回のケースは土地の所有者自身からの問い合わせであるし、元々地元の有力企業なので役場としても知らん顔はできないのであろう、割とあっさりと建物所有者は判明した。
しかし、それでもその建物の販売の経緯までははっきりとわからなかった。「潮騒の浜」と名付けられたその分譲地は、元々その不動産会社が分譲を手掛けていたものらしいのだが、その当時を知る人はすでに社内にもなく、なぜその土地建物だけ所有権が移されていなかったのかは結局最後まで謎のままだった。建物所有者が保管していた書類を見る限り、建物の購入代金は手形で払われていた記録があるので、おそらく支払いが完了した後、何らかの事情で所有権が移されなかったのだろうと現社長は推察していたのだが、そんないい加減な取引では、土地と建物所有者の双方にとって不利な結果にしかならない。
しかもその分譲地の私道は区画所有者全員で共有しているはずなのだが、なぜかその不動産会社は私道の持分だけはすべて手放していて、土地はあるのに私道持分は保有していない状態だった。これでは全員が、自分の不動産の資産価値を毀損しているだけの結末である。法的にはたとえ未登記であろうと、その建物は不動産会社ではなく購入者の所有物であり、土地所有者の独断で好きに処分できるものではないのだが、建物所有者は長年の間、手形とはいえ代金を完済したにもかかわらず、土地も建物も自分の財産であるという登記上の裏付けもないまま使用し続けていたことになる。不動産会社も不動産会社で、所在不明の人物に無償で土地を貸与し続け、わずかとはいえ土地の固定資産税を負担し続けていた(同社は町内に別の所有地もあるので、少額でも所有地すべてに課税されている)。いくら横芝光町の地価が安いとはいえ、なぜこんないい加減な結末になったのか、その理由はもう誰にも分らない。
建物所有者が判明した時点で社長から再度連絡があり、おそらくその建物は当社で引き取ることになるが、当社としてもこの土地で利益を出そうとは考えていない、ただ建物所有者にもいくらかの謝礼程度は出さなくてはならないので、多少は代金を出してほしいのだが、いくらなら出せるかと尋ねられた。しかし、この時点で僕自身はすでに冒頭で述べた別の家の商談が成立しており、かずひろさんにこの商談を回す約束をしていた。
そんな僕が無責任に指値を行うのは正直気が引けたのだが、建物は汲み取り便所だし未登記だし私道の持分もなく、もちろん立地もよくないので、10万円なら買うと回答したところ、社長はさすがに渋い顔をして、せめて20万円は出せないかと尋ねられた。20万円は高い気はしたのだが、どちらにしても僕が買うわけではないのでかずひろさんに聞いてみたところ、それでも買うというので結局そこからは不動産会社とかずひろさんで話を進めることになり、僕の役割はそこで終わることになった。
ちなみに余談であるが、最初問い合わせて社長から折り返しの電話を頂いた際、僕の名前を聞いて、もしかしたらYouTubeをやっていないかと尋ねられた。僕の発信内容は、地元にとって必ずしもプラスの宣伝にはならない話題も多々含まれているので、僕はあまり声を大きくして自分の活動をアピールしていないのだが、見ていただいているのはありがたいことである。ただその分、初期のブログのような好き勝手な話もできなくなっていて、元々センシティブな話題なので、その舵取りはますます難しくなってきている。
本記事の執筆時点で、この廃別荘についてはすでに所有権の移転申請は完了している。結局その不動産会社は、その土地の権利証すら紛失していたというオチ付きだったが、権利証は紛失していても売買は可能なので、かずひろさんが一通り申請書類を揃え、不動産会社の判をもらって申請を行うことになった。
建物は、意外なことにコロナ前の時期までは時折使用されていたそうで、部屋に掛けられていたカレンダーは2018年の6月時点で止まっていた。柱の一部は白蟻に食われた形跡が見られるほど無残な割に、室内はそれほど傷みが進んでいる様子もなく、柱を入れ替えればまだ十分復活できそうなものであった。「潮騒の浜」という割には海岸まで少し距離はあるが、静かな分譲地の一画で、分譲地によくある道路との高低差もないので、駐車場は2台分ほどは確保できそうである。私道の持分はないが、周囲はほとんど空き地と空き家なので直ちに通行を止められることもなさそうだし、それでも気になるのであれば近所の空き地を買えば私道持分はついてくる。
まあそれでも築年の古さを考えれば、20万円が妥当な価格の物件だとは思うが、海岸に近いエリアの小さな別荘物件は、需要は多くないかもしれないがそれ以上に供給も少ないので(賃料も高く出来ないので投資家の食指も動かない)、隙間産業的に賃貸経営を行うのであれば何とかなるのかもしれない。かずひろさんはこの物件については、修繕が終わり次第視聴者さんに貸す予定とのことである。確かにYouTuberはその仕事柄、普通の一般人よりは自力で入居者を見つけやすい。すでに建物の整備も始まっているので、物件の修繕の模様が気になる方は是非かずひろさんの動画も見てください。
かずひろさんのチャンネル
コメント
栃木県日光市大室の辺りも吉川サンが好きそうな虫食い分譲地がありました。
太陽光パネルの置き場として使われてるところもありました。