連絡が取れない空き家

B級別荘地

 別に言い訳をするわけではないが、現在暮らす横芝光町木戸の分譲地からの転出を決めて、直ちに動画チャンネルを畳む決意をしたわけではない。同様の企画が継続できそうな別の分譲地をいくつかピックアップし、その地で新生活を行う傍ら、企画を進めていくという案はあった。

 しかし、すでに一定数の住民が暮らしている分譲地に、新たに住み始めた途端、動画の素材として撮影を始め、あれこれ音頭を取って、好き勝手に分譲地の整備を行うわけにはいかない。よく整備された分譲地では企画自体成り立たないし、暮らすとなれば、ほとんど住民がおらず、荒れ果てている分譲地を選ぶ必要がある。

 そんな条件であれば思い当たる分譲地は山ほどあるのだが、更地を買っても小屋の建築から始めなければならず、それは相当に荷が重いし時間がかかりすぎる。そこで、周囲に他の家屋もなく面白い使い方ができそうということでひそかに目をつけていた空き家の所有者にコンタクトを取って、安く拠点を構えようかとも考えた。

 僕はSNSなどでもよく分譲地の情報は公開していたが、これらの気になっていた空き家に関しては、あえて情報は公開せず胸の内に秘めていた。まあ実際のところは、わざわざ勿体ぶって内緒にしなくても、普通に考えればそんな空き家は誰も欲しがるような代物ではないことは明白なのだが、そんな誰も欲しくならないような腐った空き家ですら「DIY可物件」と称してジモティーに登場する時代でもある。念には念を入れ、他言はしないようにしていた。

 千葉県山武市小松、だいぶ前になるが『山武市小松 原野に還る旧分譲地』の記事で紹介した分譲地の最奥部に、今は雑草に埋もれた小さな平屋の空き家がある。この分譲地は1968年に販売された非常に古いもので、今は空き家や太陽光パネルが目立ち、問題の空き家の周囲は、視界が届く範囲には廃屋しかない。当該の空き家も廃屋ともいえるので、言ってみれば全部廃屋なのだが、この平屋の家だけはまだ何とか再利用できそうな雰囲気はあった。

 先日、この家の様子を確認するために、数年ぶりにこの分譲地を訪れていたが、近隣にある大阪系業者の看板がいつの間にか同業他社のものに代わっていただけで、それ以外はなんの変化も見られない。道路の管理者もなく、年に数回、草刈業者が進入するときだけ道路の草刈りが行われるような放棄寸前の分譲地なのだが、こんな分譲地の道路でも1項3号道路として指定されていて再建築も可能なので、いつかはこの空き家の所有者にコンタクトを取ろうと考えていた。

小松の分譲地の最奥部に眠る空き家。

いつの間にか別の業者に代わっていた看板。以前は「泰功不動産」のものだった。

 登記簿では、所有者の住所は、分譲地からほんのすぐ近くの一軒家のものになっていた。そこで妻と二人でその住所の家に訪問してみると、どうも該当の住所には住民がいるように見られない。隣家の玄関先に老婆がいたので声をかけてみて、登記簿に記載された所有者の氏名を尋ねてみると、自分はもう長年この家に住んでいるが、そんな名前の人は聞いたこともないという。

 そこで、その訪問した所有者の自宅の登記簿を改めて確認してみると、驚くべきことに、その自宅は、所有者の氏名こそ同一だが、登記簿上の住所は、僕が欲しくてコンタクトを取ろうとした問題の空き家のものになっていた。つまり同一人物が、近接する2軒の家の住所を使い、それぞれもう1軒の所有権移転登記を行っているということになる。所有権移転登記申請の際は、権利者(新取得者)は住民票を提出する必要があり、登記簿にはその住民票の住所が記載される。

 つまり、理由はさっぱりわからないが、この空き家の所有者は、登記するたびに住民票を近隣の家に移していたことになる。これでは結局、本来の所有者がどこにいるのかまったく分からない。

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 仕方ないので今度は、横芝光町尾垂イにある、総区画数わずか17の小さなミニ分譲地にある廃屋にアタックしてみることにした。

 こちらの建物はもう崩壊寸前でとてもリフォームできる代物ではなく、おそらくジモティーに出しても誰も買わないが、水道が敷地内に残されているので、この水道を再利用する形で、コンテナハウスでも置いて使うことができればと考えていた。そんなことをするくらいならもっとましな家はいくらでもあるのだが、利用率の低い分譲地に限定して探すと、どうしても選択肢は限られてしまう。

 

 持ち主は東京都内の人だが、この廃屋には草刈業者の看板が掲げられている。その草刈業者は仲介業務は行わない会社なのだが、ダメで元々と思い、会社に電話して、所有者に連絡を取ってもらえるかと尋ねてみると、連絡を取ることなら可能だという。そこでさっそく廃屋の住所と所有者の名前を伝えてみたのだが、その所有者は半年ほど前に亡くなり、以後はご遺族とも連絡が取れず、現在は草刈り業務も停止しているとの返答だった。手元の登記簿は2年前に取得したものだったので、改めてその廃屋の登記簿を取得し直してみたのだが、内容は変わっておらず、相続登記は行われていないようだった。

 ということで、結局候補としていた近所の分譲地はいずれも空振りに終わり、打つ手がなくなったということである。そんな思い通りにいくはずもないのだが、それにしても、せめて所有者の情報にだけは、何とかもう少し容易にたどり着ける方法はないのだろうか。現状これでは、交渉のテーブルにつくことすらできていない。

 特に後者の尾垂イの廃屋は、土地の地目が宅地なので、固定資産税が掛かっていないはずがない。草刈をやめたということは、所有すること自体不本意なはずだ。値段の折り合いがつかなかったら諦めざるを得ないにせよ、せめて交渉の場まで行く手段はないものなのだろうか。個人情報は確かに護られるべきだが、ほとんどの購入希望者は、前所有者の個人的な事情やデータになど関心はないのだから。皮肉なことに現状、最も連絡が取りやすいのは、ほかならぬ、大阪市の市外局番が記載された例の訳のわからない看板の立つ土地だったりする。

コメント

  1. まじで楽しみにしてるので頑張ってください より:

    teitter乗っ取られてるやんけ
    どうしたん?話きこか?

    • 吉川祐介 吉川祐介 より:

      ありがとうございます。
      則られているのではなく、Twitterを個人として使う気がなくなってしまい一度は消したのですが、仕事などでもTwitterのDMでしか連絡を取り合っていない方がいるので、連絡用にアカウントを残してあります。

  2. フチ より:

    初めて書き込みします。
    吉川さんのブログ、twitter、youtubeをこれまで楽しんできました。
    私も千葉在住ということもあり、馴染みの場所も出てきて共感できる内容で好きでした。
    気に病むような事もあったようですね。
    なによりもまずは、吉川さんが健康で、平穏な暮らしができるように祈ってます。

    • ぷりん より:

      ツイッターのアイコンが真っ黒の画像になってますが中身も編集されてますが乗っ取られたのでしょうか?
      私は吉川さんの語り口調と文章が好きなのです。
      本も読みました。
      ファンです。ただそれだけです。
      あまりにも寂しいです。

      • 吉川祐介 吉川祐介 より:

        ありがとうございます。
        Twitterは乗っ取りなのではなく、使用するのが辛くなったので個人名でのアカウント利用は止め、DMでの連絡用のために現在はアカウントを保存している状態です。
        文章だけは何とか書いていきたいですが、それもあまり調子よく書けないので少し休もうと思っています。

    • 吉川祐介 吉川祐介 より:

      ありがとうございます。
      すべての再開はできるかは微妙ですが、少なくともこのブログは閉じませんので引き続きよろしくお願いいたします。

  3. 名無しさん より:

    色々あるとは思いますが、今の借家を買い取る、というのはないのですか?

    • 吉川祐介 吉川祐介 より:

      ありがとうございます。
      もともと、入居の際に買い取りを打診したのですが、その際はまだ売りたくないとの理由で断られました。
      その後、僕は会社を退職し、書籍執筆中に貯金が底をついたので、恥ずかしながら、今はこの家をキャッシュで買う金銭的余裕がないのです。

  4. がんば、0円じゆうたくが、有ります。調べてまたら。

  5. おさむ より:

    おはようございます。
    秋田の住宅営業です。
    空地、空家の現在の所有者を調べるのに納税者を調べて連絡を取り売買に至ったケースが6例有ります。
    住所氏名が分かったら電話でポンで電話番号を調べて連絡を取ります。
    電話番号が不明の場合は手紙を書いて連絡を待ちます。
    昨年も埼玉在住の持主に手紙を出し一週間後に娘さんから連絡があり売ってもらいました。
    最近は納税者を調べるのには司法書士のお力を借りないといけなくなりましたが…

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