成田市小野 竹林に破壊される放棄住宅地の再調査

成田市

 すでにお知らせなどでも通知しているが、僕は今回、改めて動画チャンネルを創設し、放棄分譲地の紹介動画を作成して公開した。これまで人から奨められる機会はあっても、積極的に取り組むこともなかった動画作成を、ここに来て突然始めた理由は、色々な事情があって今すぐには公開できない話もあるので、時期が来たらその理由は改めてお話したいと考えている。

 題材を放棄分譲地に限定しているのは、動画というものはブログと比べて、視覚に頼る面が大きい分、そこに住んでいる方や、その住居を、見世物的に晒し上げてしまうリスクがより高まるので、誰も住まない放棄分譲地の方が気軽に、あけすけに意見を述べやすいというのが理由である。

 しかし放棄分譲地というものは、そもそもあえて紹介するほどの特色に欠けるところが多いので、もしかするとこの方針も、早々のネタ切れや早々のネタ切れ、あるいは早々のネタ切れなどを理由に、今後変更になるかもしれない。

 いずれにしても動画編集は、ブログなど比較にならないほどハードな作業で、この二週間ほどは、バイト以外の空き時間のほとんどを動画編集に費やす有様だった。動画に熱中するあまりブログを放置するような、本末転倒な事態にならないよう、あくまでも本領はこのブログであることは忘れずに、時間を見つけて随時更新していきたいと考えている。

 さて、そんな放棄分譲地動画の第2回目は、もう今から4年も前に訪問したきり、その後訪れる機会もなかった成田市小野の放棄分譲地を紹介した。ブログ開設当初に訪問した分譲地の記事は、今より調査の詰めが甘い部分が多く、この小野の放棄分譲地にしても、結局はただ行って見てきただけの感想に過ぎない訪問記事になっているので、動画のネタにする一方、再訪記事も作成して現況をお伝えしようと考えたものだ。

(参考記事:「成田市小野 竹林に破壊される放棄住宅地」2018年2月公開)

 旧下総町周辺の限界ニュータウンは、数百区画を抱える中規模な住宅団地が多い。この小野の放棄分譲地も、八街周辺や九十九里平野で見かけるような、単に地面を区切って切り分けたような10数区画程度のミニ分譲地ではなく、丘陵の斜面を大掛かりに造成し、擁壁まで構築した立派なものだ。

 

 決して安くなかったであろう工事費用を投じて開発された造成地が、完成後、一切利用されず今に至るまで放置されている理由は、分譲からおよそ半世紀が経過した今となっては永遠の謎であるが、まずは、動画の素材としても必要だったこの分譲地の地番図を、成田市役所に出向いて買うことにした。

 地番図を見る限り、一部の区画は、宅地としての利用が困難どころか、どうしてその形で区画割りしたのかもわからないほど奇怪な不整形地になっているものの、概ね住宅地らしい碁盤目状の区画割が行われており、ざっと数えたところ、100区画ほどの区画が分譲されている模様であった。 可能であればこの区画のすべての登記事項証明書を取得してじっくり精査したいところであるが、そんなことをしたら数万円もの費用が必要になる。

小野の放棄分譲地の地番図。一部不可解な不整形地があるが、多くは住宅地然とした区画割りだ。

 そこでサンプルとして、私道2筆分の登記事項証明書と、2区画の登記事項証明書を取得して確認してみたところ、奇妙なことに、私道は2筆とも、東京都内及び川崎市在住の合計3名の共有名義となっており、区画所有者の持分は設定されていなかった。登記簿で確認した区画所有者は栃木県の方であったが、その方は、前面道路の持分を所有していない。古い分譲地にありがちな、杜撰な私道配分である。

地番899番1、私道の登記事項証明書。なぜか3人のみの共有名義になっている。

899番31の登記事項証明書。栃木県在住の方が所有しているが、この所有者は前面道路の共有持分者に名を連ねていない。

 ただ、この放棄分譲地の私道は、一応地目こそ「公衆用道路」となっているものの、建築基準法の道路として判定されておらず建築許可は下りないので、今さら私道の持分がない程度でトラブルは起こり得ないだろう。そもそも今となっては負動産にしかなりえないこの放棄分譲地など、たとえ私道持分であろうと、むしろ所有してないほうがまだマシかもしれない。

 気になったのは分譲地の南西部である。動画でも紹介しているが、この分譲地もまた、ビバランド団地などと同じように、ほとんど住宅用地として利用不可能な急峻な崖地も分譲されている形跡がある。 試しにその崖地の区画の登記簿も取得してみてみたところ、現在の所有者は私道と同じ3人の共有名義となっているものの、永代信用組合という金融機関の根抵当権(極度額1000万円)が設定されたままであった。

地目は「公衆用道路」になっている私道。現況はどう見ても山林だ。

永代信用組合の根抵当権が設定されたまま放置されている崖地の区画。

 今では値段もつけられないようなどうしょうもない土地に、目玉が飛び出るような額の抵当権が設定されているのはよく見かけるが、こんな抵当権でも外すとなれば余計な一手間が必要であると思うと、もはやテコでも食指が動かない。

 ちなみにこの永代信用組合という金融機関は、バブル期の乱脈融資が災いして2002年に破綻し、債権は現在の東京東信用金庫が引き継いでいるのだが、こういうどうしようもない抵当権は、行内ではどのような扱いで処理されるものなのだろう。見なかったことにして棚の奥深くにしまい込み、そのまま黙殺するのだろうか。

900番4に設定された永代信用組合の根抵当権の記載。

永代信用組合の破綻を報じる新聞記事。(左:朝日新聞2002年1月12日 右:日本経済新聞2002年1月13日)

 改めて地番図と現地を見比べてみると、分譲地内は、もはや大半が竹林と化していて、全体のおよそ半分は、道路と宅地の境界も判別できなくなっていた。竹林の奥は僕も未踏査である。前回の訪問時は、僕は分譲地全体の規模すら把握していないまま、容易に立ち入れるところのみを撮影して事足れりとしていたようだ。

 ここは元々舗装道路であったはずなのだが、竹はアスファルトなどお構いなしに突き破って生育し、アスファルトはただの黒い砂利となり散乱し、落ち葉や土とともに堆積していく。道路だけでなく、竹や雑木は擁壁や階段をも破壊し、同じく少しずつ瓦礫の山に変えていく。

 

 僕は以前、この地域出身の読者の方とお話をさせてもらう機会があった。その方が仰るには、かつて地域の子供みんなの遊び場として使われてはいたものの、それから数十年が経過した今、立ち入るのも難儀な雑木林に変わり果ててしまったこの分譲地跡を、まさか今になって探し当ててブログに書く人がいたと知って非常に驚いたとのことであった。

 それでも今はまだ、意を決して内部に潜り込めばここが分譲地であることは容易に判別できる状態であるが、これから先も変わらず、人知れず、ゆっくりと、かつての開発造成地は元の山林に還っていくことになる。建築許可が下りない以上、住宅用地として再起することは絶対にないし、例えばキャンプ場用地やサバイバルゲーム場などで再起を図ろうにも、ここは不特定多数の集客施設を造るには既存の集落から近すぎる。放棄される造成地というものは、深く考察してみると、やっぱりどんな用途で使うにせよ、微妙に都合が悪いというか、絶妙なまでにイマイチな立地なのだ。

 ところが一方で、しばしば指摘しているように、擁壁が崩れようとも、崖は風雨で削られようとも、登記情報だけは分譲当初のまま今に至るまで変わることなく保全され、その矛盾には誰も顧みることもない。もはやどこにいるのかもわからない共有持分者、手間賃のほうが高い腐った抵当権、地価上昇による一獲千金の夢を永遠に絶たれ、失意のまま黙殺され続ける細切れの所有権、これらはみな「私有財産」として不可侵なものとして保護され、現況とますます乖離していく。

 こうした田舎の、放置された無価値な不動産について、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」の制定に期待を寄せる向きも一部では見られるが、現状、あの法律に実用性がまったくないことは既に以前の記事で報告した。どんなにこの放棄分譲地が荒れ果てようとも、固定資産税などの情報から所有者にたどり着ければ、それは「所有者不明」ではない。結局のところ所有者が、その存在を黙殺している限り、行政を含めた第三者は何も手を出すことができない。もとより行政にしても、わざわざこんな土地に手を出して余計な責任を発生させるつもりもないだろう。

 現実問題として、仮に所有者がこの土地を手放そうと考えたところで、細切れのままでは買い手など現れるはずもないのだから(崖地などは0円でも厳しいかもしれない)、相続登記が義務化されようとも何も変わらない。相続で所有者が変わろうとも、今後も放置され続けるだけだ。 僕が一人で悩んでどうにかなる問題ではないとは思うが、こんなデタラメな土地利用の傷跡が、半世紀を経過しても何ひとつ治癒していない現実を見ると、もはや地価の上昇も見込めない今となっては、ただ腐った登記情報とともに朽ち果てていくしかないのかと、暗澹たる気分にさせられるものである。

コメント

  1. 降霊術師 より:

    登記をクリーンにすれば有効活用できるのか、と言われるとどうなんでしょうか。
    新たな被害者を生まないために、腐った登記という名の価値証明が残っているのはむしろ良いことなのではないかとすら思っちゃいますね。

    “集落”に近いからといえども、全ての土地を人間が扱えるものなのだ、という発想自体がそもそもおこがましいことなのかもしれませんね。

    ブログの執筆、これからも応援してます。自分のペースで読める方が良い、という私はオールドタイプなのかもしれませんが。

    • 吉川祐介 吉川祐介 より:

      コメントありがとうございます! なるほど、確かに、別になにか使いみちがあるわけでもなし、登記ごとこのままそっとしておくというのも、それもひとつの手かもしれませんね……逆転の発想でちょっと意表を突かれました。

      ただ万が一なにか公的事業で使う際に、複雑な権利関係の解消のために行政が右往左往して、そのために無駄な費用を投じているのを見るのも釈然とせず難しいものです…。

      最近は動画など始めたりして脱線気味にも見えますが、本領はここなので、今後もよろしくお願いいたします!

  2. まーくん より:

     はじめまして。岡口基一裁判官が運営している「ボ2ネタ」というブログ(2023年2月1日)で、吉川祐介様のことを知りました。吉川祐介様がYouTubeにアップされた動画を数本視聴しましたが、非常に興味深い内容でした。書籍の購入も考えております。

     さて、本ブログの記事で不思議に感じたのは、成田市小野字権現原899番31の土地の登記情報に記載された、甲区1番の栃木県宇都宮市の方の所有権を取得した原因が「委任の終了」であり、登記の目的が「共有者全員持分全部移転」であるということです。
     「委任の終了」が取得原因ということは、実体上は不動産の所有者は自治会であるが、自治会は権利能力を有する人ではないから、原則として自治会名義での登記をすることができず、仕方なく登記上は自治会の構成員全員の共有名義か自治会長の個人名義で登記をするしかないです。そのため、実体上の所有者と登記記録上の所有者が一致しないことになります。
     また、登記の目的が「共有者全員持分全部移転」ということは、単独所有者になった人は今まで不動産の共有持分を有していないということを意味します。ちなみに持分をすでに有している人が単独所有者になれば、登記の目的は「何某を除く共有者全員持分全部移転」になるはずです。
     そうすると、登記記録上は栃木県宇都宮市に住所を定めている方が、いきなり成田市小野の新しい自治会長になったというふうに読めてしまいます。成田市小野に住所を定めていない方が自治会長になれるのでしょうか?成田市小野に住居を構えていらっしゃるのでしょうか?

     長文失礼いたしました。

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