千葉県北部の太平洋側沿岸には、既に語るまでもなくご存知の通り、九十九里浜と呼ばれる、およそ60㎞にも及ぶ広大な砂浜が広がっている。夏になれば、その砂浜の各所で海水浴場が設置され、関東各地から行楽客が訪れるマリンレジャーの一大スポットとなるが、実は近年、九十九里浜における海水浴場の休止・閉鎖が続いている。


九十九里浜の海水浴場の減少を伝えるニュース報道(2014年 テレビ朝日)。

 上で紹介するテレビ朝日の報道では、九十九里浜の砂の供給元である「海食崖」と呼ばれる屏風ヶ浦と太東崎に護岸工事を行ったために、砂の供給が減り、砂浜が減少してしまったために海水浴場が閉鎖された、と解説しているのだが、映像中では砂浜が消滅したかつての海水浴場を紹介する一方で、別の休止された海水浴場の映像では、いまだ広大な砂浜が残されていて明らかに砂浜の減少が休止の理由ではなく、どうにもこの報道は解説が横着である。

 このニュース報道中に一瞬映る横芝光町の木戸浜海岸も、かつては「木戸浜海水浴場」として開設・利用されてきた海岸であったが、ここも近年になって閉鎖されてしまった海水浴場のひとつだ。海岸の入口には、いまだ当時の看板が残るが、「海水浴場」の文字は消されてしまっており、海岸には、町役場が設置した「本年度、当木戸浜海岸では海水浴場を開設しません」と記載された看板が立つ。「波打ち際付近から急に深くなり海水浴にはとても危険です」とある。
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かつて海水浴場であった横芝光町の木戸浜海岸。海水浴場の休止を伝える看板が立つ。
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一見したところ、いまだ海水浴場として利用可能そうな広大な砂浜は残されている。砂浜の減少が休止の理由とは思えない。
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木戸浜海岸の入口に立つ、かつての海水浴場の看板。「海水浴場」の文字が消されているのが分かる。

 横芝光町役場産業振興課の職員の方によれば、木戸浜海水浴場が休止されたのは2011年。東日本大震災の年から海流調査を開始したのだが、海岸付近の地形が浸食によって急に深くなっているうえ、離岸流と呼ばれる沖合への波の流れが強く水難事故が発生する危険性が高いので、海水浴場を休止し、以降、一度も設置していないとのことであった。

 浸食は近年になって急速に進んでいるのか、と問うてみたところ、そういうことでもなく、浸食自体は昔から起きていたことなのだが、海水浴場としては不適切だと判断した、とのことであった。昨今は、公園の遊具ですら「危険」という理由で次々と撤去されてしまうご時世であり、海岸際の地形が近年になって急速に変化したのではなく、行政側の判断が慎重になった、ということであろう。海流調査は毎年行っており、自然のことなので断定はできないが、現状では地形が大きく変わらない限り再び海水浴場を設置する見込みはまったくなく、いずれにせよ木戸浜が海水浴場として大きく賑わったのは今となっては昔の話である、とはその職員の方の弁で、現在横芝光町の海水浴場は、木戸浜から栗山川を挟んで南西に位置する屋形海岸のみとなっている。
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遊泳禁止となり、往年の賑わいはもはやどこにもない。

 さてそんな木戸浜海岸の周辺には、例によって限界分譲地が散在している。木戸は横芝駅から遠く、さすがにこの立地では都心方面への通勤など今も昔も困難であり、成田空港も遠いので、おそらく別荘用地として分譲されたのではないのかと推察するが、実際に建てられているのはごく普通の民家が多く、当時の販売広告などの資料も皆無なので断定できない。しかし、住宅用地であろうと別荘用地であろうと、おそらく販売当時は海水浴場の存在をアピールして分譲されたことは想像に難くなく、そして現況は前述の通り海水浴場は事実上閉鎖され、置き去りにされた不在地主の空地の合間にポツポツと虫食い状に家屋が点在する毎度おなじみの光景である。

 個人的には、たとえ泳げなくとも、その分人気が少なく静かな海岸は魅力的であるとは思うが、マリンレジャーの拠点となり得ないとなれば、その影響は周辺の分譲地にも表れてしまうかもしれない。木戸の分譲地は小規模なものが散在しているので、今回はそのいくつかを訪問してみた。
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木戸地区の西側を流れる栗山川。河口近くなので流れは穏やかだ。

 最初に訪問した分譲地は、海岸からおよそ1㎞ほどの、栗山川の近くにある小さな分譲地。家屋は少なく大半が空地であり、別荘風の建物もあるにはあるものの、ほとんどの家屋は何の変哲もないバブル期の規格住宅だ。あまり居住感のない家屋もあるが、木戸に限らず、九十九里浜周辺の分譲地にある建物は、空き家なのか、単にあまり利用されていない別荘なのか判断のつかないものが多く、また当初は一般の居住用住宅として建てられた民家でも、のちに売却され別荘として活用されている例も珍しくないので、この辺りでは迂闊に空き家として紹介できない。
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栗山川近くにある分譲地。用水路を挟み、隣は田んぼだ。
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分譲地の遠景。周辺には田畑の他に何もない。
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家屋は非常に少なく、空き地がほとんどである。

 空地には、千葉ではお馴染みの草刈り業者の看板が目立つが、中には手書きのものもある。連絡先が記されており、市外局番は東京23区のものだ。別荘用途であれベッドタウン用途であれ、結局は投機目的で分譲されたことに変わりはないのだろう。しかし別荘地としては1区画の面積が狭すぎで、共用設備もなければ管理者がいるわけでもなく、あまりに貧相なものである。

 ちなみにこの手書きの看板が立つ区画の隣は資材置き場であり、その資材は長く放置されて半分朽ち果てており、仕切りのトタンも剥がれ、そのトタンも含めて単なるゴミ捨て場となり果てている。これさえなければなかなか良さげな環境ではあるのだが、もったいない。
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雑草に埋もれた売地の看板。
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東京23区の電話番号が記載された売地の看板。地主の手書きだろうか。
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資材置き場の資材が朽ち果て、単なるゴミの山と化している。

 続いて訪れたのは、この空地の多い分譲地からさらに内陸方向へ進むことおよそ500m。海岸からは更に離れ、正直、徒歩で海にアクセスするには少し微妙な立地になる。九十九里浜の沿岸部には旧来からの集落が広がっており、木戸に限らずのちに開発された分譲地は、海岸近くの集落よりも少し内陸に位置しているものが多い(海岸近くにも分譲地はあるが、海に近い立地のものは現在も活用されていることが多い)。横芝光の海岸付近は蓮沼海浜公園が近いためかペンションや貸別荘が多いが、こうした海から少し離れた立地にも、ペンションの看板が目立つ。

 実は周辺にも他に分譲地は至る所にあるのだが、そのほとんどは数区画程度の極めて小規模なもので、そんなものまで紹介していてはキリがないので割愛しているが、そんな小規模な分譲地でもほとんど例外なく空き地があり、中には、周辺環境との調和など糞食らえと言わんばかりの、赤色の太字で「売地」と書かれた看板もあって、不動産市場の辺境に取り残された売主の必死な思いが伝わってくる。だがあいにく木戸周辺で時折目にする築浅住宅は、このような敷地面積が狭く近隣家屋に密接してしまう旧分譲地ではなく、元々は休耕地や山林であったであろう、地積の広い単独の空地を取得して建てられている。

 旧分譲地はその規格が現代の需要を満たすには不十分で、また地価高騰期に分譲されたので、販売価格の面でも今日の取引相場に妥協できない地主が少なくないため、それが一層未利用宅地の再利用を阻んでいるのだ。一般的に、狭い土地の方が坪単価は安くなるものだが、北総の土地の売広告では、ズタボロの私道に面した30坪ほどのクズ土地が、数百坪に及ぶ公道に面した更地の数倍もの坪単価を提示していることが珍しくない。
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調和よりも視認を優先した売地の看板。資産価値は他の売地と大差はない。

 話を戻すと、続いて紹介する分譲地は、町立の白浜小学校からもほど近く、近隣には旧来からの集落も広がっている。ところがこちらは分譲地の管理状態が悪く、とりわけ街路の舗装はひどく傷んでいる。売地の看板も先ほどの分譲地より少ないうえ、ここにある空家は、明らかに一目で長年利用されていないと思われるものも目立つ。そして、以前僕が勘違いしてコスモスと紹介してしまった、特定外来種のオオキンケイギク(と思われる花)もアスファルトを突き破り、所々に生育してしまっている。
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ボロボロに傷んだ分譲地の街路。
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草刈り業者の看板が少なく、分譲地の区画が判然としない。
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街路の一部は管理もされず放置されている。
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オオキンケイギク?が街路のアスファルトを突き破って生育している。

 この分譲地からさらに内陸へ進み、以前紹介した宮川地区との境界辺りになると、分譲地の数は一気に増え、それこそ宮川地区と同様、どこからどこまでが一つの分譲地なのか判然としないエリアになる。しかしこの辺りになると、大字は同じ「木戸」とは言え、海岸部からはだいぶ遠くなる。それでもやはり貸別荘は至る所にあり、しかしその一方で分譲地に建つ家屋は相も変わらず一般の民家ばかり目立ち、結局のところ別荘地なのか住宅地なのかさっぱりわからない。

 またこの辺りになると、分譲地の所々に、もうこれ以上苦言を語る気にもなれない太陽光パネルの発電基地が設置されていてうんざりさせられる。中には、パネル設置のためと思われる単管パイプのみが立ち並ぶ異様な一画もあり、未使用のパイプが敷地内に残されていることから設置途中と思われるが、よく見ると地面に刺されたパイプの断面が既に錆び始めており、敷地内に敷かれた雑草繁茂防止用のシートを突き破って草が伸び始めていることから、何らかの理由でパネル設置工事が中断された可能性もある。
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さらに内陸に進むと、典型的な限界分譲地の趣となる。
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地価が安いためか、太陽光パネル基地に転用した空地が多い。
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単管パイプのみが残された異様な一画。

 この分譲地は比較的区画数の多いものの一つになるが、未利用地の割合はやはり多く、全体的に街路の状態は良好なものの、一部の街路は管理されていない。空き家と見受けられる家屋もいくつかある。ここには、千葉で格安の土地を探す方には既にお馴染みの日栄不動産がずいぶん前から広告を出している、土地面積140坪ほどの1軒の売家があるのだが、その売家に至る街路も雑草の繁茂が激しい。ちなみにその売家の南側にも太陽光パネルが設置され、売家自体の傷みも激しいことから、ちょっと現在価格のままでは成約に至るのは厳しいと思われる。

(参考:横芝光町木戸 売家 350万円http://fudosan.cbiz.ne.jp/detailPage/sale/70005/3144/?&allsup=70005&fr=g
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空き区画が多く残る分譲地内。
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街路は、舗装済みのところは状態は良好なものが多い。
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分譲地内にある空家。
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日栄不動産が広告を出す売家の周辺は家屋が少ないためか、街路の管理はされていない。
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現在も350万円で売りに出されている売家。
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売家の南側に設置された太陽光パネル。

 最後に紹介するのは、木戸の北端付近に位置する分譲地。周辺には民家は少なくペンションが目立つが、その一方で食品工場やクリーンセンターもあり、そしてやはり太陽光パネルの発電基地も多く、もはや別荘地か住宅地であるか以前に、工業用地との境も曖昧となってくる。元々横芝光町は九十九里沿岸の自治体の中でも、住宅用地の乱開発がすさまじい自治体のひとつだが、このエリアは特にその無計画ぶりが際立っている。

 分譲地に隣接して2軒のペンションがあるが、下に紹介する分譲地には家屋は1棟もなく、事実上、放棄住宅地の様相にある。その区画割りも異様で、文字通り鋭角に歪んだ、ほとんど三角形に近い不整形地もある。住民がいないため街路も管理されていない。ただこの分譲地自体は緑に囲まれていて、太陽光パネルもなければ、近隣の工場へ出入りする車両の通過道路ともなり得ない立地なので非常に閑静だ。排水路も設置されている。
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画像左側がペンションに隣接した分譲地。
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家屋はなく、非常に閑静だ。
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分譲地は管理不全の状態にある。
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どうしてこうなった、と言いたくなるような歪な不整形地もあり、利用が進まない原因もなんとなくわかる。
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周辺は非常に閑静だ。

 ということで、急ぎ足で木戸の分譲地をいくつか紹介してきたが、これらの分譲地を見た限りでは、海水浴場の休止の影響をあまり受けていないというか、おそらく海水浴場が現役であった時代からあまり状況は変わっていないのではないかと思われる。海水浴場が閉鎖された今日となっては、再び別荘地として脚光を浴びる可能性はほぼなく、木戸地区は横芝光町の中でも、特に格安の売地や売家の広告が多く頻繁に値下げも行われるので、九十九里方面の格安の土地を狙う方は、横芝光は穴場のひとつとも言えるかもしれない。海岸まで徒歩で行くには厳しい立地が多いが、そもそもどの分譲地も公共交通機関で訪れるには難のあるものばかりで自前の交通手段が必須であることから、どこも海へのアクセス手段に大差はないと言える。


旧木戸浜海水浴場周辺の分譲地へのアクセス(地図は本文の紹介順に並べてあります)