僕自身が現在、茨城県の旧大洋村の別荘地に新たな課題やヒントを見出してることもあって、ここ数回の記事はどれも大洋村の訪問記となっているが、その記事に添えた画像のほとんどが、既に朽ち果てた別荘の廃屋が立ち並ぶ寒々しい光景ばかりなので、読者の方の中にはもしかすると、現在の大洋村は、ただ廃屋が残されてるだけのゴーストタウンだと誤解している方もあるかもしれない。
 
 しかしそれは、当ブログが町のそういう側面をクローズアップさせる性格のものであるためで、大洋村自体は、今でも現役の別荘地として利用されている片田舎の町である。今後はそうした、現役の別荘地としての大洋村も積極的に紹介していきたいと考えているが、いずれにしても、今なお移住者の流入が続く別荘地であれ、大半の建物が廃屋と化した古い別荘地であれ、分譲当初は華やかに、別荘地らしい雰囲気を構築して盛んに販売されたものだ。
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 上の画像は、大洋村における別荘開発が始まってまだ間もない1981年に撮影された、建売別荘利用者の記念写真(一部加工済)である。大谷石で土留めされたひな壇の宅地に築後間もない三角屋根のかわいらしい別荘が並び、庭には境界線としてヒバの木が植樹され、各戸思い思いの菜園や芝生を拵えている。疑いもなくイメージ通りの別荘地の風景であるが、現在、この別荘地は、植樹された樹木は数メートルをゆうに超える大木となって一帯は山林と化し、大半の別荘家屋は朽ち果て、今となってはこの古い記念写真だけでは、所在地の特定などほぼ不可能だと断言できるほど変わり果ててしまっている。
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上の記念写真が撮影された別荘地の現況。40年の歳月を経て、もはや開発当初の面影はまったく残されていない。

 当初の別荘購入者は高齢となり、家族や相続人の多くは、今や地価が底値となった茨城の片田舎の不動産に関心はなく、再利用のあてもないまま放棄されていく。別荘でなく、居住用の住宅地として利用される分譲地ですら、維持管理が追いつかず荒れていくところもある中で、恒常的な利用者の少ない別荘地は、その管理はより困難であることは想像に難くない。

 こと大洋村においては、その別荘地のすべてが、およそ計画的とは言い難いミニ開発の繰り返しで、この別荘地の崩壊が局地的に発生しているのはなく、旧大洋村域全域に渡って静かに進行している事態であることが、問題をより深刻なものとしている。
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 さて本題に入るとして、今回の訪問先は、大洋村青山字広畑にある、山林を切り拓いて開発された古い別荘地である。大洋村の、まだ鹿島臨海鉄道大洗鹿島線の開通前、70年代後半から80年代前半にかけて開発された初期の別荘地は、旧大洋村役場からも、既存の農村集落からも離れた山林に位置するものが多い。

 旧大洋村を含む鉾田市は今でも、農産物の販売額が全国でもトップクラスに位置するほど農業の盛んな町であるが、開発当時は今よりさらに農業は盛んだったはずで、また永住者も増えた今日と異なり、当初は純然たる別荘利用を想定していたために利便性を考慮する必要もあまりなく、従って、宅地転用が必要な農地ではなく、比較的安価に買い上げやすい山林が開発のターゲットになったものと考えられる。
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古い別荘地は、人里離れた山林の中に位置するものが多い。

 グーグルマップを参考に、目指す青山の別荘地へ向かったのだが、途中、道を間違えてしまったようで、進めど別荘地らしきものは見当たらず、代わりに谷津田の向こうに、崖上に建てられたミニ別荘が見えた。おそらく以前紹介した電柱物件の一つであろうが、よく見ると、建物は歪に傾き、崩落が進んでいるのが遠目にも見て取れる。
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谷津田の向こうに見える崖上の電柱物件。
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拡大すると、建物が著しく傾斜しているのが確認できる。

 来た道を戻り、再度地図を確認すると、手前の二又を誤った方向へ進んでいたことに気付く。しかし、正解となる別荘地への道は、未舗装の隘路であることは言うまでもなく、途中に轍や陥没によって大きな水溜まりが出来ていて、自家用車での進入が躊躇われる。仕方ないので近くの空き地に車を停め、徒歩で別荘地へと向かうことにした。
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青山の別荘地へ続く未舗装の道。
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途中に大きな水溜まりができている。

 古い別荘地への道路はおしなべて整備状況が悪く、特に未舗装の道路を奥深く進んだ先にある別荘地は、今日の大洋村の主要な物件取得層(高齢者)に好まれず、大きく価格を下落させているものが多い。そんなことは大洋村に限らず当たり前の話かもしれないが、特に中古別荘の供給量が多い大洋村は、別段ストレスなく辿り着ける物件でも安価で入手できるので、本来なら、もっとも別荘地らしいロケーションとも言えるこうした山間の別荘は、元々の安普請の造りも相まって、今では市場での競争力を失ってしまっている。

 そんな未舗装の道をしばらく進むと別荘地が見えてくる。最初に見えてきた建物は、敷地内はキレイにされているので今でも利用されているものと思われるが、定住しているような雰囲気はなく、人の気配はなかった。別荘地を訪ね歩いて記事にする際に困ることは、居住用の住宅と異なり、別荘は空き家の定義が曖昧で、どのラインで別荘が「空き家」と呼べる段階になるのか判然としないことである。

 建物の利用やメンテナンスの頻度は所有者によって様々で、年一度程度の利用では、敷地内は雑草で覆われてしまうのが普通なので、別荘地では人の気配がないからと言って迂闊に空き家判定はできない。ただ今日の大洋村の不動産市場は、どちらかというと別荘利用より定住を想定したベクトルに傾いているので、定住者の有無が、別荘地としての判定基準のひとつになるかもしれない。IMG_20200422_121334
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管理はされているが、定住用途には見えない別荘。
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たとえ雑草に覆われていても、利用頻度が低いだけの建物の可能性もあり、別荘地では空き家の判別が難しい。

 奥に進むと、基礎だけが残された一画があった。これから建物を新築するにしては基礎が古びているので、おそらく何らかの理由で基礎以外の建物を除却したものと思われるが、これは危険なことだ。大洋村の別荘地は、北総とはまた異なる理由で、建物の解体が命取りとなりかねないリスクを孕んでいるからだ。
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基礎だけが残された一画。

 北総の場合は、単に更地の供給量が多すぎて市場価格が崩壊しているため、更地の市場価格では家屋の解体費用をカバーできないのが理由だが、大洋村の場合は、元々の地価の安さに加え、物件の主要な顧客層が、定年後の隠居を目的とした高齢者であるため、経済的にも、また年齢的にも、新築の家屋や広大な敷地を必要としておらず、北総以上に更地の需要がないのである。

 鹿島臨海鉄道の大洋駅の徒歩圏ですら、更地は坪1万円程度から販売されているものがあり、それでも動きは鈍い。数百万円程度の予算があれば、大洋村では良質な物件が選り取り見取りという状況の中、駅からも商業施設からも遠い森の中の更地は、もはや地元業者も見向きもしていない。仮にあなたが相続などで大洋村の別荘住宅を所有していて、それを利用する機会がなく持て余していたとしても、否、持て余しているからこそ、その建物の維持管理は生命線であることは強く念を押しておきたい。Screenshot_20200428-082902
駅徒歩圏でも坪1万円を切ってしまう大洋村の売地広告。(Yahoo!不動産)
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地元紙に折り込まれていた大洋村の物件情報広告。数百万円程度の予算で、移住用途として充分機能する良質な中古住宅は豊富にあり、新築用の更地のニーズは低い。

 続いて、ひとつ奥の別の分譲地に足を踏み入れてみる。先ほどの別荘地と異なり、こちらは同じ規格の三角屋根の建物が並んでいることから、当初の建売別荘がそのまま今でも利用されている模様だ。ここは『旧鹿島郡大洋村における「ミニ別荘」の現況と今後』(以下「真鍋レポート」)でも紹介されており、真鍋レポートでは定住者へのインタビューを行っている。
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「真鍋レポート」で定住者へのインタビューが行われた建売別荘地。

 真鍋レポートは既に10年以上前に作成されたものなので、当時インタビューを受けた住民が今でも居住しているかはわからないが、訪問時は、並ぶ住宅の1つからテレビの音声が聞こえ、洗濯物も干されていたことから、今でも定住者が利用していることは容易に推察できる。画像を見てもお分かりの通り、ここはいくつかの建物は傷みも見られるものの、分譲地全体の管理状況はとても良い。多くの別荘地では放置気味のヒバの木も、ここはキレイに刈り込まれ、良好な日照性を確保しており、開発当初の雰囲気を強く残した別荘地だ。
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初期の別荘地としては珍しく、適切な管理が行き届いている。
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一部の建物はあまり利用されている気配がない。

 ただこの別荘地が、真鍋レポート発表時と大きく異なるのは、当初は雑木林だった別荘地の西側が、現在は太陽光パネル基地として利用されていることである。当ブログでは過去に何度か、こうした居住空間に隣接した太陽光パネルの設置を批判的に紹介してきたことがあるが、別記事のコメント欄において読者の方から、下手に管理不全の区画や雑木林が増加するより、定期的に除草も行われる太陽光パネル基地があったほうが適切な住環境が維持できるのではないか、というご指摘を頂いた。
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別荘地に隣接して造られた太陽光パネル基地。

 なるほど、確かに大洋村の古い別荘地の現状を考えれば、もはや誰も管理しなくなって横枝まで伸び放題の雑木を放置し、周囲が鬱蒼とした山林と化していくのをただ待つばかりよりは、いっそのこと太陽光パネルを置いたほうが日照が確実に確保される。これは一理ある話で、なかなか判断に悩むところであるが、一方で、太陽光パネル基地の設置にもっとも強く反発しているのは全国各地の別荘地の住民でもあり、個々の住民の意見を聞いてみない限りどちらに理があるのか勝手な判断は憚られる。

 最奥部には、敷地内の雑草がキレイに刈り取られたばかりの「空き家」があった。見たところ室内外に生活用品らしきものは見当たらず、屋根や外壁にも傷みが見られることから、現時点では空き家と判断して差し支えないものと思われるが、ここは別荘地自体の管理状況が良好なこともあり、建物は古いながらも暗い印象は受けないものだった。IMG_20200422_121753
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現時点で建物が利用されている様子はないが、敷地内がキレイに管理された別荘。
 
 大洋村は農村地帯で、利便性に劣ることは言うまでもなく、雄大な大自然に抱かれた環境というわけでもないのだが、物件の取引は活発である。周辺には今も仲介業者が数多く営業し、鉾田市の中心市街地である新鉾田駅周辺よりも、むしろ大洋村のほうが取引は活況であると言われるほどだ。

 この家の持ち主が、今後この建物をどうするのか確認もしないまま勝手にこんなことを書くのも何だか、いくら屋根や壁が傷んでるにせよ、この程度の管理が保たれている物件であれば、売主が満足できる価格であるかは別として、少なくとも、地方の古い空き家にありがちな、どんなに値を下げても引き取り手が現れず手放せないという事態は、ここ大洋村ではまず起こり得ないと思う。
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 実際、大洋村の不動産市場では今でも、こうした初期の建売別荘であれ、まだ手直しして使える状況であれば、地元業者が僅かばかりの買取値、場合によっては無償で引き取った上で、リフォームを施し、自社売主物件として再び市場に放出するということが普通に行われている。

 初期の建売別荘は造りも簡素で建坪も小さいことから、腕に覚えのある方は自力でリフォームすることも珍しくないし、何より大洋村は、そうした形で格安物件が流通する仕組みが既に構築されているということが1番大きい。

 従って大洋村では、繰り返しになるが、それがどんなに安普請の建売別荘であろうと、物件の流動性を保つためには、建物の維持管理こそ至上命題であると言えるのだ。築古の家屋は価格がゼロ、というのは、あくまで固定資産税の計算上の話であって、土地値がどこも底値に落ちた現在の大洋村は、一部の例外を除き、建物価格がストレートに売値に反映されている。


【後編に続く】