【前編からの続き】
 「真鍋レポート」で扱われた分譲地を離れたあとは、さらに奥の分譲地へと足を運んでみる。航空写真を見るとよくわかるのだが、この先の分譲地は、ここまで訪問した、直線の私道の脇に均等に区画割りされた分譲地ではなく、入り組んだ急カーブの周辺に、無秩序に家屋が配置されているのが確認できる。おそらく丘陵の斜面に造られた、傾斜の強い別荘地で、森に埋もれた家屋は、前回紹介した「電柱物件」であることは容易に想像できた。
Screenshot_20200502-135353
急カーブの周辺の森に、家屋の屋根が埋もれているのが見える。
IMG_20200422_121925
 奥に進んでいくと、道路はやがて急な下り坂となり、谷底へと向けて大きくカーブを描いていく。軽自動車でも離合できない道路の幅員の狭さは、大洋村の別荘地はどこも似たようなものだが、行き止まりのため往来する車自体少なく、路盤は土や苔で覆われているところもある。水溜まりを避けるために徒歩で訪問したのは正解であったようだ。僕の車は四輪駆動ではないので、もしかしたらこの急坂で苔に車輪を取られてスタックしてしまっていたかもしれない。正直、徒歩で引き返すのもウンザリするような地形である。
IMG_20200422_122012
IMG_20200422_122207
IMG_20200422_122047
道路はかなりの急勾配で、路盤の一部は苔むし、四輪車で進入するのは躊躇われる。

 道路脇にはいくつかの電柱物件が点在するが、あまり利用されている様子はない。崩れ落ちていることはなく、時折は手入れはされているようなのだが、家屋の周辺は雑草に覆われ、敷地の入り口がどこなのかも判然としない。その中でも、とりわけ管理が悪く再利用が難しそうな家の前に「売物件」の看板が出されていた。取扱業者は、以前「八街市沖 投げ売りが続く最果ての分譲地再訪」でも紹介した大阪の某仲介業者のものである。北総のみならず、大洋村の物件にまで侵食しているのだ。
IMG_20200422_122004
IMG_20200422_122042
道路脇に点在する電柱物件。
IMG_20200422_122248
特に管理の悪い「売物件」。大阪の仲介業者が扱うものだ。

 「最果ての分譲地再訪」執筆時に調べた時は、「ラビーネット不動産」なるサイトに掲載されていたこの仲介業者の取扱物件数は約1900件だったのだが、今回、改めて調べてみると、いつの間にかその取扱物件数は2400件まで増殖していた。もちろん相変わらず、その取扱物件のほぼ全てが、誰がなんのために買うのかもわからない全国各地の山林や限界分譲地である。

 今回見かけたこの電柱物件は、気になるお値段はなんと500万円。大洋村なら、補修することなく即入居可能な、より利便性の高い築浅物件が買える金額である。
IMG_20200422_122328
seibujisyo
500万円で絶賛発売中。

 相場から著しく乖離した価格の売物件というものは、往々にして売主が現在の相場感覚を掴んでおらず、仲介業者の忠告にも耳を傾けることがないために出現してしまうものなのだが、限界分譲地を扱う業者の一部には、そもそも最初から売却を成功させる意志などなく、非現実的な査定額を呈示して売主に無用な期待を抱かせた上で、広告料やら調査料やらの名目で、成約前の段階で売主から手数料を徴収してビジネスを成り立たせているものがいる(もちろん宅建業法違反である)。限界分譲地を長年所有する所有者の元には、こうした違反業者からのダイレクトメールが届くこともある。

 この場では、この会社がその手の違反業者であると断定できる材料はないが、仮にこの業者がまともな仲介業者であったとしても、売主の方は、なぜ茨城県の土地の仲介を大阪の業者が手掛けることに疑問を抱かないのだろう。そもそも普通に考えて、大阪の中心部に事務所を構える業者が、こんな、遥か遠く離れた僻地の格安物件ばかり扱って、成功報酬である法定の仲介手数料のみで経営が成り立つわけがないのである。宅建業法云々以前の問題だ。

 売れないなら売れないで、価格を下げるなり、仲介業者を変えるなり、何かしら対応策はあると思うのだが、いくら売り急いでないにせよ、(売れるかどうかはさておき)数百万円もの価格を付けられた不動産を売りに出す姿勢としては、あまりに横着なものではないだろうか。
IMG_20200422_122257
IMG_20200422_122314
「売物件」の現況。外壁は剥がれ、もはやまともに使える状態ではない。

 もちろん、業法を守らない、詐欺まがいの営業を行う悪質な違反業者は厳しく指弾されるべきである。しかし、これだけ家余りが指摘される昨今、特に、今流行りの言葉で言えば「不要不急」のものである別荘の売却にあたっては、売主自身の積極的なモーションがなにより重要だろう。売却・処分に向けての調査や工夫も、まぎれもなく「管理」のひとつであるはずなのだ。

 確かに電柱物件の処分は困難なのかもしれないが、得体の知れない業者の言いなりになって、何もかも丸投げにしていては、決まるものも決まらない。この物件などは敷地の管理すらなされず、ただ朽ち果てるのを待つばかりである。


IMG_20200422_122823
 「売物件」のある別荘地を離れて、北東にある、やはり急カーブの街路の別荘地へも向かってみるが、状況は何も変わらないどころか、余計ひどくなっていく。道路は苔で緑色となり、ヘアピンカーブの周辺に、朽ちた電柱物件が立ち並ぶ。
IMG_20200422_122837
IMG_20200422_122948
IMG_20200422_123128
鬱蒼とした森の中を貫く苔生したヘアピンカーブの脇に、古びた別荘が並ぶ。

 頭上に電柱物件のテラスが見えるが、腐朽が進み既に手すりは失われ、うかつに体重を掛ければ踏み抜いてしまいそうな様子だ。特に勾配のきついこのあたりの電柱物件は、地面との高低差は2階建て家屋を超えるほどで、放置するにはあまりに危険なものである。いくら右肩上がりの地価上昇時代に作られた別荘とは言え、老朽化に伴い起こり得る事態を、誰もなにも想定できなかったものなのだろうか。それは今の時代だからこそ言えることなのだとすれば、なおさら開発ラッシュの時代は異常なものだったと判断せざるを得ない。とは言っても、過ぎた時代のことを振り返ってばかりいても仕方ないので、いま問われているのは、これら残された膨大なストックを、どのように管理・始末していくか、という点であろう。
IMG_20200422_122839
IMG_20200422_122856
2階建て家屋よりも高い位置にある老朽化したテラス。斜面の下(撮影位置)は道路だ。
IMG_20200422_123011
IMG_20200422_123149
玄関前の踏み台が朽ちた別荘。電柱物件はこのような管理状況の厳しいものが目立つ。


 と言うことで、今回は山林に点在する別荘地を駆け足で紹介してきたが、冒頭で紹介した記念写真が撮影された別荘地のように、限界分譲地の家屋や住宅地というものは、管理が行き届かなければ、想像を絶する速度で荒廃が進んでしまうものである。

 「適切な管理」などと口で言うのは容易いものの、現実には個人の力では抗えないものもあり(他者の私有地を勝手に管理する権限もない)、地域の荒廃の責任を、ただひとり区画所有者のみに負わせるのは不合理だが、物件の流動性を守るため、せめて自分の所有地だけでも、良好な管理を行うよう訴えたい。これは他ならぬ僕自身も心掛けなければならないことだ。

 今日は空き家が増加していると言っても、その空き家がすべて利用可能な状態で再度市場に放出されるわけではない。同じ分譲地の空き家でも、道路一本挟めば条件は変わるし、買い手が求める条件も千差万別である。世の中のすべての人が、利便性が高く豪奢な不動産を求めているのならば、大洋村の仲介業者などとっくの昔にすべて駆逐されているはずなのだ。確かに、いくら安くても誰も欲しがらない不動産が多々あるのも事実だが、それは所有者が自分1人で判断できるものでもないと思う。土地の市場価格が崩壊した今、それを手放せるかどうかは、売却の準備も含めて、管理がすべてなのだと考える。人任せにした廃屋が500万円で売れた時代は、もはや遠い過去のものだ。



アクセス 

鉾田市青山
・鹿島臨海鉄道大洗鹿島線「北浦湖畔駅」より徒歩50分