山武杉が立ち並ぶ森林地帯を抜けたあとは、九十九里平野に足を伸ばして被害状況の確認に回ったが、探索日にはすでに、平野部では停電の解消も進み、山間地で時折見られた給水所の施設もなく、一見すると平穏を取り戻しているかに思われた。

 もちろん、山間部、平野部問わず、屋根や外壁などに損壊が見られた被災家屋は頻繁に目にしたが、当ブログは元々、居住中の特定の個人宅に焦点を当てて必要以上に言及することは原則として控えているので、そうした個人宅における個別の被害状況については、ここでは詳しく触れない。

 そこで九十九里平野から再び山間部に戻り、多古方面の分譲地を訪問することにした。訪問時は、多古方面も広範囲で停電が続いていて、電柱の倒壊などの報告もTwitter上で相次いでおり、倒木によって、隣接する芝山から多古町への車道も寸断されている状況であった。


【多古町十余三 倒木が引き起こした宅地の崩壊】

 訪問したのは、「ニュータウンと農村の境界線① 多古町編 新堤台分譲地」の記事で紹介した、多古町十余三の分譲地である。タイトルでは便宜上「新堤台分譲地」と記したがこれは最寄りのバス停留所名から僕が付けたもので、正式名称は不明の小さな分譲地である。

 ここは訪問記事でも述べたように、分譲地の管理状況が非常に悪く、分譲地内の道路は一部は既に山林と化し通行困難な状態となり、団地内に残る未舗装道路は泥に覆われ、目に余る状態であった。

 訪問後しばらくしてから、この分譲地内の40坪弱の更地が50万円で売り出されたが、狭い上にご覧の通りの状況なので買い手が付く気配はまったくなく、事実上放置状態である。
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多古町十余三、新堤台バス停近くの分譲地。(2018年3月撮影)
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降雨によって泥沼と化した分譲地内の道路。(2018年3月撮影)
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訪問後から売り出された上画像内の一画。(Yahoo!不動産より転載)

 この分譲地はすり鉢状の窪地に造成されており、周囲はどこを見渡しても鬱蒼とした雑木林で、その山林が徐々に住宅地まで侵食している状態なのだが、それとは別に、宅地造成後に植樹されたと思われる杉(? 確認忘れです。すいません)が、造成後長い年月を経て電信柱以上の背丈にまで成長し、今なお更地に残されている。

 別荘地などでは、分譲販売時に買い手の印象を良くするために敷地内にヒバの木などを植えることは多く珍しいことではないのだが、困ったことにこの分譲地は、擁壁上の宅地にまで、しかもあろうことか擁壁脇ギリギリに植樹されており、生育した根による圧迫や、それに伴う地盤の緩みによって発生した擁壁の間知ブロックの歪み、損壊が進行している状態であった。
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分譲地の更地には、宅地造成後に植樹されたと思われる杉が残る。(2018年3月撮影)
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植樹の根元近くの擁壁の間知ブロックは、損壊が進み、歪んでいる。(2018年3月撮影)

 とは書いたものの、実は正直に言うと、僕は今回、この擁壁の模様を確認するためにこの分譲地を訪れたわけではない。暴風雨によって擁壁の損壊が進行するなどとは僕は想定はしておらず、当初はあくまで、この分譲地を取り囲む雑木林と、ダートと化した分譲地内の私道の模様を確認するために訪れたのだ。

 分譲地に入ると、クレーン車を利用して、そんな樹木の枝木の伐採を行っている模様が見られた。その木は特に損傷が起きているものでもなかったが、先にも述べたようにこの分譲地の樹木は、既に電信柱を超える高さで、これ以上生育すれば電線に干渉しかねない。あるいは既に干渉していて、復旧作業の障害となっていたために伐採していたのかもしれない。
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クレーン車を利用しての枝木の伐採作業。
  
 当初の想定とは裏腹に、最初は特に分譲地内に変わった様子はないと思われた。一棟、ベランダが崩落してしまっていた住居があったが、懸念していた周囲からの倒木も見えず、居住エリアへの被害は比較的軽微なものであった。

 ただ正直言って、分譲地の管理状態は、1年半前の訪問時よりさらに悪化している。季節が夏というのもあるのだが、雑草に覆われた道路は、まだ住宅があるにも関わらず歩行困難で、分譲地内は、まだ居住者が残る家屋へ向かう動線のみを確保しているだけ、と言っても過言ではない有様であった。
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居住空間は特定の家屋を除き著しい被害は見られないが、台風被害とは関係なく、管理状態の悪化が進んでいる。
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既に歩行も難しくなった宅地前の私道。
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損壊してしまったベランダの残骸。

 この分譲地は、入り口から離れた奥の区画はほとんど更地で、その境目は周囲の山林と見分けがつかなくなっているのだが、それらの更地区画へ足を運んでみると、擁壁上の宅地に植樹された樹木が、強風によって根こそぎ倒木してしまっているものが見受けられた。
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奥の区画はほとんど更地で、山林化が進行しており、宅地との境界も判然としない。
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強風によって根ごと持ち上げられ倒れた擁壁上の樹木。

 今回の台風被害における報道によって僕も初めてその名を耳にしたのだが、千葉県における杉、それも主に山武杉は、長年続いた杉林の管理不全により「溝腐れ病」という病気が蔓延し、それが倒木被害を深刻にしているらしいのだが、病に侵された杉の多くは、根が持ち上げられる前に折れて倒れてしまったのに対し、ここは折れることなく、根ごと倒木している。そしてあろうことか、その根が擁壁を粉砕してしまっていた倒木も見受けられた。
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持ち上げられた根によって破壊されてしまった擁壁の間知ブロック。

 間知ブロックを破壊した樹木は杉ではないようだが、造成後に生育した樹木であることは間違いない。これは改めて指摘するまでもなく、そもそも樹木と擁壁の間知ブロックの位置が近すぎるのである。仮に倒木がなくとも、根が擁壁を圧迫して損壊が進むことは先にも述べた通りだ。

 当ブログでもこれまで指摘してきたように、擁壁工事というものは、規模によっては家一軒建てられるほどの多額の費用を要する大掛かりな外構工事である。この破壊された擁壁は、さして高低差もないものだが、すぐに利用可能(?)な更地が40坪弱で50万円のこの分譲地で、この擁壁を修復して利用する者が現れるかどうか。よく考えてみるまでもないだろう。擁壁は、宅地にのみ構築されるものでもなく、その適切な利用方法を改めて考え直す好例と言えよう。



 と言うことで、前中後編の3編にわたって、今回の台風15号がもたらした分譲地の被害状況、という視点で、いくつかの実例を紹介してきた。

 既に報道などでも知られているように、台風は房総半島全体にわたって多数の家屋被害を引き起こしたものだが、それらの被害状況の模様は、また報道による続報や、被災者によるSNS発信に任せ、当ブログではあくまで、住環境に深刻な影響を及ぼす台風被害のみに焦点を当てている。それは当ブログの性質上、そのようにならざるを得ないことはご了承いただきたい。

 ただ僕は、今回の台風被害を間近で経験したことをもって、都市の記録を保存する重要性を改めて認識している。災害国である我が国の都市は、激甚な大災害に見舞われるたびに、その姿を大きく変貌させてきた。当たり前の日常として、気にも留めていなかった身近な風景が、ある日を境に、二度とその姿を目にすることが出来なくなる。記録に残らなかった風景は、やがて人々の記憶からも消えていく。

 当ブログは、別に都市の景観を記録することを主目的として開設したものではないのだが、取るに足らない記録でも、後に活かすことができるのなら、他の予定を犠牲にしてでも訪ね回った甲斐があるというものだ。
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