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【山武市埴谷・杉林に覆われた分譲地におけるリスク】

 山武市の旧山武町エリアは山林が多く、今回の大規模停電で、千葉県北部においてもっとも復旧の遅れている地域のひとつである。当記事の執筆時点(9月17日)で、旧町域における中心的な住宅団地である日向台も含め、未だほぼ町域全域にわたって停電が続いている。

 下の画像は、9月17日時点で東京電力が発表している山武市の停電状況である。町名に「松尾町」が付かないものは、そのほとんどすべてが旧山武町に位置する町名であり、また旧松尾町においても、停電地域の大半が、やはり山武町同様山林の多いエリアで、いかにこの地域での被害が甚大であるか伺える。
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東京電力が発表している9/17時点での山武市の停電状況。その大半が旧山武町、旧松尾町の山林地帯だ。

 旧山武町において復旧が遅れている最大要因は、やはりこの町が「山武杉」として知られる杉の一大生産地であることに起因しているのはほぼ間違いない。今回、台風通過後に山武町の山林の合間を縫う車道を自家用車で走行してみたが、道路脇に迫る杉林の倒木は凄まじく、電線に干渉して放置されているものも多数見受けられた。
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旧山武町に広がる広大な杉林。暴風雨により、無数の倒木被害を引き起こした。
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強風によって圧し折れた杉。(芝山町新井田新田)
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車道脇の電線を圧迫する杉の倒木。停電の復旧を阻む最大要因であることはもはや疑いはない。(山武市埴谷)

 我が国では、千葉県に限らず、高度成長期以前に林業が盛んであった地域の山林はどこも、伐採跡に杉の植林が盛んに行われてきたが、林業の衰退とともに、放置された管理不全の杉林は増加の一途を辿り、現在各地で様々な問題を引き起こしている。

 国内林業の衰退要因は、安い輸入木材の流入によって国産材の競争力が低下したことが原因であるが、長く衰退が続く日本の林業・製材業界では、製材設備の更新や技術の刷新も低迷したままで、今日では国産材は価格面だけでなく、その品質においても競争力を失いつつあるという指摘もある。

 林業の復興を呼び掛けるのは容易いが、現状では、山武市においても、居宅や事業所の薪ストーブ設置の補助金を出したりする程度で、抜本的な改革、解決には未だ遠い。
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林業の衰退によりかつての植林で形成された杉林は荒れ、放置されている。
 
 そんな旧山武町は、これまで当ブログでもたびたび指摘してきた通り、ミニ開発の限界分譲地が町域全域にわたって展開されている町である。その中には、元からある杉林を、まるでくり抜くように強引に造成した、周囲全体が杉林に覆われているような分譲地も珍しくない。分譲地に限らず、背後に杉林が迫った住宅など、林業の町である山武においてはごく普通の存在で、Twitterでも、そんな杉の倒木によって損壊してしまった家屋の画像がたびたび拡散されていた。

 山武町の分譲地は、車両1台がようやく通行できるような細い横道の奥に位置するものも多く、倒木の状況が掴めない中ではむやみに進入することもできないが、今回は、ブログの開設初期に発表した古い記事であるが「山武市埴谷 雑木林に覆われた分譲地」で紹介した分譲地を再訪した。
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山武市埴谷の杉林の合間に造成された限界分譲地。(2017年12月撮影)

 そもそもこの分譲地は、すでに前回の訪問記事でも手厳しく指摘しているように、今回の台風被害の報告を待つまでもなく、別荘ならまだしも、居住用の住宅用地としては、その立地や造成手法にきわめて強い疑問が残る、紛れもない乱開発の産物である。記事執筆当時は、正直言って僕自身も、これらの杉木の倒木リスクを想定していたわけではなかったが、平常時においても住居の適切な管理に余計な手間が発生しかねない住環境である。

 分譲地の進入路が接続する市道でも、杉の倒木が電線を圧迫している光景が見られたが、分譲地の背後にある杉林も、数多くの倒木と、強風によって飛散した杉の枝木が無数に散乱している。IMG_20190915_113914
分譲地前の市道。幾本もの倒木が見られる。
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分譲地の背後に迫る杉林も、倒木や枝木が散乱しているのが見て取れる。

 分譲地の進入路は倒木で塞がれていることはなく、車両の通行できる状況は確保されている。しかしこれは、台風上陸後数日経過してからの訪問であり、路上には枝木が一切散乱していないところを見ると、すでに住民によって、車両の通行を阻むような飛散物の除去は行われたのであろう。

 指摘しておかなければならないのは、現在、被災地域において連日、倒木の撤去作業が行われているが、それはあくまで幹線道路を始めとした公道や、そうでなくとも電力の復旧作業を妨げる喫緊の場合を除き、私道上の倒木や飛散物は、私道負担者の自己責任で撤去するのが原則であるということだ。

 この分譲地の私道が、台風通過直後にどのような状況であったかはわからないが、ともかく私道負担のある分譲地には、そのようなリスクもあるということは述べておかなくてはなるまい。
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雑木林の中に造成された分譲地の、台風通過後の模様。路上の飛散物は撤去されたようだ。

 前回訪問時とは季節が異なるため空き地は雑草の繁茂が激しいが、入口付近は一見すると変わった様子はない。ちなみに上の画像、一番手前にある、やや外壁が汚れた白い家は、前回訪問時は居住者がいたのだが、その後、不動産ポータルサイト「アットホーム」で、178万円という妙に半端な売出価格で広告が出されていた。

 価格もさることながら、比較的八街市内に近い立地であるためかお気に入り登録者数は多く、その後広告が消えたのでてっきり成約したかと思っていたのだが、見たところまったく利用されている気配はない。ベランダには飛散した杉の枝木が引っ掛かり、雨樋も落葉などで完全に詰まっているのが見える。
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前回訪問時には居住者がいた家屋は178万円で広告に出されていたが、利用されている様子は見られなかった。
 
 少し奥に進んでみると、この空き家と、隣家の背後では、いくつかの倒木が見られた。中には根ごと持ち上げられ倒れたものもあるが、それよりさらに奥を見ると、杉林が続いていたはずの南側の杉が、ほとんど失われて、伐採された杉の丸太が積み上げられ、更地に近い状態になっている。

 たまたま台風襲来時期に通常の伐採が行われていたのだろうかと考えたが、なおも停電が続き倒木の撤去に追われる山武町において、通常の伐採作業を続行する余裕があるとも思えない。傾き、圧し折れた杉も幾本も残されているところを見ても、やはりここも倒木被害が発生していたのであろう。
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宅地背後においても倒木が発生し、根こそぎ倒れた杉木も見られる。
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この分譲地は元々南側はすべて杉林であったものが、南側の一部は杉が取り払われ、更地に近い状態になっている。

 この分譲地は家屋は5戸しかないのだが、幸い見たところ、倒木が家屋をなぎ倒すような甚大な被害は出ていない。玄関の軒屋根などに一部損壊が見られる家屋もあるが、倒木によるものかは判然としない。だが、同町内において実際に倒木による家屋の損傷被害は発生しており、これは紙一重と言っていい際どいものだろう。
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屋根などに一部損壊が見られる家屋もあるが、倒木による甚大な被害は見られない。

 我が国は世界有数の災害国であり、台風のみならず、豪雨による河川の氾濫や土砂災害を始め、豪雪、地震、そして竜巻まで、あらゆる自然災害が毎年どこかで発生する。そのような国において、ただ倒木リスクのみばかり考慮して居住地を選択してもいられない事情も、もちろんあり得るとは思う。

 しかし今回の台風で、少なくとも、樹齢を重ねた杉木の大木は、強風によっていとも簡単に圧し折れ、そしてそれが大規模停電を引き起こす要因となり得ることは広く教訓として共有されなければならない。先にも述べたように、かつて林業が営まれた日本の山は、どこも杉林に覆われているのである。千葉県では未曾有の台風災害かもしれないが、同様の巨大台風が、別の地域の杉林を襲うことは、今後も充分考えられるはずだ

 とりわけ山武市においては、町内の杉林の奥地にまで、無計画な住宅地が展開されているのである。山武のような交通の便の良くない町において、これから人口減少時代を迎えるにあたって、それら乱開発の遺産が、すべて住宅地として需要を満たす日は永遠にやって来ない。今回の台風を機に、それら杉林の奥の限界分譲地のあり方も、大きく見直す時期に来ているのではと、僕は考える。それでなくとも、すでに市場においては、築30年の中古住宅が、178万円などという無慈悲な査定額で流通しているのだから。
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(後編へ続く)