前回、山武市横田の分譲地を「誰得ニュータウン」として紹介した記事にコメントを寄せて下さった読者の方より、この分譲地の近隣にある別の分譲地の模様をお伝えいただいた。山武市北部、旧山武町エリアにおいては、前回の「誰得ニュータウン」の分譲地は、別にあれが突出して条件の悪い分譲地というわけではなく、と言うより、近隣にはそれこそ同じような悪条件の分譲地が至る所に存在する。
その全てを紹介することは困難であり、僕も情報提供を頂いた分譲地は、そこに分譲地があることは知っていたものの、これまできちんと調べたことはなかった。ところが、ストリートビューを確認したところ、その分譲地もまた、見て見ぬふりをできない深刻な事態に陥っている様子であったので、僕の自宅からも遠くないので、今回、軽く調査してみることにした。
その分譲地は、枝垂桜で知られる妙宣寺から近い所にあり、分譲地前の道路は現在、成東と成田空港を結ぶ「さんむウイングライナー」の路線となっているが、あいにくウイングライナーはこの分譲地前は素通りし、最寄りの「山武北小学校」バス停までは徒歩で25分ほどかかる。ただ八街駅からのバスの停留所は徒歩10分程度のところにあり、1㎞ほどの位置にローソンのある旧山武町の旧市街に出るので(市街地と言っても非常に規模も小さいが)、前回の横田の誰得ニュータウンと比較すればまだしも利便性の面で恵まれている。
ところがその分譲地に近づいてみると、入口にはさっそく「不法投棄禁止!」と書かれた、旧山武町が設置したバリケードが目に入る。このバリケードは、旧山武町において、家屋がほとんど、あるいは一切建築されていない分譲地によく設置されており、おそらく旧町制時代、全く利用の進まない分譲地における不法投棄が後を絶たなかったのであろう。市制施行から十数年が経過した今も各所に残されている。そしてこのバリケードは今日、利用の進まない限界分譲地の存在を知らせる目印ともなっているのである。ただこの分譲地に関しては、僅かながら居住者もいるので、全ての入口がバリケードで封鎖されているわけではない。
中に入ってみると、所々は家庭菜園用地として転用されているが、大半の区画は草刈りもされておらず、僅かに数区画のみ、おなじみの草刈り業者の看板が見える。この分譲地の土地は現在、1区画が売地としてYahoo!不動産に広告が出されており(リンク先・https://realestate.yahoo.co.jp/land/detail_corp/b0011793987/)、52坪で150万円とのことなので立地の割には安くないのだが、点在する家屋はそれなりに豪奢なものが多い。北総の分譲地では、利便性を度外視してでも土地の取得費用を抑え、その分建物にお金をかける方も珍しくないのだが、ここの分譲地もそのような方々のニーズがあったようだ。
分譲地内には巨大な調整池があり、また個々の更地をよく見ると、水道の蛇口が設置され、「ガス管注意」と書かれた杭も目に入ることから、ここは当初は集中井戸、集中浄化槽、集中ガスの完備した分譲地として開発されたことが分かる。もちろんこの戸数ではそのどれも正常に機能しているかは怪しい。
これだけ見ると、戸数が少ないだけで、一見すると周辺の他の限界分譲地と変わることのない「山武では」ごくありふれた平凡な分譲地であるが、読者の方はGoogleストリートビューの撮影画像をもとに、利用されることなく放置されたビルドインガレージの存在を指摘していた。そのビルドインガレージは分譲地の南側、調整池の前の区画に位置している。
ガレージはシャッター付きで堅牢に造られてはいるが、あいにく車両1台分しかない。既に当ブログでは繰り返し指摘しているように、バス便すら途絶しつつある北総の限界分譲地においては、複数台分の駐車スペースの確保に難のある更地や空き家は極端に流通性が劣る。男が働きに出て、女は家事で家を守る、なんて旧い発想で造られた分譲地や家屋は、時代から取り残されていく一方なのである。今はママが、出勤途中に子供を学校まで自家用車で送る時代なのだ。
と言うことでこの分譲地においても、シャッター付きガレージの区画は、見事に一つの家屋も建てられていない。そしてよくよく見ると、その区画はひどく荒れている。いくつかのシャッターは無惨に破壊され、区画も単管パイプで封鎖され、不法投棄もひどい。「wktk」(ワクテカ?)などと書かれた謎の落書きもある。家屋もなく、人目にも付きにくいこの分譲地は、行き場のない山武の不良少年のたまり場と化していたことが伺える。
このシャッターガレージの区画のすぐ近くには、集中浄化槽と思われる設備もあるのだが、おそらく現在は稼働していないであろうことが伺える佇まいであった。既に周囲は樹木が植生し近付くこともままならない。集中浄化槽は多額の維持管理費を要するので、僅か数戸の家屋しかないこの分譲地では放置されるのもやむを得ないが、この分譲地は、その共有設備のほどんどが半ば放棄状態にあり、公園ですら雑草で覆われて立ち入ることも困難で、ゴミ捨て場にすら木が生えている始末だ。分譲地内にはカーブミラーもいくつか設置されているのだが、故意なのかは分からないのだがミラーも割れたまま放置されている。
それにしても、だ。破壊されたシャッター、割れたカーブミラー、不法に投棄されたゴミ、荒れた公園、そして落書きと、何とも惨憺たる光景だ。僕はこのブログではこれまで、この単語だけは絶対に使うまいと決めてきたのであるが、今回は使わざるを得ない。これではあまりにも、ステレオタイプの「スラム」のイメージそのままではないか。しかしこの分譲地が「スラム」と大きく異なるのは、先にも指摘したとおり、いくつか建つ家屋はむしろ豪奢で贅沢なものなのである。
僕は不思議で仕方ない。少なくない方にとって、自分の家屋の性能が良ければ、その周囲の環境など取るに足らないことなのだろうか。否、そんなはずはない。北総においては既にその資産価値を云々するのも空しくなるような地価に到達しているとは言え、本来、周辺環境というものは、その資産価値を決める重要なファクターのひとつであるはずだ。だが現実問題として、この分譲地の荒廃を、周辺住民に修復を要請するのは酷な話である。そもそも住民に、他者の土地にあれこれ手を加える義務もなければその権限もないし、そんなことに多額の費用を費やせる方もまれであろう。
であるならば、そもそも大前提として、行政はこんな分譲地に建築許可を出すべきではない。バリケードを設置したからには、この分譲地がどんな状況に陥っていたかは、旧町役場はよく把握していたはずだ。古くから建つ家は仕方ないとしても、この分譲地は、現在もなお、その気になれば住宅の建築は可能なのである。山武市は財政基盤が弱く、都市整備に多額の予算を回せない自治体であるからこそ、本来は建築許可をもっと厳格にしなければならないのだ。ところが山武を含めた多くの自治体は、「人口減」に怯えるあまり移住者の呼び込みに躍起で、どこでも良いから住んでくれ、どこでも良いから企業が進出してくれと言わんばかりに、いまだに土地利用の野放しが続いている。結果として市内にこんな状態の分譲地が増加していけばどうなるか。果たして新規の移住者の歓心を買うことが出来るか。誰に聞いてもその回答は明白であろう。「山武杉」で知られるこの自然豊かな山武の町に、「スラム」のような風景を増やしてはならないのだ。
荒廃したまま利用される分譲地へのアクセス
山武市埴谷
- 圏央道山武成東インターより車で11分
- 成東駅よりちばフラワーバス「さんむウイングライナー」 「山武北小学校」バス停下車 徒歩25分
- 八街駅よりちばフラワーバス八街線 「妙宣寺」バス停下車 徒歩10分
コメント
投稿、お疲れさまです。
吉川さんの文章は、自分にハマッているようです。
読書量の多い方なのでしょうか
この分譲地は舗装路で集中浄化槽、擁壁も少なく業者にとっても
意欲的な分譲地と思われますが、この閑散ぶりは‥
周辺には家屋埋まってる分譲地ありますが差はなんなんでしょうかね
>>tys9773さん
コメントありがとうございます。この分譲地は、確かに共有設備の他に公園なども備え、業者としても、ただ適当に分譲しただけの宅地ではなかったとは思うのですが、推察するに、その分、周辺の他の分譲地よりも販売価格が高かったのではないでしょうか。共有設備のある分譲地は管理費もかかりますので、今は管理費を徴収しているかはわかりませんが、分譲当初、高額の管理費を提示していたのかもしれません。
建物が埋まっている分譲地は、おそらく建売販売が同時に行われたところだと思います。地元業者の中には、こうした農村部を中心に建売販売を行っていた業者もあります。
ところで僕は、以前は多分普通の人に比べれば読書量は多かった方だとは思うのですが、結婚してからは、部屋で一人で過ごす時間が少なくなり、またこの辺りには書店も少ないので、今はほとんど読まなくなってしまいました。ただ読書量が多いとは言っても、僕は古本屋で適当に目についた本を買って読んでいただけなので、生かす機会もない雑多な知識が浅く身についただけですね。
こんにちは
周辺のミニ分譲地と比べると一戸あたりの敷地も広いし建物も立派だし
比較的新しい分譲地なんでしょうか?
集中浄化槽のあたりは特に荒れてるように見えますし
火遊びでもされないといいんですが・・・
ところでこの分譲地の東側に比較的建物もある住宅地を
ぐるりとソーラーパネルで囲まれた不思議な分譲地があるのが気になります。
ストリートビューだと外周部の擁壁が荷崩れした区画なのですが
全てソーラーパネルに置き換わっているようで
つつじが丘より惨い感じに見受けられますが・・・
いつも楽しく読ませていただいております。
ご承知の方も多いとは思いますが、とうとう土地を適切に管理しない所有者の所有権を制限する法案が次の通常国会にて成立する見通しですね。
「責務を果たさず周辺に悪影響が出ている場合」とあるので、なかなか雑草の生い茂る分譲地への適用は容易ではない可能性がありますが、一歩前進のようです。
一部新聞報道では所有者自ら所有権を放棄できる法整備についても言及がありました。
もしかしたらこのブログも影響しているかも?
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO41332630V10C19A2EA4000?s=0
最近の更新では ”毒” 吐きまくりですね
ストレス溜まっていませんか?
> 僕は不思議で仕方ない。少なくない方にとって、自分の家屋の性能が良ければ、その周囲の環境など取るに足らないことなのだろうか。
のくだりですが
私が以前住んでいた郊外の自然たっぷりな分譲地ですが
民度の低い人たちが住むようになってからは
共用部のゴミなどは片そうともしないし、除雪もしません
分別しないでゴミを出し、行政から注意されても改善しない
(子供と)公園で遊んだら遊んだまま、私物の遊具すら片さないし
当然、町内会の運営にも参加しようともしません
自分ちの雑草すら取らない
整備して、資産価値を高めようともしない
住環境に興味がない
じゃあなんのために一戸建てを建てたんだ?
と思って住んでおりました
大手企業の工場勤務で、金はある、でもモラルはない
仕事が機械やモノ相手の単純作業だから普段の生活でも頭や心を使わない
お客様や営業先・取引先などと接しないから周囲の人間に心配りができない
そんな連中が集まるとこのような荒廃した分譲地になるんではないでしょうか
はくびしんさん
横から失礼します。
はくびしんさんの言われている新流入者によるモラルの問題は、どちらかと言えば都市近郊の団地(このブログで紹介されている住宅団地ではなく、古いURのように5階建て中層棟が立ち並ぶ団地)で深刻な問題のように思えます。
この分譲地に関して言えば、単純に立地や価格等が原因で人が増えず、結果として共有施設が荒れたり空き地が不法投棄の場となってしまっていると思います。
これらは居住者で解決できる問題ではなく、責任を居住者に求めるのは酷であり、責任を居住者に求めたところで、問題は何も解決しないでしょう。
私個人としては、この分譲地には所ジョージの世田谷ベースのような、趣味人を呼び込む事が出来れば、再生すると思います。
空き地は多くとも、大きなログハウス風建物やこぎれいな倉庫、手入れされた家庭菜園が広がれば、「荒廃」のイメージは払拭できるでしょう。
そのためには不法投棄ゴミの撤去はもちろん、行政・住民・開発会社が協力する必要がありハードルは相当高いですが、せっかく気合い入れて造成した分譲地なので、是非とも陽の目を見てほしいです。
>>@ヤマさん
こんばんは。いつもコメントありがとうございます。
登記簿を見ていないので正確な分譲時期は未確認ですが、旧山武町の、特に駅から遠いエリアの分譲地は、八街や富里、旧下総町よりも開発時期が遅く、80年代半ば頃のものが多いようです。
また、90年代に入ってから開発された分譲地は、ちょうどバブル崩壊後で、その分譲地のスペックに関係なくほとんど住宅建築が進んでいない傾向がありますね。この分譲地も、おそらく80~90年代の開発と思われます。
ところでご指摘のソーラーパネルの分譲地は僕も未踏査ですが、80年代、90年代の比較的新しい分譲地は、70年代のものと違い、開発、分譲業者がまだ存命であることがあります。既にいったん個人に分譲されてしまった分譲地では、このようにまとめて太陽光パネル基地に転用するのは効率的とは言えないので、あくまで予測ですが、当初の開発分譲会社が、余った区画を一括して太陽光パネル用地として販売してしまったのではないでしょうか。
>>nrk21194さん
こんばんは。コメントありがとうございます。
ご指摘の通り、対象となる不動産はもっと広大なものか、あるいは劣化が著しい建造物等を想定したもので、なかなか小間切れにされた小さな分譲地まで目はむけられないとは思いますが(地元自治体も総じて無関心ですし)、流れとしては良い方向に進んでいると思います。
ただ、僕のブログはアクセス数も低く、とても社会を動かすほどの影響力はないです(笑)。
>>はくびしんさん
こんばんは。コメントありがとうございます。
ここ最近の更新は以前と比較してそれほど毒を吐いていたでしょうか…? ここのところ更新頻度が低いので、一つの記事にいろいろ意見を詰め込みがちではあるのですが、筆致は開設当初から変わっていないと自分では思っております。ただどちらかといえば、再利用の見込みが薄い、自然に還した方が良いのではと内心感じている分譲地はボロクソに書く傾向があります。
さて、別の方からのご指摘もありましたが、確かに住民の気質によって住環境が悪化してしまうケースは多々あるとは思いますが、この分譲地に関しては事情が異なるのではと思います。ここは僅かな戸数の家屋しかないのですが、荒れ果てた分譲地にあとから家屋が建ったのか、家屋が建てられた後に荒廃が進んだのかわからないためです。いずれにせよ、当ブログで紹介する分譲地は、住民の方がどんな方で、どのような職についているか、私は何も知らないので、住民気質について言及するのは控えております。そもそも私自身の仕事がバス運転士なので、多少はお客さんの応対もありますが、基本的には機械相手の単純作業ですから、あまり人の職についてとやかく言えた立場ではないです。
はじめまして。
私は、庭で犬を走らせることができるような広い土地に家を建てたくて、茂原・東金・成田北部・八街など地価の安い地域を探し回り、15年ほど前に旧山武町の住人となりました。
貴殿のブログに紹介されている住宅地のほとんどは、当時私がネットの激安不動産サイトを頼りに走り回った場所であり、懐かしさと同時に「ああ、やっぱり買わなくてヨカッタ!」と顔を引きつらせながら拝見させていただいている次第です。
直球ながら不動産愛(という言葉があれば、だけど)とユーモアのある文章に惹かれます。お忙しいでしょうが、更新を心待ちにさせていただきます。
余談ですが(もうご存知かもしれませんが)、山武市埴谷の馬のいる分譲地の近くに、無人の3000坪の分譲造成地が丸々売りに出されている場所があります。不動産サイトの図を見ると、道路ごと売っているようですので、建築基準法上の道路ではないのでしょうね。
http://smile-h.com/jigyou/buy/16958
こちらの分譲地は良いですね!
このブログは私がYahoo官公庁オークションに出品されていた「ビバランド」成田市の分譲地を調べていて見つけたのですが、ビルトインガレージのシャッターが壊れている場所は、封鎖されている中のガレージですね!
この様な物騒なガレージは八街市文違にも有ります、特別養護老人ホームハーモニーの前の道と高圧線の通り道土手になっている道の間にも有ります。(シャッターは有りません)
山武の分譲地はゴミ置き場は別に造られており、住宅も比較的新しい住民の方が住まれている様です。
分譲地としては、平地なので汚らしい貯水池が無ければ住みやすい静かな場所に見えるのですが、病院、スーパーが無いので老後に住むのは厳しそうです。
宅配を利用するにしても、病院へタクシーを使って行くには高くつきそうです。
>>ちるみさん
コメントありがとうございます。
山武の分譲地は、八街や富里よりも開発時期が遅いため、その分区画や道路の広さが、今でも充分使えるレベルのところが多いんですよね。ただ仰る通り、あまりに立地が悪すぎです。老後もそうですし、子育てをするにしても、この辺だと、子供が高校に進学するにも、通学の面で選択肢が限られてしまいますね。
建築許可は、大都市を除けば都道府県が所管ですし、要件を満たしていれば不許可にすることができない法律ですからねぇ…
>>あささん
コメントありがとうございます。
限界分譲地を抱える自治体はどこも人口減に悩んでいて、変な立地の人口流入も、甘んじて受け入れているのが現状です。乱開発の危機感もあまりないのも一つの理由ですが…。