久しぶりのブログ更新になる。ここ最近は特に更新頻度が低くなり、お読みいただいている方には申し訳ないが、特に近頃は私生活が多忙を極め、調査もままならない日が続いていた。その辺りの話は私事になるのでここでは書かないが、気がつけば季節はすっかり春となり、北総の谷津田でも田植えの光景が見られるようになった。

 千葉県は比較的温暖であり、その丘陵地は杉林や竹林が多いので、冬になっても葉が落ちて枯れ果てることは少ないのだが、それでもこれから新緑を迎え、一年で一番緑の美しい季節になる。雑草もまだ少なく、うだるような暑さもなく、もっとも分譲地調査にも適した季節ということで、今回、久々に分譲地調査に赴き、一本記事を書くことにした。

 調査といっても今回は2か月ぶりの更新ということもあり、いつもとは趣向を変えようということで、これまでその存在は物件情報などで知っていたものの、自宅から遠く、かつ当ブログの主要調査地である北総エリアでもなく、成田空港の開港を見込んだ開発分譲地でもないために後回しにしていたある住宅団地を訪問してみることにした。その住宅団地とは、北総から遠く離れた千葉県市原市石川に位置する「鶴舞大蔵屋団地」である。
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 「鶴舞」と聞けば鉄道ファンの方はピンとくるかもしれない。市原市には、内房線の五井駅と接続した、古びた鉄道車両や駅舎を今なお多く残す「小湊鉄道」が存在し、これは基本的には今も昔も地元住民の通勤・通学用として利用されてきた、終点手前の養老渓谷以外には沿線にこれといって見所もない小さなローカル線であるが、設備の更新を後回しにしてきたのが今の時代に功を奏し、首都圏から最も近いローカル線として、近年では観光路線としても脚光を浴びている私鉄である。

 その中でも、今回の分譲地近くにある「上総鶴舞駅」は、創業当初からの木造駅舎を今なお残し(小湊鉄道は他の駅舎も似たようなものだが)、駅周辺の長閑な風景も相まって、その木造駅舎はこれまでにも、テレビコマーシャルや人気アイドルグループのCDジャケットのロケ地としてもたびたび起用されてきた味わい深い駅だ。
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商業メディアのロケ地としてたびたび起用される上総鶴舞駅。
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古い木造駅舎と周辺の田園風景が、訪れる鉄道ファンを惹きつける。

 ただあいにく鶴舞といっても、今回訪問した鶴舞大蔵屋団地は、この鶴舞駅からは徒歩30分ほどの位置にあり、団地の入口にはバス停もあるが、そのバスはこの上総鶴舞駅ではなく、市原市中部の中心市街地である上総牛久駅を結んでいる(もともと鶴舞駅は鶴舞の旧市街からも離れ、地域交通の要衝となり得る立地ではない)。牛久駅と逆方向の便は、東京駅行きなどの高速バスが発着する市原鶴舞バスターミナルへ結ぶ系統もあるが、いずれにせよ本数は少なく、鶴舞の旧市街の商店がほとんど閉業してしまった今となっては、現実的には自家用車がないとかなり生活に不便を感じるという点において、これまで紹介してきた北総の限界ニュータウンと何ら変わるところはない。
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小湊バスの「大蔵屋団地前」バス停。行き先は最寄り?の鶴舞駅ではなく、商業中心地である上総牛久駅だ。
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牛久駅と反対方向のバスは、市原鶴舞バスターミナルと結ぶ系統もある。

 ちなみに団地名である「大蔵屋」は、おそらくこの団地を開発した業者名だと思うのだが、あいにくこの辺りの事情については詳しくない。自販機用の飲料販売会社に「大蔵屋商事」という会社があるが、大蔵屋商事の設立年はこの団地の開発時期よりも後なので、関係があるのかは不明だ。いずれにせよ、こうした超郊外の分譲地の多くは、すでに当初の開発会社は倒産しているケースも多く、現存していたところで、分譲が完了したのちはその管理から一切手を引いていることがほとんどなので、当初の開発業者名などは、分譲地の現況を調査するうえではあまり重要なことではないと言っていい。


 さて目指す大蔵屋団地は、鶴舞の旧市街から少し離れた県道沿いに位置するが、市原の中南部は、更に下れば渓谷が存在することからも分かるように、丘陵部の高低差は北総のそれよりもずっと大きい。大蔵屋団地も、県道から見下ろすと、かなりの低地に造成されていることが一目で分かる。帰宅してから、国土地理院の航空写真で開発前の地形を調べると、やはりこの大蔵屋団地は、1970年代初頭に、元々細長い谷津田だった窪地を大規模に埋め立てて造成されたものであった。おおかた、傾斜地や生産性の低い狭い谷津田を買い叩いて、造成して高値で売り捌いたものであろう。
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県道側から見下ろす鶴舞大蔵屋団地の遠景。かなりの低地に造成されていることが分かる。
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団地への進入路は車道もあるが、階段はこのように急勾配だ。
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1975年に撮影された鶴舞大蔵屋団地付近の国土地理院航空写真。入り組んだ谷津田と、それに面した丘陵部の斜面を造成して開発され、既に入居が始まっている。

 団地の入口には「鶴舞大蔵屋団地」の名を冠した看板があるが、これは設置されてまだ日が浅いのか、かなりきれいだ。「鶴舞」の名にふさわしく、鶴が舞う姿をあしらったその看板は明るい感じだが、この看板の周辺の区画は、団地内で最も早く入居が始まったエリアのためか、並ぶ家屋の中には、既に相当古びたものも少なくない。しかし、家屋が隙間なく立ち並ぶのは、県道に近接した区画だけだ。
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団地の入口に設置された真新しい看板。鶴が優雅に舞う姿があしらわれている。
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県道に近い区画は家屋が立ち並び、ごく一般的な住宅街の光景である。

 前述のようにこの団地は70年代初頭の開発である。千葉県における住宅開発のピークの只中に開発された団地であるが、当時は都心からこれほど離れた立地でも、想定されたのは都心方面への通勤である。これまで当ブログで紹介してきた北総のミニ開発地と比較すれば、この団地はそれよりもずっと規模の大きい住宅団地であるが、当然ながら今日となっては、ただでさえ都心から離れた五井駅から高額運賃路線としても知られる小湊鉄道に乗り継ぎ、更にその駅からバス利用を強いられるこの団地が、ベッドタウンとしての地位を確立できるはずもなく、団地の奥は今なお多くの空地が残されている。
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団地の区画図。無記名の区画はすべて空地である。

 先の団地の看板から少し中へ進むと、住宅団地には珍しいラウンドアバウト交差点がある。団地内はさして交通量もなく、ラウンドアバウトとしては小規模なものだが、わが国では近年になってようやく、安全面から注目が高まっているラウンドアバウトが、70年代初頭の分譲地ですでに採用されていたというのは興味深い。1か所だけとはいえ、当時の開発業者はそれなりに意欲的な都市デザインを採用したのだ、と思いたい。団地内は公園も多く、周囲は緑の深い丘陵に囲まれ、雰囲気はいい。低地というのが不安要素ではあるが、近隣には、豪雨時に濁流となるような河川はない。
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団地内に設けられたラウンドアバウト交差点。
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団地内の公園。キレイに整備されている。
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画像後方の高い位置に並ぶ住宅は県道に面した区画だ。高低差が大きい。 

 ただ、あいにくなことに、この団地も70年代の分譲地のご多分に漏れず、メインストリートがようやく2車線確保しているだけで、街路ははっきり言って狭い。そしてこの団地の奥に足を踏み入れて一番驚かされるのは、その勾配のきつさだ。元々窪地を埋め立てて造成しているのだから、もう少し平坦に造成出来た気もするのだが、変なところで横着したのか、特に団地内の北側のエリアは、どこを向いても急な坂道で、これではお年寄りがバス停まで歩くのも一苦労である。

 そして、傾斜地に造成された分譲地のお約束として、多くの区画は擁壁上にあり、駐車場の拡充を阻む。ここの団地は1区画が40~50坪ほどで、70年代の分譲地としては決して狭い方ではなく、2台分の駐車スペースも充分確保できる広さだが、この無駄な擁壁のせいで、駐車場を作るのに余計な外構工事が必要になる宅地ばかりだ。しかも団地の北部は、北向きの斜面のために、南側に採光を設けた家屋では遠望も望めない。また、メインストリートの整備状況に対し、そこから横に延びる路地は路盤が悪いところが多い。
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団地内のメインストリート。長い勾配が続く。
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多くの区画は擁壁上にあり、外構工事に費用が掛かる。
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団地の北部はどこを向いても坂道で、徒歩で回るのは一仕事だ。

 急斜面に造成された分譲地というものは、特に神奈川県の川崎や横浜では普通に見られる光景であり、元を辿れば、川崎や横浜の住宅街も、この大蔵屋団地と同様の開発手法で造成されたものであるはずだが、ただ一つ違うのは、川崎や横浜はその利便性の高さから今日となっては隙間なく住宅が立ち並んだ大都市へと変貌したが、この大蔵屋団地は、分譲会社が「これから発展するエリアですよ」と根拠もなく空手形を乱発しただけで、現実には山間部の奥深くに取り残されただけ、ということだ。

 団地の中でも売地の看板は所々で見かけるが、物件サイトでもこの大蔵屋団地の売地はよく掲載されており、今、それらの売地はおおよそ坪1~1.5万円という破格値で投げ売りされている。
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アットホームに掲載されている鶴舞大蔵屋団地の売地広告。44坪で67万円。
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団地内の空地に建つ売地の看板。 
 
 ただこの地価の安さには、利便性以外にも理由があり、この団地は自前の上下水道設備や集中ガス施設を備えており、区画所有者はその管理費を負担しているはずなので、そのような分譲地はどうしてもその負担分だけ地価が安くなってしまう。そんな分譲地はこれまでにもいくつか紹介してきたが、問題なのは、分譲から長い年月を経た今となっては、その全ての区画所有者がきちんと管理費を納入しているわけではないということだ。
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新規入居者へ向けた団地設備に関する注意事項。
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団地の北端に位置する集中浄化槽。

 共有インフラを備え、管理費用を徴収する団地の多くは、管理費未納地に住宅を建築する場合は、未納分を清算しないと共有設備の利用を認めない。それは公平性の面から見れば至極妥当な措置ではあるが、問題は、こうした地価が下落した超郊外の分譲地の場合、未納の管理費が、地価そのものを上回ってしまっている可能性が高いということだ。つまり未納分を清算してまでその土地を買うくらいなら、別の、管理費を納入している土地の方が安い可能性があるのだ。これでは管理費未納地の流通など絶望的であるというほかない。
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管理不全の区画。管理費を滞納した区画の流通は絶望的と言える。

 大蔵屋団地はそれでも北総の分譲地と比較すれば、一見して空き家と分かる家もほとんどなく、街路はよく手入れされ、更地も菜園として手入れされている区画もあり、印象は明るい。現時点ではバス便が途絶しているわけでもなく、確かに不便な立地ではあるが、静かな山あいに広がる住宅団地は都市部にはない魅力があるといえる。

 しかし、共有インフラの問題は、こうした住宅団地の先行きを一層不透明にさせる不安要素だ。小規模な分譲地は、すでに共有インフラを放棄して、各戸自前で井戸や浄化槽を設置しているところもあるが、これだけ居住者の多い団地では、仮に放棄するにせよ、その総意をまとめることは容易ではなかろう。規模の大きい住宅団地は、行政から切り捨てられるリスクは確かに小さいが、その一方で、自主管理は高度な舵取りが求められるのである。
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鶴舞大蔵屋団地へのアクセス


市原市石川
・圏央道市原鶴舞インターより車で6分
・小湊鉄道上総牛久駅より小湊鉄道バス 「大蔵屋団地前」下車