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 当ブログではこれまで2度、茨城県の旧大洋村(現・鉾田市)に星の数ほど散らばるミニ開発の旧別荘地を訪問し、その模様をお伝えした。既に述べているようにその様相は、昨今取り沙汰されている「空き家問題」の一歩先を行くような極めて厳しい状況で、利用者の減少が続いているのはどこの別荘地も同じであるが、大洋村の置かれている局面は、全国的に見ても非常に特異なものであると思われる。
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 僕が改めて当ブログで記事にするまでもなく、大洋村の現状はインターネット上や一部メディアでも取り上げられており、その問題に対しての認知度も高いのだが、重要なこととして指摘しなくてはならないのは、多くのミニ開発地の別荘が、利用されることもなく朽ちていき廃屋と化す一方で、現在でも利用可能な現役の別荘住宅は、今もなお地元の不動産市場において、別荘、あるいは永住用の住宅として、価格こそ底値に近いとは言え取引されている、という事実である。すなわちそれは、現在においても僅かながらも人口の流入が続いているということだ。

 こうした、いわば乱開発によって生み出された過疎地の住宅を取得して利用することに関して、インフラ整備や税支出の問題を指摘し、あまり歓迎しない向きは確かにあるのだが、僕自身は、当然ながらそんなことを偉そうに批判出来るような立場ではない(そもそも利用者側である)。しかし仮に僕が関心を払わなかったとしても、人間というものは、必ずしも皆が皆合理性のみを最優先する生き物ではなく、どんなに不便な立地であろうと、安ければ必ず利用したがる者が現れるのが世の常である。現代の日本は今のところ、そうした個人の自由意思を強力な権限を以て統制することが可能な社会ではない。別荘地の流れとしては、緩やかに衰退の方向へ向かっているのは確実だが、いましばらくはミニ開発の住宅集積地として、旧大洋村を吸収合併した鉾田市はその問題に向き合っていかなくてはならないのだ。
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 では、その鉾田市は、旧大洋村における別荘地について、一体どのような現状認識を持っているのか。大洋村の別荘地に関する資料が豊富ではないこともあり、今回、鉾田市役所の都市計画課に赴いてお話をお伺いしてきた。結論から言うと、あっと驚く未公開の㊙情報というものは何もなく(僕自身に事前知識も取材能力もなく質問が大雑把であったことも原因である)、建前的な通り一辺倒のもので、今回は分譲地も訪問しておらず正直退屈な話ではあると思うが、今回は自身の備忘録を兼ねて、鉾田市役所の聞き取りの内容を記録しておこうと思う。
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鉾田市役所。

①旧大洋村におけるミニ開発地の開発許可
 まず最初に、主に70年代から80年代後半にかけて、主に大洋村内に開発された別荘地の中で、正式な開発許可を申請して造成されたものはあるか、当時の開発許可申請の台帳を閲覧することにした。大洋村のように吸収されて消滅した旧自治体の古い開発許可申請の記録は、吸収元の自治体によってその保管方法に違いがあるが、鉾田市の場合は、大洋村で管理していた台帳は、それがもし存在していたとすれば既に処分されており、のちに電子化されたと思われる申請記録の一覧を保管していた。

 「もし存在していたとすれば」と書いたのは、実際のところ、大洋村の別荘地に関しては、70年代から今日に至るまでただのひとつの開発許可申請の記録も残されておらず、そのすべてが、開発許可申請が不要な規模でのミニ開発の別荘地であったからだ。確かに大洋村の別荘地は、そのどれもが一目見ただけで場当たり的な小規模開発の繰り返しであったことが容易に分かるもので、都市計画課の職員の方も「大洋村の別荘地は、申請が出されていないものも多いと思いますよ」とは仰っていたのだが、蓋を開けてみれば多いどころか、純度100%のミニ開発である。

 台帳の撮影は許可されないので、僕は申請業者名と申請年月日を書き写すために筆記用具を持参していたのだが、結局のところ台帳には何も書き写すべき記録はなく、そのまま台帳をお返しすることとなった。それにしてもこれはいくらなんでもひどすぎる。僕の住む北総のミニ分譲地も、開発許可が出されていないものがほとんどだが、それでもこれまで台帳を閲覧したどの自治体にも、いくつかは開発許可申請が出された中規模以上の分譲地が確認できたものだ。別荘地であればなおのこと、周囲の自然環境との調和が問われるはずだったのに、地域の未来に何の責任も持たない不誠実な開発業者に、大洋村は食い荒らされてきたのだ。
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②別荘地における空き家の問題
 続いて、応対頂いた職員さんに、おそらく大洋村の別荘地における最大の懸案事項である空き家の問題について、市としてはどのような対策を行っているかお伺いしたところ、予想通りであったが「空き家バンクを開設し、空き家の再利用に努めている」との回答であった。確かに鉾田市は空き家バンクを開設しており(リンク「鉾田市空家バンク」)、2020年3月現在、既に交渉中であるが1軒の別荘風の物件が登録されている。

 だが大洋村における空き家問題は、人が住める状態で維持されている家屋が引き起こしているものではない。もはや産業廃棄物と化した廃屋がいまだ山林の中に膨大に残されていることが問題なのである。こうした、今は利用不能となった廃屋の処分を目的として空き家バンクへ問い合わせてくる方はいるか、と問うてみたところ、「それはもう…います」との回答で、そのような利用不能な物件に関しては、空き家バンクでは扱えないので民間の業者を通じてもらうようにお願いし、また所有不動産の寄付を申し出られるケースもあるそうだが、寄付に関しても一切受け付けていないとのことである。これは、空き家バンクを開設している他自治体と変わらない対応だ。

 手厳しい指摘になるが、率直に言ってこれでは何もしていないのと同じである。既に述べている通り大洋村は、仲介業者もなく不動産市場が形成されていない遠い地方の農山村ではなく、今なお数社の地元業者によって中古別荘の仲介や売買が行われている現役の別荘地なのである。
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大洋駅前で営業する民間の不動産仲介業者。

 北総の自治体の空き家バンクも似た状況だが、既に稼働している市場に、行政がわざわざ参入する理由がない。むしろ、今すぐ入居可能な物件こそ民間業者に任せて、行政は、ほとんど流動性も資産価値もない、民間業者が手数料も見込めないような物件こそ、たとえ問い合わせがなくとも根気よく紹介すべきではないか。誰が使うのかもわからない廃屋ばかり網羅した廃屋バンク。それは極端な例だとしても、銚子電鉄の「まずい棒」ではないが、むしろそのくらい素頓狂な施策のほうが、今は逆に注目を浴びる気もしなくもない。


③開発分譲地におけるインフラ整備
 併せて聞いてみたのは、別荘地におけるインフラ整備の問題である。これは空き家の問題と重複してお伺いした質問もあったのだが、ここでは別箇に扱う。

 前回の訪問記事で紹介した、筑波大学大学院の修士論文『旧鹿島郡大洋村における「ミニ別荘」の現況と今後』で、盛んに指摘している問題が、別荘地における集中井戸の水質の悪化である。大洋村の多くの別荘地は、今もなお農業用の圧力タンクを利用した、同一分譲地内のみに配水する簡易水道を利用しているが、その大半は浅井戸であり、飲用水には適さないということである。
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 ではこのような別荘地も、公営水道の敷設は進んでいるのかと聞いてみたが、水道事業は都市計画課の担当ではないので詳細な回答は得られなかったが、別荘地でも公営水道が提供されているところはあります、とのことであった。しかし、少なくない別荘地は、接続道路は私道である。既に所有者不在となった空き家も多い中、整備を進めるうえでそれが障壁になることはないか、と聞くと、行政権限で相続人の情報を追えるので、まったく連絡が取れないケースは多くはないそうである。大洋村の多くの古い別荘地は評価額が低く固定資産税が発生しないが、納税義務者の情報以外でも、とりあえず追跡はできるようだ。

 なお、所謂「危険空き家」についても、同様の手段で所有者へのコンタクトを試みているとのことである。ただし今のところ、鉾田市内において、行政代執行を以て危険空き家の除却を行ったとの報せはない。
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④高齢世帯の移住について
 大洋村の別荘地開発は、古いものは70年代の半ばから行われていて、分譲当初に取得された所有者は、既に高齢となっている。別荘地を歩いていると、今でも敷地内に菜園を作って手を入れている利用者の姿を見かけることがあるが、皆かなりの高齢だ。

 ところが大洋村の別荘物件は、価格が安価であるゆえに、近年においても、高齢者の世帯が永住用途の住宅として取得するケースが多いと聞く。職員の方も、具体的に統計を取っているわけではないが、都会で定年退職を迎えてリタイヤされた方が移住してくるケースが多いと認識している。
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 だがこれは、冷徹な視点となるが、市として歓迎できるものなのだろうか。特定の地域、それも大洋村のような交通不便な農村部に、地縁のない高齢世帯が多く移住してくるケースというのは類例があまりなく、それが新たに問題を引き起こすことはないのだろうか。

 その点に関しては、まあ行政職員の立場ではなかなか厳しい見解も述べられないのは当然だが、元々鉾田市自体が人口減少、高齢化率の上昇という問題を抱えており、市全体の課題として取り組んでおり、別荘地に特化して対策は取っていない、とのことである。多く移住してくると言っても、それは大勢に影響するほどの数値ではないのかもしれない。

 しかし、先にも述べたように、大洋村の別荘住宅に永住目的で移住する世帯は、元々大洋村に地縁のない方が主である。一方でよく知られているように、農村というものは、消防活動や清掃、祭事、その他地域社会の意思決定など、少なくない都市機能が地縁コミュニティによって成立している面がある。別荘地を移住先として選ぶ方の中には、そうした旧来からの濃密なコミュニティを敬遠する方もいるだろうし、本人はそれで良いかもしれないが、周辺地域から孤立した「限界集落」が山林の中に点在する状況は、行政としてはきわめて不都合な面があるはずだ。
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 前回の記事で訪問した別荘地では、別荘地在住世帯のみで組織されたとみられる自治会が確認できたが、鉾田市の自治会には、行政にその届け出を出している自治会とそうでない自治会があり、届け出を出した自治会は、例えばゴミ集積場の新規設置の要望があった場合、収集車が進入できる幅員が確保されているか調査したうえで、その申請を受理する、という方式を取っているそうだ。届け出のない自治会というのは、大洋村の場合、先にも述べた集中井戸などの共有設備の管理組合のことかもしれない。いずれにせよ別荘地においても、永住世帯が増加した今、別荘地の世帯のみで構築された自治会は存在するとのことである。大洋村においてはこうした、旧来のものとは異なる地域コミュニティの再編が待たれているのかもしれない。

 なお、今日は高齢化率の上昇する過疎地において、公共交通網の衰退が問題視されているが、旧大洋村エリアにおいても、現在は民間のバス路線がなく、また鉾田市は公営のコミュニティバスを運行していない。大洋村の公共交通としては、鹿島臨海鉄道大洗鹿島線と、乗合型オンデマンドタクシーのみになるが、古い別荘地は鹿島臨海鉄道の敷設前に開発されたものも多く、駅へのアクセスが良好とは言えない。この点に関し、公共交通網のさらなる拡充を求める声は、大洋村エリア在住の市民からも寄せられるそうだ。高齢者による自家用車の運転に対し世論は厳しくなっており、この点についても鉾田市は深刻な問題を抱えていると言える。そうでなくとも大洋村の別荘地の中には、若者でも運転を躊躇するような劣悪な整備状況の隘路の先に位置するもの
も少なくない。ただこれは確かに職員の方が指摘したように、とりたてて別荘地に特化して対策を練る問題ではないかもしれない。
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 と言うことで、時間的な制約や事前知識の欠如もあって、今回お聞きできたお話は以上である。率直な印象として、現在の鉾田市は、大洋村の別荘地の状況を、現代日本における普遍的な都市問題の枠組みの中で対策を取っているという印象があり、それが特異な現象であるという現状認識は薄いようである。これは僕が住む北総の多くの自治体も同様で、総じて自治体は限界分譲地の問題に無関心である。登記簿上で細かく切り刻まれ、徐々に所有者情報が散逸している分譲地の現状が、市町村の重要な課題として取り組まれている気配はない。納税義務者や相続人の情報は、特に権限もない一民間人がアクセスするのは困難である。行政としても勿論出来ることに限りはあろうが、官民が、互いの限界点を補填できる仕組みの構築が求められていると考える。
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