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 さて、ここまでは主に、サンハイツ白樺の里の別荘地内に残された、磯村建設自身が運営していた集客施設の紹介を行ってきた。レストラン跡、バーべキュー場跡、ローラースケート場跡、テニスコート跡、会員制宿泊施設と、そのいずれもが既に使われることなく放置され朽ちてしまっているが、現在、白樺の里に残されている集客施設はこれが全てである。

 残りの敷地は、すべて一般向けに分譲された別荘用地であり、今回からはいよいよその分譲別荘の全容を紹介していくわけだが、あらかじめ述べておかなければならないことは、白樺の里にある別荘は、現時点ではそのすべてが廃墟と化しているわけではなく、特に単一の所有者のものである一戸建てタイプの別荘は今でも適切に利用されているものが多いという点である。
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 白樺の里は、やや標高が高すぎるとは言え浅間山麓の別荘群の一角に位置するものであり、夏季の避暑地としての環境は申し分ないものであるし、管理会社が消滅したとは言っても、水道は村営水道が引かれており、各戸の排水は個別浄化槽なので、現時点でインフラ面において喫緊の問題が起きているわけでもない。

 確かに近隣の三井不動産の別荘地などに比べると、白樺の里は1区画当たりの敷地面積は広くなく、建物も華奢な印象で、全体的に庶民的な雰囲気が漂うが、その分中古相場も廉価であるはずだし、人によっては高額の管理費を納入するより自己責任の自主管理の方が肌に合う方もいるだろう。

 ただ白樺の里の場合、一戸建てタイプの別荘でも、敷地に関しては一筆の土地を4件程度の共有持分として分割したうえでそれぞれ建築されていることが多いので、その点ではやはり普通の分譲別荘地よりは面倒な点があるかもしれない。どうやら磯村は共有持分の分譲が好きな会社であるようだ。単一の所有権の物件を分譲するより、その方がおそらく利幅が大きかったのだろう。
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白樺の里でも、一戸建てタイプの別荘の多くは比較的良好な管理状態が保たれている。
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一戸建てタイプの別荘でも、土地は一筆のものを分割して共有していることが多い。共有持分の分譲は磯村の十八番であったようである。

 しかし白樺の里という別荘地は、一般の別荘地と大きく異なり、立ち並ぶ別荘建築が全て単一の所有者の一戸建てではない。すでにタイトルでネタバレしているので結論を先に書くと、信じられないことに磯村は、冬季には厳しい降雪に見舞われるこの白樺の里において、1棟につき2~4戸の居室がある木造アパートや連棟型の長屋の区分所有権を、あろうことか別荘として乱売していたのである。
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 木造アパート別荘の区分所有の一例として、白樺の里第1期分譲地にある、上の画像の売家を例に解説しよう。3戸の居室があるこの別荘アパートは、南側の1階、2階部分の居室が区分所有の形で登記されており(居室内に階段があるメゾネットタイプの1戸は、登記簿上は独立の家屋として表題登記が行われている)、元々は3戸とも異なる所有者によって取得・保有されていたものだが、この物件に関しては幸運にも、そのうちの1戸の区分所有者が残りの居室の所有権をすべて買い取る形で単一の所有者の物件となり、そして現在は同物件を相続した親族の方が、90万円の売値で広告を出しているものである。
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上記のアパート別荘の物件広告。
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南側の居室部分の家屋登記簿。上下階それぞれにA、Bの名称が割り振られ区分所有の形で登記されている。
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北側のメゾネットタイプの1戸は、登記簿上では独立した家屋として表題登記されている。

 90万円と聞くと安く感じるかもしれないが、前述の通りこの別荘の居室は元々各戸独立した区分であるため、間取図を見てもお分かりの通り、さして大きな建物でもないのに台所が3室もあり、図には記載されていないが浴室とトイレも3室ある。電気メーターも水道の元栓も3つに分かれていて、出入り口も当然3カ所に分かれていて、それぞれの居室は内部はつながっておらず直接行き来が出来ない(元々別の部屋なのだから当然である)。シェアハウスにでもするのならまだしも、はっきり言って別荘としては使い難いことこの上なく、これでは90万円という価格もやむなしと言わざるを得ない珍奇な物件だ。
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 売家の外観を見ると、3戸の居室はそれぞれ異なる外壁材が使用されていることが分かる。これは、各戸の所有者が、各々自分の区分所有分だけをリフォームした結果である。このアパートは前回紹介した「ビラ軽井沢」のような共有持分型の分譲ではなく、一般のマンション同様、居室ごとの区分所有権が売却されているので、本来の区分所有物件の規定から言えば、少なくとも上下階で区分所有されている南側の建物の外壁は共用部に当たるはずなのだが、率直に言って、これはそんな厳密な法解釈が適用されるほど大層な代物ではない。
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 一方で、各戸の玄関へ至るまでの共用階段は腐朽し崩落している。元々この別荘地は、開発当初はともかく現在は深い森の中にあるので湿気が多く、木造住宅には過酷な環境である。(この売家は現在は単一の所有者だが)区分所有と言っても多くても4戸であり、階段程度の補修なら合意など形成するまでもなく誰かが独断で補修しても、残りの区分所有者がそれに異を唱えるようなことはないとは思うが、では誰がその修繕費用を負担するのかという事になれば話は別である。私財を投げうってまで共用部のすべてを自費で修繕しようなどと言う篤志家などいるはずもなく、現実には誰もが費用負担を避けて荒廃が進んでしまう事は火を見るより明らかだ。

 現にこの白樺の里にあるアパート別荘は、今はほとんど利用する者もなく、階段をはじめとした共用部分が朽ち果ててしまっているものが至る所で目に付くというか、大半のアパート別荘は何かしらの腐朽箇所を抱えてしまっている。
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同別荘地内にある別のアパート別荘の崩落階段。

 そして、前掲の物件広告に「元貸別荘」との記載があることからもお分かりの通り、これら区分所有の木造アパート別荘もまた、分譲時は「ビラリース」なる貸別荘経営を前提として販売されていたものだ。標高1200mを超え、冬場は恒常的に数十cm以上の積雪があるこの厳しい高原の地で、6畳一間の木造アパートの貸別荘オーナーになりましょうと言う話なのである。結果を知っている者の勝手な意見であることを承知の上で言わせてもらうが、これはビジネスとしてはあまりに勝算の見込みのないものではないだろうか。はるばる遠い浅間高原までやってきて、狭くて壁が薄い貧相な木造アパートの一室で一夜を過ごしたいかと考えれば、自ずとそのビジネスモデルの無謀さがわかろうというものだ。
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 その造りは粗末としか言いようのない安普請なもので、外観こそ何となく小洒落た別荘っぽい雰囲気を出そうとしていたのはわかるのだが、玄関ドア一枚取っても、当時の一般的な木造安アパートの水準と何も変わらず、ひどい所ではアルミサッシの玄関ドアのものすらある。軒天は垂れ下がり、外壁も剥がれ落ち、バルコニーも崩落している。それでも区分所有の物件であるために各区分所有者が合意を形成しなければ共用部の修繕すらままならず、多くのアパート別荘は、今や朽ち果てるに任せたままだ。
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アルミサッシの共用玄関。軽井沢周辺の高級別荘地の趣とは無縁の、場末の民宿レベルの造りである。
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バルコニーが崩落した区分所有のアパート別荘。外壁も一部崩落している。

 白樺の里においては、一戸建てタイプの別荘建物と、これらアパート型の別荘はエリア分けされており、アパートはアパートで特定のエリアにひとかたまりになっている。つまり、今でも比較的利用者が多く一般の別荘地の趣を残している一戸建て別荘エリアのすぐ隣で、今ではほとんど利用者もいない、ざっと数えて合計数十棟にも及ぶ無人の木造アパート群が、この深い森の奥で、まるで墓標のように立ち並んでいるのである。

 その無残な光景はまさにゴーストタウンそのものであり、月並みな表現で恐縮だが異様と言うほかはないものだ。次回は、この区分所有の木造アパートの別荘群を、実際に歩いて見て、特に目を引く建物をいくつかピックアップして紹介し、それを今回の白樺の里訪問記の結びとして幕を閉じることにしたいと思う。
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