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 このブログで紹介している分譲地が位置する北総の自治体の大半は、今も市街化区域と市街化調整区域の区分けが行われていない、所謂「非線引き」区域に属している。線引き済みの自治体における市街化調整区域の建築制限は厳格なもので、北総の自治体にはその強力な法規制がなかったことが、本来は住宅用地として不適当な農村部における無秩序な宅地開発を招いてしまった要因の一つであるが(80年代頃までは千葉県北東部の大半の自治体が都市計画区域外であった)、実は数は少ないながらも、線引き自治体における市街化調整区域にも、主に投機目的で販売された分譲地というものは存在する(現在でも分譲されているものもある)。

 市街化調整区域の住宅地と言ってもこの場合、今も各地の調整区域に残る、旧住宅地造成事業に関する法律(昭和39年第160号法律・昭和43年の都市計画法の制定に伴い廃止)で認可され開発された住宅団地ではなく、そこが調整区域で一般の住宅の建築確認が下りないことを前提とした、資産形成や菜園用地の名目で販売された分譲地のことである。
若葉苑チラシ
 上の画像は、1987年に千葉県船橋市の新京成線・滝不動駅からほど近い、市街化調整区域内の農地で販売された投機型分譲地の折込チラシである。物件概要の所をよく読むと、小さな文字で「都市計画法に基き(ママ)住居用建物の建築および宅地の造成は不可」「地目畑地の為所有権移転には農地法に基く(ママ)許可が必要です」と書かれており、所狭しと大書きされたキャッチコピーも、決して住宅用地としての利用を促すものではなく、はっきりと投機商品としての性格を打ち出したものだ。

 広告には「伸び盛りの場所」との謳い文句があるが、この分譲地は今も残されてはいるものの、市街化区域への転換は行われておらず調整区域のままである。当時の不動産売買の乱暴さを考えれば、いずれは市街化区域に編入されて地価が上がる可能性もあるとか何とか、根拠のない楽観的な見通しで買い手の歓心を買っていたであろうことは想像に難くないが、ただしこの滝不動の調整区域の分譲地に限って言えば、価格こそさすがに当時の水準よりは落ちているものの、周辺に住宅地が多い便利な立地だけあって、住宅地の合間に残された貴重な菜園用地として今でも盛んに活用されている。

 今回紹介する千葉県佐倉市坪山新田の分譲地も、そんな市街化調整区域に展開された、おそらく当初は投機目的で販売されたと思われる分譲地のひとつである。場所はほとんど八街市との境界付近で、佐倉駅よりも、総武本線の榎戸駅からの方が近い、佐倉市でもはずれの農村地域であり、お隣の八街市とは異なり線引き自治体である佐倉市では、この坪山新田はもちろん全域が市街化調整区域である。

 通常、僕のブログでは市街化調整区域の売地を取り上げることはなく、今回の記事は、はっきり言ってしまえば興味本位に近いものなので、あえて【番外編】とさせていただいたのだが、先に上げた滝不動のチラシも機会があればぜひ紹介したかったものなので、今回は、まあこんな分譲地もあるのだという四方山話としてお読みいただければ幸いである。
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坪山新田の分譲地近くの県道。周囲一帯はすべて市街化調整区域である。

 分譲地の近くに佐倉市役所が立てた一つの看板がある。看板には「この地域は市街化調整区域です」とあり、「宅地の造成及び建築物の建築は原則として禁止されています」とある。その下に、わざわざカッコ書きで「(建築物とは、コンテナハウス、スーパーハウスも含みます)」などと付記してある。
実は佐倉市内には、この坪山新田の分譲地の他にも、調整区域内で販売された分譲地というものがいくつかあり、特に京成本線の大佐倉駅のすぐ南側の山林を切り拓いた分譲地はよく知られているが、そうした調整区域の分譲地の近くには必ずと言っていいほどこの類の警告看板が立てられている。

 当記事の執筆にあたって、看板に記載されている佐倉市役所の市街地整備課の職員の方に電話で簡単にお話を伺ったが、この看板は、やはり案の定というか、近隣にある分譲地において違反建築が行われることを防止する目的で立てているもので、調整区域内では基本的に、(一般的に建築確認が不要と言われている一定面積以下の小規模な物置等も含めて)すべて建築物の建築は禁止しているとの回答であった。
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佐倉市役所都市部・市街地整備課が立てた、市街化調整区域内であることを示す看板。分譲地における違反建築の防止を目的としている。
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分譲地の入り口。

 この分譲地を知ったきっかけは、実はYahoo!オークションでこの分譲地の53坪(約160㎡)の区画が売りに出されているのを見かけたことである。そのオークションは既に終了してしまったが、ジモティーでは現在でもその売地情報が掲載され続けている(ジモティーの取引態様の性質上、今も販売が継続されているかは不明)。

 市街化調整区域と言ってもすべて一律に住宅建築が認められないわけではなく、調整区域には「規制緩和集落制度」という制度があり、この制度が適用される指定の地域では、6m以上の建築基準法上の道路に面した300㎡以上の土地であれば、自己居住用の建築物に限り建築可能なのであるが、この分譲地の所在地は同制度の対象外であり、そもそも53坪の敷地面積では同制度が定める要件を満たしていないので、先に紹介した佐倉市の看板が示す通り、ここは住宅建築は認められない分譲地である。売主も、最初は「プレハブ等建築可」などと広告に記載していたものの、事実誤認に気が付いたのか、後に更新された広告ではその文言が消されている。

 はっきり言って、これで260万円という売値は高すぎるのではというのが率直な感想である。何故なら、この分譲地のすぐ近くにある628坪の土地が680万円で販売されており、鰻の寝床みたいな細長い土地とは言え、こちらは規制緩和集落制度の対象地で住宅の建築が可能で、まだしも条件に恵まれているからだ。立地条件を考えても、価格相場としては坪1万円強のこちらの方が妥当なものと思われる。
陽光台広告
ジモティーに掲載されていた坪山新田の売地広告。「プレハブ等建築可」の文言は事実とは異なり、更新後の広告では削除されている。
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当該の分譲地のすぐ近くにある628坪の売地の広告。価格相場としてはこちらの方が妥当なものと思われる。

 分譲地は南西方面に一直線の伸びる道路の両脇に展開されているが、入り口付近からいきなり、禁止されているはずのプレハブハウスが設置されている区画が目に入る。雑草が生え放題で極めて荒れている区画が目立つが、不可解なことに、いくつかの区画には郵便ポストが設置されている。設置されているコンテナハウスは工事現場などに仮設置されるような簡素なもので、どの区画も、放置されて荒れる前から、事業所として使用したり、人が住めるほど凝った造作がされていたようには見えないのだが、何かここで郵便物を受け取らなければならないような事情でもあったのだろうか。
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分譲地内の模様。雑草に覆われた荒れた区画が多い。
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禁止されているはずのコンテナハウスが設置されている区画。
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朽ち果てた門扉の脇にポストが設置されている。
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トタン板で作られたバリケードにもポストが見える。

 道路は一部陥没しており、路肩にはゴミが散乱していて、一目見て異様な雰囲気である。先に紹介したジモティーの広告では、「一人キャンプもいかがですか?」などとのキャッチコピーがあったが、この分譲地は現在、北西側に隣接して自動車置き場(ヤード)が作られており、所々にそのヤードのバリケードも見えるので、はっきり言って雄大な自然を満喫できる環境では到底ない。資材置き場でキャンプをするようなもので、キャンプというより単なる野宿であろう。

 荒れた印象をより際立たせているのが、多くの区画が、単管パイプやフェンスなどで物々しく封鎖をしていることだ。所有地への立ち入りを防ぐためのものであろうが、誰がこんな訳の分からない分譲地の茂みの中に立ち入るというのだろう。いくら佐倉市内と言っても、ここはもはや八街に近い僻地であり、市境を超えて八街に入った途端、それこそ乱開発分譲地が山のように存在するというのに、他の限界分譲地でここまで厳重に囲いが作られている光景を見ることはまったくない。
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路盤は傷み、一部が陥没している。両脇の区画も荒れ放題だ。
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なぜか単管パイプなどで厳重に封鎖している区画が多い。一般的な限界分譲地ではあまり見られない殺伐とした光景である。
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「ごみ投棄厳禁」は当然のことだが、この竹林に立ち入ろうと考える者はいまい。
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路肩に投棄されたゴミや原付バイク。全体として不法投棄のゴミが多く、極めて荒んだ印象である。

 中ほどまで進むと、またしてもアウトなはずのプレハブ小屋が目に入る。同様に雑草に覆われていて荒れた印象だが、「土地化します50坪  畑、資材置き場、事務所可  電気、水道、下水引き込み済」などと書かれた貼り紙が貼られている。50000円という賃料が妥当なものであるかはさておき、この立地で下水道が配備されているというのも到底信じられる話ではないが(佐倉市の上下水道部が発表する下水道計画図では、この分譲地は計画区域にすら含まれていない)、それ以前に、市役所から明確に違反だと指摘されている建造物を借りて使用するのは気が進まないものだ。なお、この分譲地はジモティーの売地広告によれば、上水道は北総の限界ニュータウンでもよく見られる共同井戸ポンプとのことである。

 それにしても非常に不可解で仕方ないのだが、どうしてここの土地の所有者は、八街との境界に近いこの立地の分譲地で、あえて法規制を犯してまで違反建築を強行したのだろうか。例えばこれが、冒頭で折込チラシを紹介した船橋の滝不動の分譲地のような、周囲の市街化区域の地価が高く稀有な立地条件であるならば、まだ小屋を建てて活用したいと考える気持ちもわかる。

 しかしこの坪山新田に関して言えば、ほんの少し足を延ばして非線引き自治体である八街の分譲地の空き地を選べば、それこそ何のお咎めもなく、堂々と合法的に好きなだけプレハブハウスを設置できるのに、わざわざ規制の厳しい佐倉市内でこんな違反建築を行うメリットがない気がするのは僕だけであろうか。ただ1区画だけ、おそらく建築物として扱われないトレーラーハウスを設置しているところがあった。
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分譲地の中ほどにある違反ハウス。
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賃借人募集の貼り紙があるが、違反建築物であることが明白である建物はなかなか借りる気にはなれまい。

 その先へ進むと、ジモティーで広告が出されていた売地が見えてくる。道路との境界辺りに洗濯機と冷蔵庫が置かれていて、意味がよくわからないが、これまで見てきた区画に比べれば、雑草の繁茂はなく恒常的に利用されている模様とは言え、敷地内には毛布やネットが散乱しており雑然とした印象だ。背後のバリケードは一部取り外されており、東側のヤードの敷地内が覗いて見える。言っては何だが、正直これでは、「一人キャンプ」どころか「田舎暮らし家庭菜園」でのアピールも少々厳しいものがある気がしてくる。現況は資材置き場以外の何物でもなかろう。
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ジモティーに掲載されている260万円の売地。キャンプは論外として、家庭菜園用地としても適当であるとは思えない。
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売地の前面道路付近はまだ整然としている方だが、どう見ても単なる造成地でありキャンプ用地には向いていない。

 この売地の咲き、分譲地の南端に向かっては、谷津田へ向かう傾斜地になっているので、道路も下り坂となり、ひな壇の区画になる。ニワトリの鳴き声が聞こえたり、菜園が作られている区画もあり、訪問時には土地の掃除をしている所有者の姿も見かけた。その下り坂の途中に2階建てのプレハブがあり、入り口脇に「佐倉市陽光台水道管理 運営組合」と書かれた札が掛けられている。先述のジモティーの売地広告や途中でいくつか見かけたポストにも記載されているが、どうやらこの分譲地は「陽光台」という名称であるようだ。よくある名前だが、本来は建築不可なので確かに陽光はよく当たるはずである。しかし、現在は周囲の雑木が生育しすぎて、南端は日が当たらず薄暗い雰囲気である。
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菜園が作られた区画。
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分譲地は南端に向かって傾斜地のひな壇になっている。
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運営組合の札が掛けられた二階建てのプレハブ。

 さて市街化調整区域は、建築物の新築が何もかもが一切認められないというものでもなく、元々その地で生計を立てる在住者が自己使用する住宅の他に、例えば地元住民向けのコンビニや飲食店などの一部の商業施設や事業所、調整区域内の周辺農家が利用する農業用施設などの建築は許可されている。その判断は自治体によって分かれるので、どの性質の建築物が許可されるかは一概には言えないが、例えば今現在、この分譲地の管理のための建築物を新築しようと考えて申請を行ったとしても、それが認可される蓋然性は高くないはずである。

 この分譲地がどんな経緯で分譲されたのかは資料がなくわからないが、1968年に制定された都市計画法の制定前に作られた建築物とはとても考えられないので、おそらくほとんどゲリラ的に造成された分譲地であることが推察できる。市街化調整区域はあくまで市街化の抑制を目的とするもので、土地の取引自体を規制できるものではないからだ。そもそもきちんと計測したわけではないが、佐倉市の市街化調整区域の建蔽率と容積率はそれぞれ50/100%なので、この2階建てのプレハブはそれらの規定値をオーバーしている可能性がある。
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分譲地の管理施設として、仮に今現在新たに申請を行ったとしても、建築の許可が下りることはまずないと思われる。

 南端部分に向かうひな壇にも、各々区画所有者がプレハブや小屋を建てて設置しているが、元々建築不可であるからか、どれも単に基礎ブロックの上に置いてあるだけか、ほとんど素人工事で建てられたような粗末なものばかりで、どうにも殺伐とした雰囲気が隠せない。そして分譲地の最南端にはなぜか、元鉄工所と思われる(入口に色褪せた看板が残されていた)巨大な建造物があるのだが、これも廃業して久しいらしく今は荒れ果てており、草木や蔦に覆われ異様な雰囲気を醸し出している。

 この鉄工所跡に関して言えば、改めて測定するまでもなく明らかに一目見て建蔽率や容積率が規定値を大幅に超過していることが明白で、これでは高さ制限(10m)をも超過している可能性もあり、まさに違反建築のロイヤルストレートフラッシュと言わざるを得ない無法なものだ。
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多くの区画に、簡素な物置やプレハブ小屋が設置されている。
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間に合わせのような簡素な小屋も目に付く。いずれも荒れていて殺伐とした雰囲気だ。
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分譲地最南端の鉄工所跡。

 市街化調整区域の分譲地というものは、その多くが趣味の範囲の菜園用地として使われており(菜園用地の貸地となっていることもある)、時には農機具小屋と思われる小さな物置小屋が立てられている光景も見かけるが、その程度の建造物であれば実害は少ないからか、行政側も黙認していると推察されるケースも散見される。僕自身も本音を言えば、家庭菜園に使うための小屋程度なら、すぐに撤去も出来るものだし、多少は大目に見てもいいのではと思う。

 しかしこの坪山新田の分譲地に関して言えば、きちんと適切に利用している所有者(ごく一部だが)には悪いが、いくらなんでも度を越しており、まさにモラルハザードの成れの果て、と言っても差し支えのない有様だろう。そもそもスタート地点に誤りがある分譲地は、こうも不適切な利用法しかされないものなのかと、僕も今更ながら驚いてしまった。調整区域と未線引き区域では法規制の性質がまったく異なるので、一概に未線引き地域の限界分譲地との比較はできないが、それにしてもこの瓜坪新田の分譲地は、都市計画の理念を無視した乱開発が招きかねない最悪の結末を示唆していると言わざるを得ないものだ。
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違反建築が横行する市街化調整区域の分譲地へのアクセス
佐倉市坪山新田
・東関東自動車道佐倉インターより車で約10分