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 昨今は、新型コロナウイルス蔓延の長期化が影響しているのか、北総エリアでは恒常的に格安中古住宅の品不足が続いている。当ブログ開設当初は、八街や山武周辺であれば、200~300万円台クラスの中古住宅を見かける機会は珍しくなく、そもそもその格安物件の豊富さがブログ開設の動機のひとつであったのだが、急速に高まったボロ戸建投資ブームも相まって、特に八街市内では、もはやその価格帯の中古物件が市場に登場することはなくなった。

 一方で、コロナウイルス流行前から恒常的に中古住宅が不足していたのが成田市の旧大栄町エリアである。旧大栄町は、地価そのものは八街よりも安く、インフラに関しても、成田市との吸収合併直前の2003年までは、町内における公営の上水道普及率はまさかの0%という有様であったのだが、空港に近いために物流会社などの関連企業の進出が多く、一方で八街のように物件数そのものが豊富ではないので、価格こそ安かったものの、市場に出回る中古住宅は以前から少なく、そしてその多くが貸家に転用されて今に至っている。
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 コロナ後は、大栄町の格安中古住宅が物件サイトに登場する機会もほとんどなくなってしまったが、地元の不動産会社には、知名度と利便性の割に地価が安く、かつ財政状態の良い成田市内の物件を希望する問い合わせの電話が今も止まらず続いているはずである。ところがそれに対し、限界分譲地の売地に関しては、大栄町であろうが空港が近かろうが、相も変わらず動きも鈍ければ、品不足に陥る兆しもまったく見られない。つまるところ、需要があるのはあくまで格安の中古住宅というだけで、新築用の住宅用地としての需要は既に失われているのだろう。旧大栄町には、大栄ニュータウンという比較的規模が大きく管理状態が良好な住宅団地もあるが、こちらの団地もまた、このコロナ禍にあっても更地の動きは鈍いままだ。

 
 さて今回紹介する分譲地は、そんな旧大栄町の多良貝(たらがい)地区と一坪田(ひとつぼた)地区の2地区にまたがるように作られている古い限界分譲地である。成田空港の西側は、未だ広大な畑作地帯が広がる中に、わずか数区画程度の極めて小規模な分譲地が散在しているのだが、その中ではこの分譲地は比較的区画数の多い方であると言える。
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成田空港西側、広大な畑作地帯の中にポツンと位置する多良貝・一坪田の限界分譲地。

 周辺は見渡す限り平坦な農地だが、分譲地に近づいてみると、そこだけすり鉢状の地形で周囲より低くなっているのがよくわかる。往々にして、高度成長期以後に開発された住宅地というものは、農業に適していない地形の土地を開発業者が二束三文で取得して造成していることが多いが、この分譲地もまた、一目見ただけで不安になるような窪地である。と言うのも、八街もそうなのだが、丘陵上の台地において周囲より一段下がった地域はきわめて水はけが悪く、少々強い雨が降った程度で簡単に冠水してしまう事が多いからだ。
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分譲地はすり鉢状の窪地に形成されている。

 分譲地は70年代の半ば頃に開発された古いものである割に、道路の幅員は狭くない。並ぶ家は80年代末以降の建築と思われるものが多いが、分譲地西端に並ぶ幾戸かは空き家となっており、既に屋根に穴が開いて再利用が難しくなっていると思われるものもある。元々空港西側のミニ分譲地は、あまりに小規模すぎるためか管理状態の悪いところが多く、以前は4区画に並ぶ家屋が全部空き家、という分譲地もあったのだが、冒頭でも述べたように昨今は中古住宅の需要が高まっているため、今ではそれらの空き家の再利用も進んでいる。ここのように、今でも空き家が軒を並べている光景を見る機会も、以前より減っている気がする。
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分譲地の西端に立ち並ぶ空き家。
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壁は薄汚れ、しばらく使われている気配がない。
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こちらの空き家はすでに屋根材が剥がれて穴が開いており、再利用には多額の修繕費が必要になると思われる。

 珍しいのは、この西側の家屋には、それぞれ敷地内に一本ずつ街灯が設けられている点だ。ここは私道で行政は街灯を設置しないので、分譲地内の街灯の管理負担を各戸に振り分けた名残であろうが、当然のことながら空き家の街灯が機能するはずもない。また、空き家ではなかったが、既にへし折れて放置されているものもあり、つくづく共用設備の維持管理の困難さを思い知らされる。
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各戸の敷地内に設置されている街灯。当然のことながら、空き家の街灯は機能しない。
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既にへし折れて放置されている街灯。

 分譲地は、外周部分の高いところにある区画は比較的家屋が多いが、すり鉢の底部にあたる中心部は空き地が多い。最も低いところにある向かい合った2区画には日栄不動産の看板があり、売地の看板もある。2021年5月現在、この2区画(約40坪弱)はいずれも70万円という売値で広告に出されているが、両者ともすでに数年間にわたって広告が掲載され続けている塩漬け物件で、求心力は弱い。

 それもそのはず、特に北側の区画の前面道路は分譲地内のゴミ集積場として利用されているのだが、画像を見てもお分かりの通り、成田市指定のゴミ袋に入れられた資源ゴミ(訪問日は資源ごみの収集日より数日前だったが既に出されていた)の他に、本来家電リサイクル法で専門業者引き取りに指定されているはずのブラウン管テレビや、粗大ごみ扱いの布団までもが不法投棄されていて、ここに家を建てようものなら、今後も引き続き自宅前に有害ゴミが不法投棄される可能性を示唆している。広告を見る限り、両区画とも過去に値下げが行われた旨の記載があるが、この状況ではそれも致し方ないことであろう。
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すり鉢状の底部にあたる分譲地の中心部はほとんどが更地である。
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ゴミ集積場を挟んだ2区画が日栄不動産取扱いの売地になっており、いずれも40坪弱で70万円。
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ブラウン管テレビや布団が不法に投棄されたゴミ集積場。
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集積場前の売地の広告。違反ゴミの状況が改善されない限り売却は厳しいかもしれない。(Yahoo!不動産より)

 しかし、ゴミ集積場の現状以上に、この分譲地には極めて深刻な問題がある。この分譲地の側溝は、最も低地である東端部へ向けて排水が流されているのだが、側溝の東端では排水が溢れてしまっており、恒常的に汚水が路肩に沈殿しているようなのだ。非常に不可解なことに、この分譲地の東端の先は、再び上り坂になっており、つまりすり鉢状の窪地の一番低い箇所に排水が沈殿していることになるのだが、そこには調整池があるわけでもなく、農業用の排水路に接続されている気配もなく、沈殿個所の側溝は既に汚泥に埋もれてしまっていてもはや視認できない。つまり一言でいえば、ここの側溝の排水は事実上、路上や隣接地への垂れ流しなのである。
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排水が溢れかえり、沈殿している側溝。
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側溝の排水は流出先もなく、事実上の垂れ流しと化している。

 旧大栄町には、一部の団地の集中浄化槽の設備を除き下水道の処理施設はなく、各戸の排水処理はすべて個別浄化槽である。現在は、新規の住宅建築にあたって、トイレの汚水のみを処理する単独浄化槽の設置は禁止されており、家庭内の雑排水はすべて合併浄化槽での処理を求められるが、80年代末ごろまでの家屋はいまだその多くが単独浄化槽で、台所や浴室の雑排水はそのまま側溝へ流すか、あるいは浸透桝で処理されている。実際、ここの分譲地にある家屋には、汲み取りトイレの臭突が見られるものもあるので、おそらく今なお合併浄化槽の設置が行われていない家屋は複数存在すると思われる。
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分譲地内の空き家の一つ。門扉の隣に、汲み取りトイレの臭突が見える。浄化槽が設置されていない可能性が高い。

 沈殿した排水には藻が発生し、上部から流れ着いたであろうゴミが浮遊している。あまり書きたくないがヘドロのような異臭も鼻につく。訪問日は晴天だったので確認できなかったが、この現状と地形を見る限り、降雨時には汚水が路上へ流出することも考えられる。住宅地の光景として、これはあまりに無残なものだ。よほど不誠実な業者でもない限り、この現状を以てして、この分譲地を「住環境良好」と評することは憚られるであろう。
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藻が発生し、ゴミが浮遊した汚水。匂いも鼻につく。

 前回投稿した「つつじが丘団地」の記事の中で、僕は住民主導の共用設備の維持管理の困難さを説いた。過大な負担を強いる自主管理のシステムが、こと限界分譲地においては時代にそぐわなくなりつつあることは、決して的外れな指摘ではないと考えているが、一方でこちらの分譲地は、自主管理の機能がない分譲地の共用設備のなれの果てを、実に分かりやすい形で体現している。

 もっともこの分譲地は、そもそもの側溝の構造そのものに欠陥があると言わざるを得ないので、現状の責任をひとり住民に押し付けるのは酷な話だと思うものの、いずれにしてもこの事象は、僻地の分譲地におけるインフラ維持の困難さを証明するものであろう。すでに機能不全に陥ったこんな共用設備を、この先誰が修繕し、維持管理していくのか。冒頭で述べたように、現在北総の格安中古住宅は、安価な賃貸物件としての転用が続いているが、インフラ面の問題解決を先送りにしたまま、再び北総の物件の多くが不在地主の手に渡っていくことに、僕は一抹の不安を覚えざるを得ない。
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排水垂れ流しの分譲地へのアクセス


成田市多良貝・一坪田
・東関東自動車道大栄インターより車で約15分