北総や外房方面の限界分譲地の光景を特徴づけるもののひとつとして、空き地に立てられた草刈り業者の看板がある。投機目的で分譲されたこれらの未利用宅地は、所有者のほとんどが遠方(印象として、東京と神奈川が多い)に住んでいて、しかも分譲から長い年月を経た今日では高齢となっている方が多く、自力で所有地の管理がままならないので、こうした管理業者に草刈り作業や、場合によっては仲介を依頼している。看板が立てられた土地は、所有者と連絡が取れる状態である証でもある。
埴谷 農村の分譲地 (8)
空き地に立てられた草刈り業者の看板。北総の分譲地ではどこでも見かけるものだ。

 使っていない空き地であれば放っておいてもいいのでは、と思われる向きもあるかもしれないが(実際、管理もされず放棄されている空き地は山ほどある)、雑草が繁茂すると近隣住民からクレームが入りやすいうえ、全く管理されていない空き地は、無断駐車や不法投棄者の格好の餌食となるので、誰が考えても無駄金としか思えない除草費用を、不在地主は延々と負担し続けている。

 下の画像をご覧いただければお分かりだと思うが、それほど高額なわけでもないとはいえせっかく費用を捻出して草刈りを行ったところで、雑草など3か月もすれば元に戻ってしまうものであり、それはまさに賽の河原の石積みと呼ぶに相応しい不毛な出費である。そして「未利用宅地の除草」などという一見ニッチに見える事業が、一産業として成立してしまうほど(主な草刈り業者は数社ある)、北総、外房にはいまだ膨大な数の宅地が取り残されているのだ。
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草刈り作業が施された直後の、僕の自宅近所の売地(2018年6月30日撮影)。
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3か月後(10月2日)に撮影した上の画像の売地の模様。雑草はいくら刈っても、3か月で元に戻ってしまう。


 さて、今回紹介する分譲地は、富里市のはずれ、芝山町の「バルールド成田」に近接したミニ分譲地である。谷津田に面した丘陵上の斜面を切り出して造成してあるのだが、かなりの斜面に造成してあるので、入り口付近から急坂になっている。急斜面に造成された住宅地は横浜などでは普通に見かけるが、横浜のような大都会ならともかく、こんな北総台地の最果てならば造成するにしてももっと他にマシな場所があっただろ、と言いたくなる地形である。そして実際、もっと他のマシな場所に家を建てる人が大半であったようで、家屋は9戸しかなく、他はすべて空き地だ。
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丘陵の斜面を切り出して作られた分譲地。
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分譲地から谷津田が見える。
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急斜面を造成してあるため街路の勾配がきつい。しかも未舗装だ。
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斜面上に造成された宅地。

 分譲地の入口には、昔懐かしい白熱灯用の街灯が建てられているが、既に錆び付き、電球も取り外され、使われていない。未利用宅地の多い分譲地の街灯は、このようにメンテナンスもされず放棄されていることがほとんどだ。中に進むと、その街灯が根元からへし折れ、道端に放棄されている。区画数の少ないミニ分譲地は管理組合もなく、自治会も単一で構成していないので、そもそも共有部のメンテナンスを行う仕組み自体が構築されていない場合もある。
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白熱灯の街灯が残されているが、既に使われていない。
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街灯は折れ、道端に放棄されている。

 分譲地内には前述のように9戸の家屋があるが、いずれも築年数は古く、外観から推定して70年代後半から、新しくてもせいぜい80年代初頭のものだ。バブル期ごろから急速に普及し始めたサイディング外壁の家屋もなく、モルタル壁の家ばかりで、ここはバブル時代の地価高騰時にも宅地として利用が進まなかったようだ。そして、この9戸の家屋のうち、少なくとも3戸は確実に空き家であり、3戸は正直住んでいるのかどうかわからない微妙な管理状況で、1戸は貸家として現在も入居者募集中である。
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分譲地内。築年の古い家屋しかない。
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分譲地内に残されている空き家。

 その貸家だが、実は僕が現在借りている貸家と同一のオーナーが所有しているもので(オーナーは北総の戸建を専門に扱う投資家である)、3DKで家賃は45000円とお安めだが、駐車スペースが狭いうえ、立地もあまり良いとは言えないので、数か月前から空室の状態だ。一応、貸家の隣の更地が30万円で売りに出ているものの、はっきり言ってまともに家を建てられるような空地ではなく、この土地も購入して駐車場用地にしてしまえばいいのに…と思わなくもないが、ともあれ現在も入居者募集中である。

 ちなみにどうでもいいことだが、売地の看板に「ほんぶしん」と名前がある。「ほんぶしん」とは天理教系の宗教団体の名前なのだが、関係があるのかは不明だ。

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現在も入居者募集中の貸家。3DKで家賃は45000円也。
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ホームズに掲載されている貸家の物件広告。
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貸家の奥の区画が30万円で売られているが、狭いうえにおそらくがけ条例に抵触する。

 分譲地の入口は県道45号線側にもあるのだが、こちらの入口は雑木に埋もれており、一見しただけでは住宅地の入口には見えない。富里のこの辺りの分譲地はどこもそうだが、この分譲地も管理状態は良くなく、擁壁も傷みが激しい。空き家の状態や、残された家屋の築年数から考えても、先行きの見通しが暗い分譲地であると言えよう。
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県道側の入口は樹木に覆われているうえカーブの途中にあるので、利用する人は少ないようだ。
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擁壁に亀裂が見える。


 さて、ここまで分譲地の画像をいくつか紹介してきたが、勘の良い読者の方なら、もうお気づきかもしれない。そう、ここの分譲地の空地は、草刈り業者の看板が少ないどころか、ほとんどの宅地が、赤茶けた土がむき出しで、雑草が生えていないのである。確認を取ったわけではないので断定はできないのだが、車両が乗り入れているわけでもないのに、宅地上だけ一切雑草が生えない状況というのは自然では考えにくく、そもそも雑草が刈られた形跡すらなく、ここはどうやら未利用宅地に除草剤を撒いている様なのだ。この分譲地はこれまでにも異なる季節に何度か訪問しているが、いつ来ても雑草がほとんど生えていないのである。
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雑草がほとんど生えていない宅地。

 草刈り業者は除草剤は使わない。それは、これらの未利用宅地の購入者の多くが、家庭菜園用地として取得するためであると思われるが(まあ、また雑草が生えてくれないと困る、というのもあるんだろうけど…)、ここはそうした草刈り作業を放擲して、除草剤で対応しているようなのだ。

 僕は除草剤や農薬に関する知識は皆無であり、この場で、ことさら環境保護を振りかざして憶測のみで除草剤の影響を云々するつもりはない。しかし、特にその業務に深く携わっているものでもない限り、除草剤に関して造詣が深い方というのは多数派ではないのでないだろうか。しかもこの分譲地の場合、生活用水は井戸水で確保しなくてはならず、実際は無害な除草剤を使用していたにせよ、それが単なる知識不足に起因しているものであったにせよ、その土地を取得して井戸水を汲み上げ生活するとなると、除草剤に一抹の不安を覚えてしまうことを、責めることはできないのではないか。
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 まず何より、前述のように北総の売地は家庭菜園用地としての需要が多く、特に都市部から移入してきた方は庭に菜園を拵える方が多い。管理の手間は省けるかもしれないが、除草剤の使用はそれだけで大きな需要を失ってしまうことは確実なのである。これはここの分譲地に限らず、未利用地を多く抱える限界分譲地にとって悩ましい問題だ。冒頭で述べたように、不在地主の多くが高齢となった今、今後は草刈りも行われず、場合によっては所有者情報も散逸した空地は増えていくだろう。近隣住民で空地の管理をするケースもあると思われる(僕が今暮らす分譲地にも、近隣住民が管理する空き地がある)。

 確かに草刈りは負担が大きく、僕自身、仕事が忙しく自分の借りている土地の草刈りも進んでいない。だが、いくら雑草が繁茂してしまうと言え、除草剤は果たして使うべきであるかどうか。個人的な意見としては、環境云々ではなく、移入者の需要を失ってしまうという点において、除草剤の使用には反対である。必ずしも除草剤についての正確な知識を持ち合わせていない方も少なくないからこそ、イメージは大事なのだ。
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賽の河原の石積みを放擲した分譲地へのアクセス

富里市十倉
 ・圏央道松尾横芝インターより車で7分
 ・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場より空港シャトルバス「横芝屋形海岸行き」 「芝山文化センター前」バス停下車 徒歩10分