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 山武市の蓮沼地区は、元は山武郡蓮沼村と呼ばれた一自治体で、2006年、周辺の山武町・成東町・松尾町と合併して消滅した山武郡最後の村制自治体である。1889年に蓮沼村が発足して以来、一度も周辺自治体と合併することなく細々と村制を続けてきた小村であったが、平成の大合併の流れには逆らえなかったようだ。
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 基幹産業は農業で、海に面してはいるものの遠浅のため漁港はなく、合併した今日もなお産業規模の小さい農村地帯であるが、おそらくご存知の通り蓮沼には、大きなウォータースライダーを備えた「蓮沼ウォーターガーデン」が存在し、オフシーズンは人影もほとんどない静かな農村は、夏休みになると、子連れのファミリーや若者グループが大挙して押し寄せる北総随一のレジャースポットとなる。
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若者からの人気が高い蓮沼ウォーターガーデン。

 昨今は、砂や海水の後処理を要する海水浴場よりも、こうしたプール設備を備えたレジャー施設の方が喜ばれるようで、九十九里浜の海水浴場が、近年いくつも閉鎖されていく中、蓮沼ウォーターガーデンはおそらく8月の1か月間のみで、蓮沼地区の人口をはるかに上回ると思われるレジャー客が押し寄せる。

 蓮沼ウォーターガーデンの運営会社は第3セクターで、今年(2018年)で開業から43年が経過し、意外と歴史は古い。そして、蓮沼も含めた九十九里浜沿岸の自治体には、このウォーターガーデンの開業時期とほぼ同時期ごろに開発されたと思われる分譲地が星の数ほど残されている。もとより、それらの分譲地にせよこの蓮沼ウォーターガーデンにせよ、往年の開発ブームの只中に生まれたものだ。
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オフシーズンは人影もほとんどないが、夏場は多くのレジャー客で賑わう。

 蓮沼に隣接し、やはり多くの旧分譲地を町内に抱えている横芝光町出身の知人が語るところによれば、これら海岸近くの分譲地は、当ブログでこれまで紹介してきたような郊外住宅地ではなく、別荘・リゾート用地として開発されたもので、その知人の言葉を借りれば「べらぼうな値段」で分譲されたものであるとのことだ。
 
 それがどれだけ「べらぼうな値段」であったかは、今日に至ってもなお売れ残っている空き地が、売主によって販売価格に数倍もの開きがあることから容易に想像できるが、結局のところ、住宅用地であろうと別荘用地であろうと、それが実需に要請されて開発されたものではなく、あくまで「住宅地になったらいいな」「リゾートになったらいいな」という能天気な希望的観測を原動力とした投機目的先行型の分譲地であったことに変わりはない。

 ただ分譲の体裁を取り繕っただけでロクな共有設備もないこれらのB級別荘地は、今となっては限界ニュータウン同様、荒れ果てた空き地ばかり残された無惨な「限界分譲地」と化しているのが実状である。
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九十九里浜沿岸の自治体には、既に需要を失った、膨大な数の旧別荘地が残されている。

 旧蓮沼村は昔も今も鉄道駅がなく、高速道路や有料道路もない、九十九里浜沿岸でも特に交通アクセスの悪いエリアであるが、先に紹介したウォーターガーデンの存在もあってか、旧蓮沼村地区にも古い別荘用地がいくつも残されている。ところが蓮沼は、2011年の東日本大震災で津波の被害があったためか、九十九里浜で最も規模の大きい海浜公園とレジャー施設を備え持っているにもかかわらず、その周辺の分譲地は九十九里の他の地域と比較しても値崩れが大きい。今回は、そんな蓮沼に残された旧別荘地を歩いてみることにした。
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総武本線の横芝駅。蓮沼方面へのバスが発着する鉄道駅のひとつ。
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横芝駅と蓮沼村を結ぶ千葉交通の蓮沼循環線。

 蓮沼村へのアクセス手段は数通りあり、いずれもバスを利用することになるが、どういう訳か蓮沼まで結ぶバス路線は、運行本数こそどれも少ないもののバリエーションに富んでいる。同じ山武市内の旧成東町、旧山武町、旧松尾町はバス便の途絶した交通空白地帯を広く抱えているにもかかわらず、旧蓮沼村だけは、ちばフラワーバス海岸線(成東駅発着)、千葉交通蓮沼循環線(横芝駅発着)、山武市コミュニティバス(日向・成東・松尾駅発着)、空港シャトルバス横芝線(成田空港発着)に加え、更に横芝光町のコミュニティバスも蓮沼近隣を通過するルートがあり、人口規模に対して妙にバス網が多い。
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成東駅と蓮沼を結ぶちばフラワーバスの海岸線。
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山武市のコミュニティバスの終点は蓮沼海浜公園だ。
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横芝の屋形海岸から蓮沼を経て成田空港へ向かう空港シャトルバス。

 確かに夏休みのレジャーシーズンには、これら蓮沼方面への路線バスはどの系統も、プールへ向かう若者ですし詰めになるが(さらに臨時バスも運行される)、オフシーズンは昨今のバス業界の情勢から見ても、また蓮沼地区の人口から見ても(2018年現在で約3900人)、どう考えてもオーバースペックであり、なぜ山武市内の他の地域を差し置いて蓮沼ばかりバス路線が多いのか、推察するに、これは同じく鉄道駅を持たない多古町が今でもバス事業に熱心なのと同様、旧蓮沼村は鉄道駅がなかったからこそ、村制時代からバス路線の維持に尽力していたのではないだろうか。

 鉄道駅を抱える自治体は、どうしても鉄道の維持や駅前の整備に熱心になり、バス網は二の次にしてしまいがちであるが、鉄道駅のない自治体はそれこそバス網の維持が死活問題で、それが合併後の今でもその名残を残しているのではと思われる。
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成東、松尾、横芝、そして成田空港への4駅へアクセス可能な蓮沼村のバス路線。
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空港シャトルバスの「蓮沼出張所」バス停は駐車場も豊富で、パーク&ライド機能を備える。
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建前上「みんなが待ってる」とは言うものの、現実に芝山鉄道の延伸の可能性を信じる地元住民はおそらくいない。

 さて、蓮沼の別荘地は、集落の合間に点在する畑や雑木林を潰して造成したような立地が多く、別荘地だけがひとかたまりになって立地しているものはない。地形も平坦なので、南房総の別荘地のような海を望める高台というものもなく、あるいは一宮のようにレジャー客向けの小洒落た飲食店やサーフショップのようなものも見当たらず、周辺はごくありきたりな農村風景ばかりで、率直に言ってこれでは別荘地として勝ち目はなかった理由も分からなくもない。未利用地の多い分譲地はおしなべて管理状態も悪い。
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典型的な蓮沼の旧別荘地。周囲には雑木林と畑しかない。
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管理不全の別荘地も少なくない。

 それでも海岸付近に出れば、宿泊施設も点在し、少しはリゾート的な雰囲気にもなるのだが、海岸付近の別荘地も未利用地が多いことに変わりはなく、オフシーズンであることもあって非常に寂れた雰囲気だ。道幅も異様に広いのだが、実際に道路として供用されているのは2車線のみで、残りの車線はガードレールで封鎖されている。往年はより大規模な開発計画があったのだろうが、それが達成されることもなく未成道路とし放置されているのだろう。現在はただの駐車スペースとして利用されているのみである。
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海岸付近の別荘地も大半が更地だ。
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海岸近くの道路は一部のみ供用され、残りは単なる駐車スペースと化している。

 別荘地に足を踏み入れてみると、更地にはおなじみの草刈り業者の看板が立ち並び、これまで僕が紹介してきた限界ニュータウンとまったく変わらない光景が広がっている。建てられた家屋も、一見して別荘と分かるものも多いが、どう見ても一般の民家にしか見えない生活感にあふれたものも少なくない。このエリアの別荘地は、当初は別荘用地として分譲されたものの、のちの地価高騰の時代に、一般の住宅用地として利用されることもあり、別荘と一般民家が混在しているところが多い。
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草刈り業者の看板が並ぶミニ別荘地。
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元は別荘用地であるが、一般の住宅用地として利用されているケースも多い。

 一方の別荘風の家屋は、訪問日がオフシーズンの平日であることもあり、ほとんどが人の姿もなく雨戸が閉ざされているのだが、今でも別荘として活用されている建物と、既に長年にわたってほとんど足も踏み入れられていない建物は一目で見分けがつく。そして、元々海岸に近いエリアと言うのは塩害が多く家屋が傷みやすいこともあり、もはや空き家を通り越して廃墟となりつつあるような別荘があまりにも多い。不思議と蓮沼周辺の別荘は売物件として見かける機会も少なく、再利用もされずにただ朽ちていくばかりのようだ。
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長期間放置されていると思われる別荘は至る所で見かける。
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無住となった海岸近くの建物は、潮風で劣化が進む。
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贅を凝らしたバブル風の別荘。だが、あまり管理が行き届いているようには見えない。

 高度成長期からバブル期にかけて全国各地で開発された別荘地は、近年は需要の減少が著しく、多くの地域で値崩れが起きている。湯沢のリゾートマンションが10万円、などという話題がニュースを賑わしたこともあるが、関東においても、茨城などでは、「頼むから誰か引き取ってくれ」と言わんばかりの捨て値の中古別荘を見かけることもある。そんな状況の中、震災の被災地となってしまった蓮沼の別荘地の将来はあまりに暗いと言わざるを得ない。

 しかしながらその一方で、冒頭でも述べたように蓮沼は、今でも夏場は大勢のレジャー客で賑わう人気の観光地でもある。成田空港からのアクセスも容易で、このまま放置されていくのは勿体ない気がするのだが、今となっては、このような分譲地はもはや時代が要請していないのだろう。
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