建築不可の分譲地

旧サブブログ: 海辺の限界分譲地

 メインブログの開設当初に、僕は山武市内のある放棄分譲地の記事を投稿したことがあった。そこは、家が一軒もなく住民がいない代わりに、馬の飼育が行われていた(もういないらしい)という珍奇な分譲地で、当時の僕は、こんなところに住む人いるのか、といったような厳し目の評価を下していたが、その後、Twitterで何名ものフォロワーさんより、その分譲地の見学に行ったことがありますとのお話を伺った。

【参考】「山武市埴谷 封鎖された密林の分譲地

 最初は驚いたが、どうやら、周囲が森に覆われた、家が一軒もないロケーションが逆に魅力的であるようだった。今になってみれば、僕もその魅力はよくわかる。ズラリと隙間なく家が並ぶ住宅地で良いのなら、何もわざわざ不便で余計な生活コストの掛かる限界分譲地(地価は安いが)である必要がなく、むしろ今の限界分譲地は、そうした隠れ家的ニーズのほうが案外強いのかもしれない。

 しかし困ったことに、家が一軒もない放棄分譲地というものは、そのほとんどが建築確認申請が通らない、つまり建築不可の分譲地である。上記の山武市の放棄分譲地も同様だ。

 多くの限界分譲地を抱える北総の自治体は、その分譲地の開発当時はすべて都市計画区域外であった。そのため当時は建築確認申請も必要なく、販売時に法律上の接道状況が問われることはなかったのだが、その後区域指定を受け、県が道路認定を進めていく中で、家が一軒も建てられていなかった放棄分譲地内の道は、建築基準法の道路として認められず、建築確認申請の通らない分譲地になってしまった。

 ただ、これも厳格に統一された基準があるわけでもないようで、無住の分譲地の中でも、きちんとアスファルトで舗装され、一見すれば今でも車両の通行が可能そうに見えても、建築基準法上の道路としては認定されてなかったり、逆に今では徒歩でも進入を躊躇うような荒れ果てた道でも、台帳上では道路認定を受けているところもある。

 また、ごく一部だが、既存の建物があるのになぜか未だに道路認定を受けられていない分譲地もあり、そんな分譲地はもちろん再建築不可である。その無情な仕打ちはまさに「住宅地」に対する死刑判決と言っていい。

 その道が建築基準法上の道路に該当するかどうかは市町村役場でも調べられるが、ごくまれに土木事務所と役場で見解が異なることもあるので、管轄の土木事務所に問い合わせるのが確実である。

 ただし地図上では一本の直線道でも、部分的に認定されていなかったり、道路の種類が異なっていたりすることもあり、口頭では説明が難しいので、面倒でも直接出向いて台帳を確認してもらうのが良いと思う。

 もっとも本来は、こんなものは不動産屋が行う仕事で、その物件が無道路(接道がない)の場合は、重要事項説明書にその旨を記載しなければ100%トラブル不可避だが、さすがに無償譲渡も珍しくなくなってきた昨今の限界分譲地市場では、扱う業者も限られてくるので、今後は自分で調査する必要も出てくるかもしれない。

 なお、基本的には専門の業者しか問い合わせないことなので、職員の方も「そこは1項3号ですね」という感じで、遠慮なしに専門用語で解説してくるが、そこは聞き直せば丁寧に解説してくれる。

 ところで、以前山武市の海岸近くにある、道の両脇に篠竹が迫っているような、荒れた分譲地(無住ではない)の道路の種類を調べようと山武市役所を訪ねたところ、台帳上では一応道路認定は受けてはいたものの、その横に「要調査」の注記があったことがある。

 聞けば、元々は道路認定はされていたのだが、今は荒れていて道路として利用されている実態が確認できないので、建築確認申請を受けたときは現地での再調査を要する、という意味とのことだった。

 確かにその台帳を見ると、今では篠竹が群生してまったく足を踏み入れられないところまで道路として描かれていて、なるほど状況によっては認定が取り消されてしまうこともあるのだと初めて知ったのだった。これは今後、管理不全の分譲地で同様の事例が増えていくかもしれない。

 ということで、隠れ家的なロケーションで、なおかつ建築可能な放棄分譲地というものは、実は結構限られていて探すのが大変なのだが、見ていると意外とそういう需要もありそうな予感もするので、今後は機会があれば、メインブログでそういう建築可能な放棄分譲地も紹介していきたい。いくつかはその所在を掴んでいる。

 しかし、まがりなりにも住宅用地の名目として販売されたはずの分譲地でありながら、その利用を希望する場合、まずは建物が建築可能かどうか調べなくてはならないというのも奇妙な話である(これは都市部でも同じだとは思うが)。

 そして、不動産会社に売却の仲介を依頼している売主は業者から事情を聞いているだろうが、そうではない一部の地主は、資産として購入したであろう自分の「住宅地」が、いつの間にか単なる地面の切れ端に変わり果てていることに、おそらく今でも気付いていない。

コメント

  1. 深大 より:

    毎回興味深く読ませていただいています。

    素人なのであまりピンときておらず恐縮なのですが、厳然としてそこに車両の通れる路面が存在しているのなら、それは「建築基準法上の道路」にあとから変更してもらう、というのはできないことなのでしょうかね?
    文章を読んでいると、明らかに道路だろ、というものも認められていないようなのですが、どんな基準で認める認めないが決まるのか、あとから変更できないものなのか、よくわからないですね…

    • 吉川祐介 吉川 裕介 より:

      >>深大さん

      コメントありがとうございます。

      僕もその件は、ある放棄分譲地について役場に聞いてみたのですが、基本的に道路認定は県が行うもので、地元自治体に権限はなく、そのため、あまり地域の実情に即した柔軟な対応はしてもらえないみたいなのです。

      仮に新たに道路認定の申請を出す場合は、開発許可を取って、工事を入れて測量を取り直して…という流れになるらしく、個人レベルではどうにもならないものもあるようです。

  2. やろっこ より:

    訪問の仕事をしておった時に世田○区でしたが、隣家が建築基準法で隣家と離して建てなければいけないのに夜中に建築を進めて、建築停止?の張り紙を無視して完成させたとか聞いたことがあります。

    周りに一軒の家もないなら尚更法律ブッチでやらかしてもいいんですかね〜!?

    • 吉川祐介 吉川 裕介 より:

      >>やろっこさん

      コメントありがとうございます。

      なんか、建築を強行してしまえば既得権益みたいになる、なんて話は聞いたことはあるのですが、確証のある話ではありません。

      そういうのは、むしろ田舎のほうが周囲の目が厳しく、密告されるケースもあると思うのです。特に市街化調整区域は、近隣の人も建物が建てられないのを知っているので、強行はまず無理だと聞いたことがあります。

  3. hiro より:

    こんにちは。youtubeから来ました。
    建築基準法42条1項3号道路は、「当該地が都市計画区域に指定された時点(基準時といいます)で存在する幅員4m以上の道」をいいます。2項道路のように、基準時に建物が建ち並んでいることは要件ではないので、「基準時に道路としての形態を有していたか」がポイントになります。
    基準時に役所がすべてのそういった道路を調査することは不可能なので、一般的には過去に建築確認を受けた建物があるかや、基準時前後の航空写真を比較して道路の有無を判断することになります。

    山武市の都市計画区域指定が比較的近年(最終が平成24年?)であることを考慮すると、基準時時点で樹木に覆われてしまっていて道路の形態無しと判断されたものと思われます。

    改めて建築基準法の道路と認めてもらうには、吉川さんが言うように開発許可を取得するか、とりあえず自分の宅地に接道するように位置指定道路(42条1項5号)の指定を受けるか(開発許可が不要となる範囲で)ですが、前者は個人で行うにはかなりハードルが高く、後者も状況により他の地権者の同意が必要になるなど放棄分譲地ではハードル高いですね。
    あとは「基準時に確かに道路があった」ことを証明して、役所と折衝して認めてもらう方法があります。当時の写真とか図面、「公衆用道路」の登記実績などで証明できれば可能性は無くはないです。
    もっとも役所が一度決定したことを覆すのは余程のことがないとしないので、粘り強く折衝する必要があります。時間と根気が必要ですね。

    長文失礼しました。

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