僕がこのブログで紹介している分譲地は、首都圏の一般的な郊外型住宅団地と異なり、都心への通勤を想定して開発されたものではなく、北総に限って言えば、70年代に成田空港の開港を見込んで投機目的で開発されたものがほとんどだ。であるから、そもそも都心への通勤を想定した立地ではないし、バブル期にわずかに移入した居住者も、おそらくこれらの限界分譲地から都心まで通勤していた方は少数派であろう。限界分譲地の主な居住者は、地価狂乱の時代に、地元の不動産市場から取り残されてしまった、県内に勤務先を持つ方々である。
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北総の分譲地のほとんどは都心のベッドタウンではなく、成田空港の開港を見込んだ投資物件だ。

 では、空港特需を見込んだものであるのなら、空港から比較的近い分譲地は今でも活用されているのかと言えば、実は全くそんなこともない。結局、空港関連企業に通勤する市民の多くは、成田周辺に暮らしており、公共交通機関の乏しい空港南部、東部の分譲地は、空港までの距離など関係なく荒れ果てた状態が続いている。

 今回紹介する芝山町朝倉の分譲地は、成田空港の整備地区に隣接する芝山鉄道の芝山千代田駅からおよそ5㎞。5㎞というと徒歩では厳しいが、空港周辺の分譲地としては、大規模に開発された成田市三里塚の住宅地を除き、おそらく空港から最も近い限界分譲地のひとつだ。1975年に撮影された国土地理院の航空写真を見ると、既に造成工事が行われており、僅かながら建築物が存在する模様が確認できるので、成田空港の開港前(開港は1978年。今年は開港40周年にあたる)には分譲が進められていたと推察できるが、問題はその立地だ。この分譲地は、成田空港の滑走路のほぼ延長線上に位置し、現在でも離発着機の航路のほぼ真下にある。
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1975年に撮影された朝倉付近の航空写真(国土地理院空中写真閲覧サービスを利用して引用)。赤枠内が分譲地だ。

 周知の通り、成田空港の開港を巡っては、その用地収用を巡って激烈な反対運動が繰り広げられてきた。空港用地への転用に反発する地主に過激派が売名目的で合流し、時には死者を出すほどの苛烈な暴力闘争が巻き起こっていた一方で、ほぼ同時期に近隣の別の地主はシレッと所有地を開発業者に売り飛ばし、業者はそこが騒音多発地帯であろうとお構いなしに分譲地を造成し、そしてその土地を購入する投資家が存在した、というのは、成田空港の建設史の一断面として非常に興味深いと個人的に思うのだが、あいにくその分譲地は一部の投資家を除きほとんど見向きをされることもなく、分譲からおよそ半世紀を経た今、元の山林に還りつつある。

 分譲地は、県道62号(通称「芝山はにわ道」)から少し入った農村集落の奥。分譲地の入口に差し掛かると、それまできれいに舗装されていたアスファルトの路盤が、突然ズタボロの状態に切り替わるので、そこから先が分譲地の、おそらく私道であることが一目で分かる。この分譲地は戸建住宅が一棟も存在しないので、道路の管理もままならない状態なのだろう。
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分譲地の入口。唐突に路盤状況が悪くなる。
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舗装された形跡はあるのだが劣化が進む。

 分譲地内は、草刈りが施された空き地とそうでない空き地が混在する中、2棟のアパートがある。他にも、古い小屋や平屋の廃屋が存在するが、廃屋は傷みが激しく、到底利用できる状態にない。前述のように、この分譲地はアパート以外に、一般の民家は見当たらず、事実上、賃貸アパートしかない変わった分譲地だ。多古方面では、限界分譲地の中にアパートが建てられている光景をよく目にするが、アパートしかない分譲地というのは初見である。
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分譲地内には2棟のアパートが存在するのみ。他は廃屋しかない。

 そのうちの1棟、居室が4室の白いアパート(上の画像右側)は「パステルハイム」なる名称で、入居者募集の看板も出されているが、電気メーターを確認したところ、居住中の部屋は1部屋のみ、残り3室は空室という驚異の空室率で、入居者は気楽でいいかもしれないが、共有部の適切な清掃も行き届いておらず階段に苔が生している始末で、オーナーの苦悩が滲み出ている。もう1棟の「センチュリーエアポート」は、それよりは部屋が埋まっているようだが、2室は空室であると見受けられた。
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2018年9月現在、4室中3室が空室の「パステルハイム」。
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もう一棟のアパートは入居中の部屋も多いが、満室には見えない。

 分譲地の奥の方はほとんど管理が行き届いておらず、樹木や雑草で街路も塞がれている状態だ。先述の「パステルハイム」の脇の道路に、銀色のプレオが一台駐車されているのだが、よく見るとボンネットに落ち葉が溜まり車体は薄汚れ、ナンバープレートはつけられているものの長期間放置されていることが伺える。この先にもまだ空地はあるのに何とも非常識な話だ。そしてそのプレオの先に、1棟の朽ち果てた廃屋と、草刈り業者の看板が立てられた空き地がある。その更に奥には給水塔の残骸も見えたが、そこまでは藪がひどくて近寄ることはできなかった。
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パステルハイム脇の道路は、駐車車両で塞がれ車両の進入が出来ない。
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パステルハイムの隣にある朽ち果てた廃屋。
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廃屋の隣の区画は、草刈り業者の看板が立つ空き地だ。
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最奥部には給水塔の残骸もあるが、もはや近寄れる状態にない。
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倒木で塞がれた街路。

 それにしても騒音のうるさい分譲地だ。調査日は曇天で、航空機の音が雲に反響してしまうためでもあるのだが、常に上空はゴオゴオと航空機の音が鳴り響き、静寂も何もあったものではない。北総の限界分譲地の売地広告は、周囲に店ひとつなく利便性のかけらもない立地である場合、「閑静な住宅地です」と表記することが多いのだが、ここは閑静ですらない(そもそも住宅地と呼べるかどうかも疑わしい)。これでは個人の居宅の建設が進まないのも無理はない。
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雑木林に囲まれ緑の多い環境だが、騒音が激しい。


 さて、ところでこの分譲地は、草刈りを適切に行っている空き地はいくつもあるのだが、草刈り業者の看板が立つ土地は、先にあげた一区画しかない。他に、家庭菜園用地として活用されている区画もあるが、もう一つ、看板が立てられた空き地があり、それはやはりというか何と言うか、成田空港会社(NAA)のものであった。
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菜園として利用される区画もある。
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NAA(成田空港会社)の所有地であることを示す看板。

 「空港会社の敵と化した放棄住宅地」の記事でも述べたが、NAAは、成田空港周辺の未利用地の取得を精力的に行っていて、こうした旧分譲地の区画だけでなく、空港周辺の農村集落の休耕地にも、NAAの看板が立てられている光景はたまに見かける。芝山町は、数こそ少ないものの他にも、ミニ分譲地と思われる地域がいくつもあるのだが、草刈り業者の看板ではなく、NAAの看板しかないようなところもある。この分譲地も、看板は一つしかないが、管理されている他の区画も既にNAAが買収を進めているのかもしれない。

 しかし、画像を見てもお分かりの通り、草刈りは虫食い状に施されているだけで、いまだ少なくない区画は笹薮が伸び放題で、全く管理されていない。NAAの土地の買収が順調に進んでいない証である。最初にこの手の買収地を見かけた時から不思議で仕方ないのだが、NAAは本気で、こんな放棄分譲地まですべて取得するつもりなのだろうか。空港周辺に散らばるNAAの看板が立つ土地は、どこも管理こそされているものの、一部は太陽光パネルの発電基地に転用されているだけで、大半は今なお更地のままである。こんな猫の額のような狭小地を虫食い状に取得したところで、活用方法などあるはずもない。NAAはこれら小間切れの土地をチマチマ取得して、最終的に一体何を目指しているのか、さっぱりわからないのだ。

 開港までに苦難の歴史を歩んだ成田空港は、土地の収用に強いトラウマがあり、それが、とりあえず買える土地は買っておけ、という方針につながっているのかもしれないが、それにしてもその取得事業のあまりの展望のなさ、そしてなにより、乱開発や所有者情報の散逸が後々に与える影響の深刻さに気が遠くなってくる。土地取引や再利用に関する抜本的な法改正が行われない限り、NAAの苦難は今後も続いていくだろう。
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こんな分譲地を虫食い状に取得して、NAAはどうするつもりなのだろうか。


追記:
 本記事投稿後に、読者の方より、これらNAAの所有地は、騒防法に基づく移転の跡地であるとご指摘を受けました。NAAは更地でも買い入れを行っているとのことで、必ずしもNAA側が積極的に買い入れを進めているわけではないようです。記事の内容が、あくまで推察のみで構築された与太話になってしまいましたが、いずれにせよ無用の土地の買い入れを迫られるNAAにとっては苦難以外の何物でもないと思うので、当記事はこのまま公開を続けさせていただきます。読者の皆様からの的確なご指摘が、当ブログを支える重要な柱となります。どうぞ今後ともよろしくお願いいたします。 

 
NAAの看板が立つ朝倉の分譲地へのアクセス

山武郡芝山町朝倉
・東関東自動車富里インターより車で20分
・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場より空港シャトルバス「横芝屋形海岸行き」 「芝山中学校入口」バス停下車 徒歩6分