貸家の供給過多

空き家
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 昨今は空き家問題と絡めて、住宅の供給過多の問題がよく取り沙汰される。特に大都市部から遠く離れた地方の小都市や農村では、築年数が経過し補修に多額の費用を要する古家を、無料あるいは10~20万円程度の破格値で入手した、などという話を耳にする機会もあり(僕自身も若い頃に長野県の山村で、借地に建てられたボロボロの古民家を無料で頂いた経験がある)、地方においては中古住宅市場が崩壊しつつあるという話もあながち大袈裟な話でもない気がしてくる。

 

 しかし僕が暮らす北総は、特別な事情でもない限り、中古住宅が無料や捨て値で出回る状況には今のところない。それはまがりなりにも首都圏に隣接したエリアだからか、あるいは空港が近いからなのか、もちろん都心部と比較してその相場価格は大幅に下がるものの不動産市場は今なお形成されており、安物件とは言っても、一般のファミリー向けの戸建は200~300万円程度の値が付けられていることがほとんどだ。
 
 もっとも北総の場合、売りに出されている格安物件のほとんどは、地方の古家のように土着の方が自分の土地に建てたものではなく、元々その土地に縁もなかった一般のサラリーマンが、バブル期前後に高額のローンを組んで購入された築30年前後のものなので、別の意味で事態はより深刻なのかもしれないが。

 

 そんな中、少し前に、芝山町の境辺りにある山武市板中新田の小さな分譲地に建つ、床面積71㎡で築28年の中古住宅が、わずか90万円という価格で売られていたことがある。既に売買は成約しその広告は残っていないのでリンクを貼れないのが恐縮だが、これは僕が北総で見かけたバブル期の中古住宅の中で圧倒的な最安値であった。
 
 確かに物件広告の画像を見る限り、全くリフォームされている様子はなく汚れの目立つものであったが、それにしても築28年の4LDKが90万円というのは、ヤケクソになっているとしか思えない投げ売り価格である。

 

 その売家が、最近になって、またしても例によって貸家として物件広告に再登場している。賃料は45000円。さすがに内装はリフォームしてあり、駐車場1台分の貸家としては近隣相場と変わらないが、元の販売価格を知っている身としてはあまりにも高額に感じる賃料だ。
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2018年9月現在、貸家として入居者を募集している90万円の戸建。(ホームズの物件広告より)

 

 だがこの貸家の問題はそんなところにあるのではない。実はこの分譲地、家屋の戸数は15戸程度の小さな分譲地なのだが、この貸家の他に、2018年9月現在で、同じ分譲地内、つまりはすぐ近所(と言うよりほぼ隣)で、ほとんど同じ床面積、築年数の別の貸家が、全く同額の賃料で2棟も入居者を募集しているのだ。そのうちの1棟は、僕たち夫婦が八街で貸家を探していた2年前から今に至るまで、ずっと入居者が決まることなく広告が出され続けている非業の物件であり、いくら90万円とは言え、そんな分譲地で、近隣物件と何の差別化も図れない同スペックの物件で新たに貸家経営に挑むとはなかなかの蛮勇ぶりであると思わざるを得ない。
 
 ということで、実はここは初訪問という訳でもないのだが当ブログの記事に書いたことはなかったので、今回は軽くこの分譲地を調査してきた。
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同一の分譲地内に、ほぼ同スペックの貸家が3棟並ぶ。

 

 分譲地の所在地は山武市板中新田であるが、芝山町及び富里市との境辺りに位置し、山武市役所(成東)は言うに及ばず、日向にある旧山武町役場よりも芝山町役場の方が近い立地にある。板中新田を含めた旧山武町はここに限らず、利便性や居住性などひとかけらも考慮していない、他に使い道のない傾斜地や雑木林を格安でゲットして適当に造成して割増価格で分譲しちゃいました、という感じの、訳の分からないミニ分譲地が町域全域にわたって目白押しの町なのだが、その中でもこの板中新田の分譲地は、もはやコミュニティバスの路線も途絶した町域の最果てにある。

 

 とは言え日本オーチス・エレベータの芝山工場がある工業団地から近く、頑張れば芝山の旧市街地までは自転車でも行けなくもないが、芝山の旧市街自体スーパーもない非常に小さな町であり、自家用車がなければ45000円の賃料を払い続けるには困難が伴う立地だ。
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分譲地近くにある日本オーチス・エレベータ芝山工場のテストタワー。

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分譲地の周辺は工業団地の他は、広大な畑が広がるのみ。

 

 分譲地は、例によって農地として使い勝手が悪い丘陵の傾斜地上を造成してあり、分譲地内に勾配があり、多くの宅地が街路より一段高い擁壁の上にある。すでに何度も述べていることであるが、擁壁上の宅地は駐車場の増設などの外構工事に余計な費用が掛かることもあり、北総では空き地が多い。しかもここの宅地の擁壁は、外構工事の素人が一目見ても劣化が激しく進んでいるのが分かる状態で、積み上げた間知石は歪に並び、生育した植物の根に押されているのか膨らみも確認できる。
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傾斜地上に造成された分譲地。多くの宅地に擁壁が設けられている。
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劣化が進み、歪な形となった擁壁。

 

 街路の舗装も傷みが激しく陥没が目立ち、側溝も土砂が詰まって一部崩れ落ちているものもある。草刈り業者の看板はいくつか出されているが、未管理の宅地は樹木が生い茂り放題で、山武や富里のこの辺りの分譲地はどこも似たようなものだが、住宅用地としてもはや崩壊の危機にあると言っても過言ではない管理不全の分譲地だ。
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側溝は土砂に埋もれ、崩れ落ちている。

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路盤も傷み、空き地の適正な管理も行われていない。山武や富里の辺境にある分譲地はこんなところばかりだ。

 

 件の貸家は分譲地の奥に建ち並んでいるが、その近くに、蔦に覆われた1棟の空き家がある。実は、こんなことを公にしていいのか微妙だが、実はこの蔦に覆われた空き家も以前格安の価格で売られていたことがあり、すぐに販売広告が消えてしまった。現在においても、全く利用されている気配がないので、売り止めにしたのだと思われる。
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蔦に覆われた空き家。

 

 さて本題である90万円の貸家は、この空き家の斜め向かいにある。まだ売家として販売されていた頃、僕は一度この家を見に来たことがあるのだが、その時は外壁もひどく汚れ、駐車場に放置された荷物なども片づけられていなくてみすぼらしい雰囲気だったものが、さすがに今は貸家として入居者を募集しているだけあって、見違えるほどきれいになっている。しかし駐車場が1台分しかない。この分譲地は街路が狭く、また先述のようにほとんどの空地は擁壁上にあるため北総お得意の無断駐車前提での入居にも抵抗があり、この立地で駐車場1台分というのは厳しいものがある。
 
 ちなみに隣に日栄不動産の看板が立つ空き地があるが、なぜか進入路のど真ん中に電柱が建てられ宅地としても駐車場としても利用が不可能で、この分譲地の常識外れの無計画ぶりを今に伝えている。
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画像左から2棟目、奥の家が件の貸家。

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現状で販売されていた頃よりはずっときれいになっている。だが、駐車場は一台分しかない。

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貸家の隣にある、進入路を電柱で塞がれた謎の区画。

 

 そしてこの貸家からほんの10メートルほどの隣に、6棟の家屋が立ち並んだ袋小路の一画があるのだが、この一画に、同じ賃料で入居者を募集する2棟の貸家があるのだ。いずれもやはり駐車場は一台分しかない。ちなみに2年以上空室となっているのは下の画像の貸家である。
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すぐ近くにある同賃料の別の2棟の貸家。いずれも入居者募集中で空室だ。

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問い合わせ先は東京23区の電話番号となっている。

 

 北総の中古住宅はその販売価格の安さから、しばしば貸家として転用されていることはこれまでも指摘してきたが、それにしても暗澹たる気持ちにさせられるのは、投資家にこのような物件を勧める仲介業者の不誠実さだ。公共交通機関の乏しい北総では、駐車場が一台分しかない貸家は空室リスクが極めて高いことぐらい、地元業者なら十分すぎるほど熟知しているはずで、実際、この辺りで駐車場を複数台分確保できる賃貸物件は、ほぼ間違いなく物件広告にその旨明記されているし、業者自身も必ず書きますと明言している。にもかかわらず、こんな僻地の、駐車場が一台分のハイリスクな投資物件が、今なお賃貸市場に放出されている。

 

 限界分譲地の空き家が貸家に転用されること自体は、僕は悪いことだと思わない。人の手も入らず、そのまま朽ち果てるのを待つばかりの空き家が増加するよりは、若い夫婦が入居する可能性の高い貸家が多く供給されることは、歓迎すべきことだ。特に地価の下落が激しい北総では、購入に抵抗のある方も少なくないだろうし、地価に対して賃料相場は割高とはいえ、気軽に利用できる賃貸物件の幅が広がるに越したことはない。しかし、このような貸家のある種の「供給過多」を目にするにつけ、これはかつての宅地分譲の乱開発同様、単に投資ブームが過熱しているだけで、いつか来た道を再び辿っているだけなのではないか、と思わざるを得ないのだ。
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貸家の供給が続く分譲地へのアクセス

 

山武市板中新田
・圏央道松尾横芝インターより車で10分
・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場より空港シャトルバス「横芝屋形海岸行き」 「横芝中台・殿塚・姫塚入口」バス停下車 徒歩31分

コメント

  1. はくびしん より:

    はじめまして
    ひょんなことからこのサイトを知り、興味深く拝見しております
     
    ストリートビューが入っている分譲地はそちらと照らし合わせて閲覧すると
    紹介されている分譲地には高い確率で、お散らかし気味のおウチがあることに気づきました
    家庭ごみ・家具・家電・廃車・産業廃棄物…
     
    私は以前、自然を求めて郊外型の分譲地に住んでおりましたが
    時が経つと、マナーの悪い住人が増え、爆音マフラーの自動車やバイクが出入りし
    分譲地内公園・ゴミ捨て場などの利用状況が悪くなり、住環境が悪化して住み替えたことがあります
     
    郊外型分譲地にはこのような(民度の低い)人を引きつけるなにかがあるのでしょうか
     
    吉川様も住宅建築をお考えのようですが、資産形成において失敗のないように
    お祈りいたします

  2. 吉川祐介 より:

    @はくびしんさん
    初めまして。コメントありがとうございます。
    早速ですが、ご指摘の通りです。このブログは土地利用に関するブログなので、本文中では、住民の生活状況や住民気質に言及することは控えていましたが、コメント欄でこっそりお話しすると、実は限界分譲地調査において、敷地内のお片付けがまったく進んでいない住宅を見ることは珍しくありません。
    人が自らの住まいをゴミ屋敷としてしまう心理については僕も詳しくないので、あまり迂闊に憶測も重ねられないのですが、とりあえず北総の超郊外の場合、元々収入的に、当時の高額な分譲住宅のローン返済能力を有していなかった方が少なくない、というのも遠因としてあるのではと思います。
    競売物件情報を見ていると、居室内が乱雑をきわめ、債務者の荒んだ生活が透けて見えるものが少なくありません。競売にこそかけられなくとも、高額のローン返済が生活を圧迫し、その生活も荒廃していくのかもしれませんね。
    また、暴走族などに関しては、ひとつは地域の教育格差の結果だと思います。元々進学校というものは多くの町において中心部に位置し、逆に町はずれや田舎の学校はお世辞にも優秀とは言えないところが多く、そしてもうひとつ、田舎の方は若いうちからオートバイや車に触れる機会が多い、ということも理由としてあるのではと思います。学業に励む暴走族などいませんので、行き場のない劣等生がバイクで遊びだす、ということかなと思います。僕自身、市内で最も偏差値の低い中学校の出身でしたのでこの類の同級生が多く、自身の経験から照らし合わせてもおおむね間違いないと思います。
    暴走族くらいなら、ハエが飛んでいる程度の認識しかないのであまり気にもならないのですが、さすがにゴミ屋敷のある分譲地は候補から除外しますね。北総の分譲地で資産形成も難しい話ですが、せめて快適な居住空間を失わずに済ませたいものです。

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