横田 沖渡 (4)
 少子高齢化や人口減、都市構造の変化によって縮小が進むこれからの日本の住宅市場において、北総の限界分譲地は、一体どのようなポジションが求められているのだろう。どこにもポジションがないから坪1万円なんですよ、と言われれば返す言葉もないのだが、商品としての不動産の価値を云々するならともかく、人が自らの住まいを選ぶ要件としては、何も資産価値のみがすべてではあるまい。

 当ブログで紹介している限界分譲地は、ただ立地が田舎にあるというだけで分譲地の規格は都会のそれと変わらず、テレビや雑誌でよく挙げられるステレオタイプの「田舎暮らし」には不向きであるが、現実に移住を志向する方のすべてが、手に負えないほど広大な農地を必要としている訳でもないだろうし、依然として農業の本格参入は高いハードルがある。

 「就農」なんてそんな大それたことまで考えていないけど、静かなところに住みたい、車やバイクも置ける程度の広さの庭が欲しい、単純に安い土地が欲しい、などなど、工夫次第では限界分譲地だってまだまだ活用の余地はあるはずだと、遂に限界分譲地を購入してしまった僕は常々自分にそう言い聞かせているわけであるが、いくら安かろうとも、いくら資産価値に目をつぶろうとも、住宅用地として超えてはならない一線はあるはずだ。
火野口台団地 (3)
適切に管理されれば、住宅密集地では叶わない環境が望めると、僕は信じている。

 ところが僕がフィールドにしている北総の限界分譲地の中には、要因は様々であろうが、結果として現状、誰のニーズも満たさなくなってしまった管理不全の分譲地が多数存在する。資産価値の低さや利便性の悪さに目をつぶるのであれば、せめても住環境だけは良好な宅地を望むのが普通の感覚だと思うが、それすらも叶えてくれない、ただ安いだけで他に何のメリットも無いような分譲地は珍しくない。今回は山武市横田にある、そんな「誰得ニュータウン」の見本のような分譲地を紹介したい。

 正直、今回の記事は、居住者や区画所有者には不愉快な内容になるとは思うが(今回に限ったことではない)、「選ばれない土地」には選ばれないだけの理由があり、そしてその理由は、ほかならぬ所有者自身が生み出している側面もあるということで、無遠慮な物言いをさせていただくことにする。

(注:今回は調査日が雨天であったために多くの画像が暗く見辛くなっておりますが、数枚の画像は別の日に撮影したものなので、撮影場所は同一ですが天候が異なります)


 その分譲地は、総武本線の八街駅から徒歩で約80分。八街駅から出ている路線バスの最寄りのバス停までは徒歩25分。最近実証実験が開始された空港行きの快速路線バス「さんむウイングライナー」の最寄りバス停「山武北小学校」までは徒歩30分。バス便の立地は資産価値が落ちると言われる住宅市場において、そのバス停までのバスが必要になる立地ではもはや論外レベルであり、早くも子育てファミリーのニーズからこぼれ落ちる、利便性って何ですかと言わんばかりの立地だ。分譲地の眼前には千葉の典型的な谷津田が広がるのみである。ちなみに国土地理院の航空写真で確認する限り、造成時期は80年代半ば頃のようだ。
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谷津田に面した丘陵の斜面を造成した分譲地。

 分譲地に近づくと、いきなり擁壁が崩れ落ちた宅地が目に入る。敷地内は激しく地盤沈下し、家屋は蔦に覆われ、現在は利用されていないようだ。崩落個所には山武市のパイロンが設置されている。家屋は、この辺りでよく見かけるバブル期の規格住宅よりもずっと新しい、昨今流行のタイニーハウスと言おうか、外壁に人気のガルバリウム鋼板を用い、ウッドデッキも備え、質素な田園暮らしを志向したであろう可愛らしい建物であるが、擁壁は激しく崩落し、もはやまともに居住できる状態にない。あまりにひどく擁壁が歪んでいるので、見ていると平衡感覚がおかしくなってくるほどだ。
横田地盤沈下
擁壁がひどく崩れ落ちたタイニーハウス。道路は平坦なのだが、擁壁の歪みで平衡感覚が狂ってしまう。
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更に崩落が進む恐れがあるため山武市がパイロンを設置している。

 これまで訪問した限界分譲地で、擁壁が劣化したり一部欠損している宅地を見る機会は珍しくなかったが、ここまで激しく損傷した擁壁を見る機会は多くなかった。これが単なる地盤沈下によるものなのか、それとも東日本大震災の影響によるものなのかは未確認であるが、この分譲地よりもさらに古い70年代の分譲地ですら震災を乗り越えて今なお健在であることを考えれば、これは杜撰な造成工事に起因するものと推察せざるを得ないが、不思議なのは他の区画ではこのような崩落が一切発生していないことだ。この崩落個所は最下段で境川に面し、谷津田にも最も近い区画なので、水辺で地盤が緩んでいたのかもしれない。いずれにせよ、家屋そのものはまだ放棄するにはあまりに築浅のもので、家主の無念さは察して余りある。

 それにしてもこんな地盤沈下の区画が、よりによって最下段、公道に面した分譲地の入口に鎮座してしまっていては、物件見学者に与えるマイナスイメージは計り知れないだろう。多額のローンを組んだマイホームの隣でこんな崩落が起きようものなら、夜な夜なマイホームが崩れ落ちる悪夢にうなされかねない。この分譲地は以前、33坪の宅地が28万円で販売されていたのだが、それでも長期間にわたって広告が掲載され続けていた理由も納得がいく。分譲地内には、築浅の豪奢な家もあり、その家屋は非常に堅牢な擁壁を再構築させていたが、ただ正直言って個人的に、この分譲地にそこまで多額の費用をかける価値があるかどうかは疑問に感じる。
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このまま放棄するには、あまりに新しすぎる家屋である。
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他の区画は、擁壁の一部に劣化が見られるものの、崩落個所はない。

 分譲地へ足を踏み入れると、巨大な擁壁がひな壇上に並び、ここがかなりの急斜面に造成されていることが分かる。急斜面→農地に不向きで利用価値なし→二束三文でゲット→暴利を上乗せて造成・分譲、という、典型的なニュータウン造成のパターンである。ひな壇分譲地は、盛り土の地盤が脆弱な恐れもあり、また古い擁壁は現在の建築基準法に適合せずがけ扱いとなる恐れもあって、ただでさえ更地が超供給過多の状態にある北総では空き地が多いのだが、ここもご多分に漏れず大半の区画が更地であり、管理会社や仲介業者の看板が立ち並んでいる。

 それにしても分譲地内は高低差が激しく、徒歩で回るのが大変だ。率直に言って、年を取ってからあまりここには住みたくない。もとよりこんな立地では、仙人のような暮らしを追求する向きでもない限り自家用車のない生活など考えられず、徒歩で生活する住民などいないであろうが、擁壁にせよ勾配にせよ、やはり傾斜地の分譲地というのはデメリットが多いと言わざるを得ない。対してメリットと言えば、やはり眺望、採光に優れていることであろうか。
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分譲地内は勾配がきつく、ひな壇の段差が大きい。
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仲介業者の看板が立つ売地。

 ところがこの分譲地は西向きの傾斜地を造成してあるのだが、西側以外の北、東、南の三方向は、分譲地よりもさらに高い崖や擁壁、雑木林に覆われているため、区画によっては極端に日当たりが悪く陰鬱としている。特に東側の擁壁は、とても住宅街に近接するものとは思えないほど巨大で、大変な圧迫感がある。加えてこの辺りは山間部ではないので、開けた西側にも雄大な山々が並ぶわけではなく特段眺望が良いわけでもなく、別のため息しか出てこない。これではわざわざ傾斜地に住むメリットがないと言わざるを得ない。

 なお、山武市のハザードマップを見る限り、この分譲地の外周の崖は土砂災害危険個所に指定はされていないが、分譲地の周囲には複数の指定危険個所が存在する。分譲地前の境川の流域は0.5m未満とは言え浸水想定区域に指定されており、現に地盤が沈下してしまった区画が存在する以上、これでは災害リスクの面から見ても及第点とはとても言えないだろう。
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ひな壇上部からの眺望。別に特筆するほど美しい風景が広がるわけでもない。
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南側に雑木林が迫り、陰鬱とした雰囲気の区画。
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強烈な圧迫感を与える東側の擁壁。

 では、眺望も大したことがなく、むしろ雑木林に覆われているというのなら、逆に考えれば緑に包まれた、小鳥のさえずりが聞こえる住環境なんじゃないか、とお考えの方もいらっしゃるかもしれないが、あいにく周囲に広がるのは多くが腐った竹が縦横無尽に散らばる管理不全の竹林で、汚らしいだけで美しくもなんともないうえ、小鳥ではなく藪蚊の襲来に日々悩まされることになるだろう。

 ただこの分譲地は未管理の区画も多く、既に雑木が無秩序に生育している区画も少なくないので、夏になれば猛烈な雑草が周囲を埋め尽くし、すでに電柱にまで無数の蔦が絡み、山沿いの区画や街路は徐々に元の山林に還りつつあるので、そういう意味では緑に包まれているといえなくもない。 
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南側は荒れ果てた竹林。枯竹が汚らしく散乱する。
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ほとんど住宅がないため管理不全の区画が多く、雑草は街路にまで浸食している。
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蔦が絡んだ電柱。
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山沿いの街路や区画は、造成前の山林に還りつつある。

 そして僕が「汚らしい」と言い切ってしまうのは、何も雑木林や雑草が管理されず生え散らかしているからだけではない。これは、家屋がほとんどない限界分譲地に共通する問題なのだが、とにかく分譲地内やその周辺にゴミが多く、それが一層すさんだ光景を生み出していることだ。不法投棄は、別にそこの住民によるものとは限らないが、ここは宅地内にも、もはや資材とはとても呼べないようなゴミが散乱している区画がいくつもある。そして街路にまで放置車両が置かれ、はっきり言ってその住環境の悪さはレッドゾーンに達しているのだ。僕はこのブログでは、あまり住民の気質について言及したくないが、ここは正直、周囲に配慮した宅地利用が行われているとはとても言えない状況なのである。

 もちろん、その責任のすべてを住民の方に押し付けるつもりはないし、各区画所有者のモラルに左右されている面もあるのだが、住環境はいったん破壊されると、それを元に戻すのは容易ではない。こと北総においては、他に売地など腐るほどあるのだから、わざわざ荒れ果てた宅地を選ぶ奇特な人などまずいない。それがつまりは自らの住まう分譲地の衰退を加速させることになるのだ。 
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街路に放棄された古タイヤ。
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空き地脇に放棄されたミニバイク。
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街路にはみ出して放置されているトラックの荷台。
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街路上に不動車が放置されている。
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売値が安いこともその要因だが、車両置き場に転用されてしまうことはよくある。

 と言うことで、今回紹介したこの分譲地。利便性や資産価値はまったくお話にならないレベルでありながら、特に雄大な自然を満喫できる環境でもなく、むしろ不快指数を上昇させるモラルハザードや負の要素が散乱しているうえ、住民の一人が人柱となってその宅地造成工事の杜撰さを立証し、そして災害リスクもそれなりにある。団地内は急勾配で足腰にも負担がかかるうえ、擁壁の存在で平坦地よりも余計な外構工事費用を必要とする。子育て世代にも、リタイア世代にも、Iターン移住者にも、そして昨今流行のBライファーにすら適していない。まさにこの分譲地こそ、誰のニーズも満たさない「誰得ニュータウン」と呼ぶにふさわしい分譲地であろう。


誰得ニュータウンへのアクセス

山武市横田
・圏央道山武成東インターより車で15分