放棄分譲地というものは、当ブログでもこれまでいくつか紹介してきている。その中にはTwitter上で大きな反響を頂いた記事もあるが、実は僕はこれまで、訪問し、実際に踏査はしたものの、結局記事にすることなくボツにした放棄分譲地がいくつかある。確かに、誰も住むことなく山林に還りつつある放棄分譲地は、純粋な興味は湧いてきて見に行きたくなるものなのだが、いざ記事にするとなった場合、誰も住んでいないうえに使われてもおらず、売地もなく、ただ雑木林が広がるだけの光景では、率直に言って伝えるべき話題・課題がないためだ。言ってしまえば放棄分譲地というものは、ただ造成の痕跡が残されているだけで、耕作放棄地と大差ないものである。

 今回紹介する山武市松尾町山室にある、農村集落合間に残されている放棄分譲地も、僕の自宅から近いので一応は見に行ったものの、結局一度は記事化を断念して、撮影した画像をTwitter上で公開しただけでそのままお蔵入りにしていたものだが、よく考えるとこの分譲地は、そもそも今なお一部の業者が売り物件を取り扱っていてその情報を公開しているから訪問したものであり、それであれば当ブログでその模様をお伝えするのも、ほんの僅かな意義があるのではないかと考え直して公開することにしたものだ。

 ただ、ここは訪問からすでに1ヶ月が経過していて若干記憶が薄れているうえ、先にも書いたように、現状、一切住宅地として利用されていないために、文章でお伝えするべき事柄はこれと言ってないので、今回は撮影画像の羅列に近い内容になってしまうことはご理解いただきたい。僕としては、まあ、北総にはこんな分譲地もあるのだということだけでも伝わってくれれば御の字だと考えている。
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 山武市の松尾町山室は、旧松尾町のはずれ、芝山町と隣接した山村の集落である。駅からも遠く、また成田空港の航路の下に位置するこのエリア一帯は、そもそも分譲地自体が少なく、広大な杉林の合間に既存の農村集落が残るだけの、千葉のどこにでも見られる田舎だが、何故かここに一つだけ、一度も住宅用地として利用された形跡のない放棄分譲地が残されている。
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山室の放棄分譲地の入口。

 放棄分譲地の入口は舗装されていないが、前回の記事でもお伝えしたように、山武市の限界分譲地ではお馴染み「不法投棄禁止」の看板が、事実上の案内標識として闖入者を誘ってくれる。しばらく進むと舗装道路に変わるが、その舗装はあまり上質なものではなく、林道などで見られるような簡易的な舗装だ。
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分譲地内に入ると、やがて舗装道路に変わる。

 分譲地は傾斜地上に造成されたひな壇で、各区画には古びた擁壁が見られるが、画像の通り、そのほとんどの区画は既に猛烈な藪と化している。もちろん家屋は一棟もなく、面白いのは確かに面白いが、住宅地の利用方法として参考にすべき点は何もない、と僕が述べるのもお分かりいただけるかと思う。
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どの区画も荒れ放題で、再利用できる見込みはない。

 そんな、事実上の雑木林と化した区画の合間に、所々、草刈り業者の看板が立つ、整備された宅地がある。ここのところよく言及している大阪系業者の看板もあるが、大阪系業者の売地はどこも看板を出すだけで、あとは完全に放置されて凄まじく荒れ果てているものがデフォでありながら、ここの売地だけは妙にキレイに管理されている。近くに住む方が手を入れているのだろうか。ただしお値段は38坪で240万円と相変わらずの平常運転なので、遠慮することなく安心して通り過ぎていただきたい。
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ほとんどは荒れ果てた未管理区画だが、一部の区画は草刈り業者の看板が立つ。
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珍しくジャングル化していない大阪系業者の管理地。
山室セイブ地所
38坪で240万円也。(ラビーネット不動産より)

 大阪系業者の他に看板を出しているのは、大網白里市に本社を構える草刈り・管理会社の「大里綜合管理」で、こちらも自社サイトで1件、この山室の放棄分譲地の売地広告を出している。お値段は50万円で一見すると安く感じるが、区画面積は25坪しかない狭小地で、坪2万円となり、正直言ってちょっと安くない。開発・分譲当初はこんな価格で売られていたとは考えられないので、売主としては、これでも十分妥協した価格なのかもしれないが、そもそもこの山室周辺は分譲地自体が他になく、取引事例として参考に出来る価格がないので、相場が掴みにくいのだろう。有り体に言えば、限界分譲地の取引相場価格は、買受希望者が出現しない限りその価格は適正ではない、と言い切っていい。

 ちなみに分譲地内には、この売地の他にもいくつか、大里綜合管理の看板が立てられた区画があるが、広告が出されているのは1区画だけなので、他の区画の価格は分からない。中には、会社の所在地が、旧町名である「大網白里町」のままになっている看板もあり(2013年に単独市制施行)、長年問い合わせもなく放置されている実態がうかがえる。
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山室大里綜合管理
大里綜合管理の売地。側溝は壊れ、これで坪2万円は少々お高い。
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同社サイトの物件情報にも記載はないが、看板が立つ区画は他にも複数存在する。
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会社所在地の住所が旧町名のまま更新されていない看板。

 分譲地の奥へ進むと、区画のみならず街路上も雑草が繁茂し、緑色のカーペットを敷いているようだ。元は舗装してあったところに砂泥が堆積し、雑草が生え出してしまったものと思われる。擁壁の上の区画は相も変わらず猛烈な笹薮で、一部の区画は、その擁壁が根っこに押され損壊してしまっている。分譲地の端から既に山林化が進行し、航空写真で確認する限りはそれなりに広い分譲地なのだが、既に全域の踏査が難しくなってしまっている。
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雑草が繁茂した街路。
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階段が設けられた区画もあるが、笹薮と化し、まったく足を踏み入れる余地もない。
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損壊してしまった擁壁。

 よく見ると側溝がきちんと配備され、街路もそこまで狭苦しいこともなく、分譲地の規格自体は、現在も利用されている他の限界分譲地と変わらないのだが、やはり立地が悪すぎたのだろうか。この山室の分譲地は、成田空港の騒音区域にギリギリ近接していながら、騒音区域内には含まれていないようなので(公開されている騒音区域の地図が不鮮明で判断が難しい)、上空に航空機の轟音が響き渡るにも拘らず空港会社から補償も受けられない可能性が高いという一番最低のパターンであるらしく、それも放棄に至った要因の一つかもしれない。

 僕の自宅もそうなのだが、騒音区域から外れたエリアは、この山室の放棄分譲地も含めて「騒音区域と一体的に土地利用を図るべき地域」とかいう、何だかよくわからない曖昧な指定がされていて、特にこれといった補償事業はない。ちなみに騒音区域に指定されている地域は、家屋の防音工事やエアコン設置などの補助金があるが、建築不可の場合もある。ただこの辺りの事情については、通常の不動産取引であれば、仲介業者から重要事項説明時に説明があるはずだ。
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荒れ果ててはいるが、分譲地の規格自体は他の現役の限界分譲地と比較して特に遜色もない。
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利用者もなく、分譲地はやがて元の山林に還っていく。

 そんなわけで今回は、いったんはボツにした松尾町山室の放棄分譲地を簡単に紹介した。売地が存在すると言ってもその情報は少なく、また価格的にもおすすめできるものではないが、不法投棄は言語道断としても、現に売地が存在する以上見学は自由であろう。もし、松尾方面に用事があってお越しの際は、人目もないことであるし、こんな山村の放棄分譲地も、ものは試しに見学してみてはいかがだろうか。今まで思いもよらなかった、新たな発見があるとはとても思えない。
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追記:気にも留めておらず今回の記事作成でようやく気が付きましたが、この分譲地は電柱がありません。


農村の片隅で買い手を待ち続ける放棄分譲地へのアクセス

山武市松尾町山室
・圏央道松尾横芝インターより車で5分
・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場より「空港シャトルバス屋形線」 「横芝中台・殿塚・姫塚入口」バス停下車 徒歩10分
・芝山鉄道芝山千代田駅/総武本線松尾駅より「芝山ふれあいバス」 「山室」バス停下車 徒歩8分