山武市麻生新田 森林地帯のはずれの分譲地

山武市

 千葉県道22号線を八街市内から山武方向に進むことおよそ8㎞。山武市埴谷の古い集落を抜けると、周囲は畑の他に杉林が目立つようになり、人家もまばらとなってくる。麻生新田はその名の通り古い開墾地だが、この先、松尾町方面に向かっては広大な山林が広がる地域で、ゴルフ場やゴミ処理施設の他には、人家も、畑もほとんどないエリアとなる。ここは成田空港の航路の真下にあたることが影響しているのか、空港から総武本線の松尾駅周辺、海岸近くの低地エリアまでは、古い農村集落が散在していることを除けば、今もほとんど開発が進んでいない地域だ。ただこの辺り(と言うか千葉県のほとんど)は山林と言えど標高が高いわけではないので、山岳地帯と呼べるような地域ではない。

麻生新田 山林の分譲地 (1)

麻生新田に向かう県道22号。

麻生新田 山林の分譲地 (2)

分譲地近くの県道22号。もはやほとんど人家は見当たらない。

 そんな森林地帯の片隅、人家が途絶えだしたエリアに、今回訪問した分譲地はある。いくらスプロール化現象の激しい山武と言えども、さすがにこの辺りにはほとんど住む人はいないのだが、何を血迷ったか、こんな商業施設も人家もない人里離れた山林ですら、無謀にも造成されてしまった限界分譲地がいくつかある。

 いかに周囲に何もなくとも、分譲地だけはあるのが山武という町なのだが、こんな誤ったオンリーワンの付加価値を与えられてしまったこれらの分譲地は、もはや今更言うまでもなく居住が進まず未利用宅地の放棄が進んでいて、バス路線も途絶し事実上切り捨ての方向に進みつつあるが、一方で未だしぶとく一部で宅地利用は続けられていて、なおも買い手を待ち続ける売地も散在する。

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県道から分譲地に至る横道。

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一見山林だが、分譲地内の電柱が頭を出している。

 分譲地は県道22号から伸びる横道を少し入ってすぐの所に位置するが、家屋はほとんどなく、街路も未舗装であり、雑草や樹木の伐採も行われていない区画が多いので、事前に航空写真を見ていない限り、一見しただけではここが分譲地とは思えない。しかしよく見ればきれいに整地された区画がちらほらあり草刈り業者の看板も散在し、また山林にしては電柱も不自然に多いので、確かにここは分譲地であることがわかる。

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分譲地内。街路は未舗装だ。この一画は比較的手入れされている。

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大半の区画は放棄されている。

 県道に近い方の区画は、いくつかの建物が残されてはいるが、そのすべてが作業小屋のような簡素な建物で住居ではなく、しかもすべてが放棄されて廃墟と化している。街路まで草刈りを行われた形跡があり、その先の更地に「売地」と書かれた看板も見えるが、未利用地の前面私道は未管理のところも多く、周囲は樹木が迫り、どこまでが分譲地なのか判然としない。作業小屋は放置されて相当な年月が経過しているようで既に朽ち果てたものも見られ、冬場でも藪に覆われているので、夏場は緑に覆われその存在を視認できないかもしれない。一区画だけ、よく手入れされた菜園として利用されている土地があった。だが大半の区画は手入れもされず放置されており、電線にも蔦が絡まってしまっている。

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街路まで草刈りされた形跡が見える。

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草刈りされた街路の先にある売地。隣に廃墟と化した小屋が並ぶ。

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未管理の街路。

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並ぶ小屋はすべて廃墟と化し、繁みに覆われている。

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よく手入れされた菜園。

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小屋に引き込まれた電線もこの通り。

 きれいに雑草が伐採された区画は大体草刈り業者の看板が立っているが、一部、全く管理もされていないようなところになぜか看板が立てられていた。草刈り業者も別にボランティアではないので、地主から依頼を受けなければ自発的に土地の管理をする義務はないが、しかし既に樹木が立ち並ぶ区画に、なぜ今だに看板が立て続けられているのかはわからない。それとも元々このような状態で使用していた土地なのか。何にせよ現在は利用されておらず、もはや境界も判然としない。

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樹木が生い茂る一画にも草刈り業者の看板が。

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生活用品はいくつか残されているが、利用されている気配はない。

 県道に近い街路は袋小路となっており、突き当たりに木材が並ぶ家があった。モクモクと煙を出していて、薪ストーブか、あるいは枯れ草などを始末する焼却炉の煙と思われる。一般の住宅街では、薪ストーブから排出される煙が近隣トラブルの要因となるケースもあるようだが、さすがにこの立地ではあまり問題にもならないのかもしれない。ここの分譲地は今でも数棟の家屋があり居住者もいるが、そのいずれも、一般の居住用住宅とは少し趣の異なるもので、おそらくあえてこの不便な山林を選んだと思われる居住者のものであろう。

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モクモクと煙を排出する家屋。

 だが居住者がいるとは言えこれだけ管理を放棄した区画が多いと、やはり共有部の管理も充分に行われなくなってくる。この分譲地はおそらく造成当初から未舗装のままであると思われるが、当然のことながら側溝は完全に土砂に埋もれもはや使い物になる状態ではなく、また、この規模の分譲地としては珍しくここは街灯が配置されているのだが、その街灯も完全に錆びて朽ち果て、放棄されている状態であった。

 もう、このブログでも繰り返し述べてきたことでいい加減ワンパターンになりつつあるが、やはり未利用地の多い分譲地の共有施設の維持管理は困難なのだ。後先を考えず配置された共有部のうち、利用頻度や緊急性の低いものから、こうして放棄されていくのであろう。

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大半の区画は未管理で、街路の状態も悪い。

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錆び付き、朽ち果てた街灯。

 前述のように家屋はいくつかあり、中には、セルフビルドで建てたのではと思われる風情ある木造家屋もあったが、やはり荒れた印象は隠せない。「売地」の看板も倒れているものもあり、再利用が進む気配はあまりない。そして問題なのは、そうした未利用地の草の合間をよく見ると、夥しい数の不法投棄のゴミが見つかることだ。

 都市部に近い山林は、特に車道の路肩などに、どうしてもマナーの悪い運転者の車両から投げ捨てられたゴミが散乱しているものだが、ここは人の気配が少ないことが災いしたのか、分譲地内の各所にまでゴミが捨てられてしまっていて、それが一層荒れた印象を際立たせている。不法投棄は未利用地を多く抱える限界分譲地に共通する悩みの種だ。

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分譲地内には数棟の家屋がある。

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諦念が漂う売地の看板。

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未利用地に投棄されたゴミの山。

 すでに居住している住民もいることから分かるように、どんな不便な立地でも、その環境を好む人は一定数居るものであるが、未利用地が多く人気がなくなればなくなるほど、住宅地としての水準を維持するのが困難になってくる。だが裏を返せば、その困難を乗り切る工夫をし、克服できたならば、住宅地の中で平然とモクモクと白煙を上げるような、言葉は悪いが、言ってみれば「やりたい放題」の生活が手に入るのも、また事実。共有部の管理もしかり、資産価値もしかり、生活インフラもしかり。己の持つ力を最大限に生かし、有り余るデメリットを克服することを求められるのが、北総の分譲地といえる。

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北総の分譲地を活用するには人並み以上の努力・労力が求められるのかもしれない。

森林地帯のはずれの分譲地へのアクセス

山武市麻生新田

  • 圏央道松尾横芝インターより車で9分
  • 総武本線八街駅・成東駅よりちばフラワーバス「八街線」 「北上戸田」バス停下車 徒歩19分

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