八街市山田台 小屋とタイニーハウスの分譲地

B級別荘地

山田台小屋の分譲地 (1)

 八街市の山田台は、八街市の最南部に位置する旧開拓地の1つである。「山田台」という地名は、元々東金にある「山田」地区に近接した丘陵上の台地に切り開かれたことに由来するもので、近年開発された新興住宅地によくある「〇〇台」よりはずっと古い地名だ(同様の地名として「滝台」がある)。この辺りまで来ると、八街駅までは10㎞以上の距離があり、むしろ大網駅や東金駅の方がまだ近い(それでも7~8㎞はある)立地となる。徒歩圏内に駅や商業エリアはまったくなく、どう見ても利便性の高いエリアとは言えないのだが、千葉東金道路の山田インターから近く、国道126号線(東金街道)に、千葉駅行きの路線バスが運行されているためか、小規模なミニ分譲地が点在している。

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千葉駅行きのバス路線もある国道126号線(東金街道)。ただし渋滞が激しい。

 以前紹介した沖地区同様、千葉市方面に向かうには、八街の市街地よりもむしろ山田台の方が近いため、どの分譲地も、規模こそ小さいがほぼすべての区画は家屋で埋まり、居住者もいる。おそらくこの辺りの居住者は、日常の買い物も千葉市や大網、東金の市街地で済ませ、八街の中心部に来る機会は多くないのではなかろうか。

 いくつかある分譲地の中には「プロムナードヒル大網」などと、大網駅と直接結ぶ公共交通機関は一切なく徒歩では2時間近く掛かる立地でありながら、さも八街駅よりずっと電車の便が良い大網圏であるかのように装ったところもある。実際、大網駅前は膨大な数の月極駐車場があるので、ここから大網駅まで自家用車で向かい、大網駅から外房線を利用している住民もいるのではと思われる。

山田台小屋の分譲地 (2)

山田台にある分譲地「プロムナードヒル大網」。いくら何でもこの立地で大網の名を騙るのは無理がある。

 この辺りの分譲地は成田空港周辺の古い分譲地とは異なり開発時期が若干遅く、一部の古い分譲地を除き、バブル期の80年代後半からポツポツと造成されてきた。すっかり住宅市場が縮小した現在と異なり、バブル期は駅からはるか遠く離れたような僻地でも建売住宅の販売は行われていたので、分譲地に並ぶ家屋の外観から判断しても建売住宅と思われるものが多い。近年の建売ミニ分譲地同様、宅地の造成と住宅建設を同時に行っていたのだろう。駐車場は2台以上確保可能な家がほとんどなので、今でも居住者は普通におり、どこも平凡な印象だが、今回紹介する分譲地は、そんな山田台では特異な存在である。

山田台小屋の分譲地 (23)

 ここは区画数は50ほどの分譲地で、周辺の分譲地とも特に変わらない程度の規模であるが、何故かここだけは、一般のファミリータイプの規格住宅は一切なく、分譲地に建つ建物のほぼすべてが小屋か、大きくても床面積40㎡から50㎡程度の小屋、最近の言葉で言えばミニハウス(タイニーハウス)だ。一棟だけ不自然に巨大な建物があるが、これは音楽スタジオ付きの貸別荘で、以前売りに出されていた物件が近年、貸別荘として再デビューしたものだ。そしてどの小屋も判で押したように小さな菜園をこしらえている。

山田台小屋の分譲地 (19)

点在する建物はすべて小屋かミニハウス。

山田台小屋の分譲地 (17)

どこも小さな菜園を作っている。

山田台小屋の分譲地 (8)

分譲地内にある音楽スタジオ付きの貸別荘。

 一見すると、ここは別荘用地の分譲地なのかと思ってしまうが、しかしこのエリアは周囲にこれといった観光地やレジャー施設があるわけでもなく、分譲地を除けば森と畑しかない。内陸に位置するので海も遠く、山もないので避暑地でもない(むしろ夏は暑いし、逆に冬は寒い)。正直言って別荘地としてはかなり微妙な立地だ。それに先述のように、周囲にある別の分譲地はいずれもごく一般の住宅地であるし、ここの分譲地にも小さな公園が付属しており、菜園用地の分譲地に公園を備えるとは考えにくいので、本来はこの分譲地も、一般の住宅地としての利用を想定して開発されたものであろう。

山田台小屋の分譲地 (10)

周辺の別の分譲地は、ごく平凡な規格住宅が並ぶ一般の住宅地だ。

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分譲地内にある公園。

山田台小屋の分譲地 (20)

公園内は草刈りもされておらず、人が足を踏み入れた形跡もあまりない。

 それが思うように住宅の建設が進まず、菜園用地として売りに出されていたのであろうか。よく見ればこの分譲地は、未利用地が多く残されているものの売地の看板が一切ない。僕はここの売地物件の情報をこれまで目にしたことがないのだが(前述の貸別荘の広告は見たことがある)、一般の住宅用地として広く宣伝はされていない可能性もある。別荘地でもない単なる農村である八街において、ここに限って小屋が集中する理由はそこにあるのかもしれない。

 さて近年、TwitterなどのSNSでもよく見るように、地方の山林などにセルフビルドで小屋やミニハウスを建て、必要最低限の労働と生活用品でシンプルな暮らしを楽しむスタイルが静かなブームとなっているようだが、超郊外の限界分譲地においても、たまに売れ残りの塩漬け宅地が小屋用地として再利用されるケースがある。だがここの分譲地の小屋を見る限り、菜園は手入れはされているものの人が住んでいるような気配はあまりなく、1台車が停められていた小屋があったが県外ナンバーであったことから、あくまで本来の住居は都会にあって、週末の家庭菜園用地として利用している人が多いと思われる(僕の家の近所にも、東京の人が管理している菜園がある)。小屋も、一から資材を揃えたセルフビルドというよりは、キットハウスのような規格的なものが多い。

山田台小屋の分譲地 (12)

これでも分譲地内では最も規模の大きい家屋である。

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キットハウスの小さな小屋が点在する。

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建築間もないと思われる小屋も見受けられる。

 どの小屋や家屋も、築後それほど経過しているようには見えず、おそらく近年になって小屋用地として再利用されたのであろう。これは残念なことだが、旧来の住民の中には、こうした新規移入者による小屋用地としての宅地利用を快く思わない人もいるという話は時折耳にする。まああくまで個人的な意見としては、こんな二束三文の投げ売りニュータウンに人生を賭け、人道に反する高値掴みをやらかしてしまった人の、一括払いでゲットした人に対するある種のやっかみもあるんじゃないのかとは思うのだが、分譲地丸ごとこうして小屋で占拠してしまえば、そんな諍いも起こりにくくなるかもしれない。僕としては、限界分譲地の新しい利用形態の一つとして、興味深く感じている。

 世の中はいろんな生き方があって然るべき。だから人間は面白いのだ。どうせこの北総においては地価狂乱の波は二度とやってこないのだし、一旦宅地となった土地は農地に戻る可能性も低いし、この利便性ではわざわざ住みたがる人も限られているのだから、これからの北総は、ローンを背負ったパパが地獄の長距離通勤に耐え忍ぶ負のニュータウンではなく、柔軟な発想力を持った人たちがお気軽に使える地域として認知されるのもいいんじゃないかと思う。

山田台小屋の分譲地 (7)

柔軟な発想転換で、本来の存在意義を失った分譲地は新しい利用形態が生み出されている。

小屋とタイニーハウスの分譲地へのアクセス

八街市山田台

  • 千葉東金道路山田インターより車で10分
  • 総武線千葉駅よりちばフラワーバス「千葉線」 曲の手バス停 徒歩11分
  • 総武本線八街駅より八街市ふれあいバス「西コース」 宮ノ原バス停 徒歩11分

コメント

  1. NHH より:

    いつも興味深く拝見しております.当方は千葉市内のバブル期分譲の150世帯規模の戸建てに住んでおります.親がバブル崩壊直後に中古で購入したため,ものすごく高かったとか…すぐ横を走る某路線に新駅ができるという話は眉唾でしたし,自動車がないと不便な地域ではありますが,徒歩3分のバス停から毎時1本千葉駅行きのバスが出ていたり,高額運賃ながら1.5km歩けば私鉄の駅があるなど,こちらのブログを拝見するにつけ,かなりマシな地域なのだと実感しております….
    さて,こちらで紹介されているログハウス付き菜園ですが,少し離れているものの「プロムナードヒル大網」の一部分のようです.デベロッパー自らログハウス付き菜園として売り出しているところに悩みの深さが感じられますが,上記記事にもあるように,中野操車場まで出てしまえば毎時2本の千葉駅行バスがあるので交通アクセスはそんなに悪くないように思います.それでも住宅地としては需要がないということなんでしょうね….
    http://www.totaku.com/ph/03_02.html

  2. 吉川祐介 より:

    @NHHさん
    こんにちは。コメントありがとうございます。
    僕も、もう20年前の話になりますが、地元を出て最初に関東で暮らしたのは若葉区の大宮台で、当時はあの立地でも、不便な住宅街だなあと思ったものですが、今改めて考えれば、大宮台ならずっと恵まれていた立地であったのだと痛感しております。
    ところで当記事の分譲地は、「プロムナードヒル大網」であったのですね。プロムナードヒル大網は、そのネーミングはさておき、分譲地自体はごく変哲のないミニ開発地であったので記事にしておりませんが、こんな販売手法を取っていたのですね。
    山田台は、確かに千葉行きの路線バスはあるのですが、そのバスが運行される国道126号は複数の渋滞多発個所があるので、千葉のベッドタウンとしては今日では厳しい条件にあるかと思われますね。

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