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 これまで投稿してきた記事の中で、通常より大きなアクセス数を頂けたものはいくつかあるのだが、その中でも特に反響の大きかった記事のひとつが、2018年9月に投稿した「貸家の供給過多」である。これは、山武市の板中新田にある限界分譲地に、わずか90万円という売値の中古住宅が登場したものの速攻で成約し、その後同じ物件がすかさず4.5万円で賃貸物件として再登場したのだが、元々この分譲地には長く借り手が付かないまま募集を続けていた別の貸家が存在していたので、地域の賃貸需要をを度外視した過剰投資が起きているのではと推察して現地を訪問し記事にしたものだ。

 ところがこの板中新田の分譲地の管理状況があまりに悪く殺伐とした印象だったためか、本題である過剰投資の話題よりも、分譲地内の荒廃の模様そのものがより強い印象を与えてしまったようで、さして情報量の多い記事でもないのにTwitter上でも広く拡散されることになった。

 しかしこの記事は前述のように2018年、つまり現在の新型コロナウイルスの蔓延前に書いた記事である。北総の安物件への投資熱は、コロナ禍以降ますます高まることとなり、社会情勢そのものも今や激変し、今ではいかに山武の僻地の分譲地であろうと、築30年弱の中古住宅が90万円で広告に登場することなど到底考えられなくなってしまった。2018年当時と違い、今の時点ではそんな弱気な査定をする仲介業者は存在しないと思う。
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紹介記事が大きな反響を呼んだ山武市板中新田の分譲地。
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非常に管理状態が悪い分譲地のためか、予想以上の反響をいただくことになった。

 「貸家の供給過多」は、その後も僕の懸念とは裏腹に一向に収まる気配はなく、特にコロナ禍以降は、格安の中古住宅はそのほとんどが即座に投資物件として取得されてしまう事態が続いている。そのため今では、以前は常に広告上に存在していた300万円以下の安物件は今や極端に入手困難となり(これは大洋村も同様の状況にある)、挙句の果てには、果たして本当に賃貸物件として適しているのか疑わしいプレハブ小屋や空き店舗まで「居住用住宅」として登場する有様であった。
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格安物件が不足し、簡素なプレハブ小屋まで賃貸住宅として登場し始めた北総の不動産市場。現在、この物件はオーナーチェンジ物件として売りに出されている。(ジモティーより)

 その割に特に地域の賃貸市場が崩壊しているという話は聞かず、物件情報を見ていても、いつまで経っても借り手が付かず広告が掲載され続けている物件というのはごく一握りである(あることにはある)。多くの貸家は、なかなか成約に至らず苦戦している模様のものも少なからずあるとは言え、遅かれ早かれ最終的には借り手がついている様子なので、3年前の僕の懸念など的外れな杞憂に過ぎなかったのかもしれない。もとよりコロナ禍がもたらしたこの北総の不動産市場の活況は、当時はまったく想像できるものではなかった。既にお伝えした通り、僕は数ヶ月前に、ごく短期間この地域の不動産会社に勤務していたのだが、その仕事は多忙を極めるものだった。

 それにしてもこの板中新田の分譲地に限って言えば、貸家の供給バランスとは関係なく、投資先としてこれはどうなのというくらい管理状態が悪かったのは疑いのない事実なので、今回、別件でここのすぐ近くの分譲地の調査に行ったついでに、約3年ぶりにこの板中新田の分譲地も訪問してみた。別件の方は資料が揃い次第また発表するとして、まずは追加レポという事で、この板中新田の分譲地の現況を改めて紹介したい。
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 訪問時はあいにくの曇天で、太平洋上に台風8号が発生していたので風が強く、風に煽られた鉄製の雨戸がガンガンとけたたましく音を立てていた。空き地にはナンバーの外された車両が無造作に置かれ、真夏でありながらその光景がひどく寒々しい。

 入口付近の区画はつい最近草刈り業者が入った模様で雑草が綺麗に刈られていたが、3年ぶりに見てもやはり分譲地の劣化は隠せていない。特に不安を禁じ得ないのは、前回の訪問記事でも触れたようにやはり擁壁で、ここはどうも擁壁の施工技術が極端に低かったらしく、今や体重を掛ければ簡単に崩落してしまいそうなほどまで劣化が進んでしまっている。

 分譲地内の道路は狭いのだが、道路と宅地に高低差があるためにほとんどの区画は充分な駐車スペースがないので、何とか車両が離合できるレベルまでぎりぎりに車体を路肩に寄せて路上駐車している模様が見られる。そんな中、1台の黒いミニバンが、まったく他の通行車両に配慮することなく道路の真ん中に堂々と路駐していた。
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入口付近の区画は最近草を刈られている。
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崩落寸前の擁壁。
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擁壁上の宅地は未管理のところが多い。道路の真ん中に路上駐車する車両が見える。

 奥に進むと、以前の記事でも紹介した、蔦に覆われた空き家が見えてくる。3年前よりさらに蔦の量は増えており、引き続き何の管理もされていないことは明らかだ。この空き家は、以前198万円で中古住宅として一時期広告が出されていたことがあり、その後広告は下げられたものの、今日に至ってもまったく利用されている気配がない。

 そこで今回、この空き家の登記簿を取得して確認してみたが、そこには差押の取り下げの履歴こそ記載されていたものの、所有者名義は新築時から同一のままで売買が行われた記録はないので、何らかの理由で売り止めにしたものと思われる。1番抵当権もまだ抹消されていないようだ。
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かつて198万円の売値で広告に出されていた空き家。
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3年前よりひどい有様になっている。

 前回の訪問記事の主題であった90万円の貸家は、幸いにも入居者が決定したようで、駐車場に一台の軽自動車が停められ居住者がいる模様であった。しかし、当初の入居者募集時に塗り替えられていたはずの白い外壁は、わずか3年で赤カビが発生してしまっている。

 この分譲地はすり鉢状の窪地に造成されており、四方は雑木林に覆われていて風通しが悪いのか、北側の外壁に赤カビや苔が発生している家屋が目立つ。この分譲地に限らず、杉林が多い旧山武町の住宅は、確かに八街のように猛烈な砂嵐に見舞われることはないのだが、やはり湿気が多いようで他地域より外壁が汚れた家屋をよく目にする。
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旧町域の多くを杉林が占める旧山武町エリアは、特に北側の外壁が苔や赤カビで汚れてしまった住宅が目立つ。(山武市木原にて)

 こればかりは自然現象なので仕方ないことではあるものの、賃貸物件として、外観の汚れは第一印象を大きく損なう要素だと思うので、もう少し汚れの目立たない色の外壁にして、清掃の頻度を下げるのが良いのかもしれない。そんな話はまったく余計なお世話かもしれないが。

 ちなみにその貸家の隣には、何故か入り口のど真ん中に電柱が立てられてしまった謎の区画が一区画あるのだが、結局そこは利用される機会もないまま、草刈りも行われなくなり、今や足を踏み入れる余地もないジャングルと化していた。
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元90万円の貸家は成約し、住民がいる模様だ。やや外壁に汚れが目立ち始めている。

 そこで気になるのは、この90万円の貸家の登場以前から、この分譲地で入居者を募集していた2棟の貸家だ。結論から先に言ってしまえば、その2棟は2021年7月現在、両者とも空室であり、そのうち1棟は少し前まで広告が出されていたものの今は見当たらなくなってしまったが、もう1棟は現在でも広告が出されていて入居者募集中である。

 そしてまさにその募集中の1棟こそ、僕が3年前に訪問した時点で、ほぼ2年間空室のまま募集を続けていた貸家である。いつの間にか所有者が変わっていたようで、広告掲載元もまったく別の会社になっていて、外壁も淡い緑色に塗り替えられてリニューアルしている。前回の記事投稿後しばらくして、この物件の募集広告は見かけなくなってしまったので、この3年間の間に一度は入居があったのかもしれないが、少なくとも3年を待たず再び空室となってしまったことは間違いない。こんなにも定着率が悪い物件であるにもかかわらずなぜか賃料は1万円も値上げされていて、現在は月額5.5万円の家賃で募集を続けている。
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2018年に掲載されていたこの分譲地の貸家の広告。上段の貸家は現在は広告を見かけないが、下段はリニューアルして現在も募集中だ。
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画像真ん中の建物が、上記広告の上段の貸家。入居者がいる様子はなく空室である。
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画像奥の緑色の外壁の建物が、上記広告下段の貸家。
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2021年7月現在、アットホームに掲載されている貸家の広告。3年前より賃料は1万円値上げされている。

 確かに、賃貸物件の賃料は非課税であるとは言え、2019年10月の消費税増税以降、増税分を賃料に上乗せするオーナーが増加したようで、この北総エリアでも若干の賃料相場の上昇が見られた。また、今ではあまりに多くの不動産投資家が参入しているためか、特に仲介業者を通さずオーナー自身が広告を掲載している物件が多く掲載されているジモティーでは、おそらく地域の賃料相場に明るくないために不自然に割高な賃料を設定していたり、あるいは逆に入居が遅れて焦っているのか、妙に安い賃料を設定している物件を時折目にする。

 それにしても、あくまで個人的な感想を言えば、この板中新田の貸家は、立地の悪さもさることながら、小型車1台の縦列駐車が限度で、しかも近隣に駐車可能な土地もないのに(一部の住民は空き地や路肩に無断駐車している模様だが)、それで5万5千円というのはちょっと強気な賃料設定ではないかという気はする。山武市内で5万5千円の賃料を出すのなら、少なくとも駐車スペースに関しては、同じく1台分だとしても、もう少し車両を入れやすいところはあるからだ。まあしかし、これに関しても、貸主にしてみればまったく余計なお世話であろう。
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地形の問題で、この分譲地は敷地外の駐車スペースの確保が難しい。

 ただ見逃せないのが、この募集中の貸家に向かって右隣の白い外壁の家である。この家は、3年前の訪問時には、駐車場に車があり居住者がいたのだが、いつの間にか退去したらしく空き家となっていた。建物は傷んだ様子はなく、雑草こそ玄関まで生い茂っているものの荒れた印象はないので、もしかしたらこの建物も貸家なのかもしれないが、今のところ物件情報では賃貸でも売買でもこの物件を見たことがない。いずれにせよ、この袋小路の南北に並ぶ6戸の建物のうち、3戸は無住という事になり、この状況のみを鑑みても、この地が果たして本当に不動産投資に適した住宅地といえるのか、やはり僕は疑問に思ってしまう。
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2018年に撮影した同地の写真。白い外壁の家はまだ居住者がいて、駐車場に車もある。
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いつの間にか空き家となっていた白い家(画像右手前)。この1画にある6戸の住宅のうち、3戸は無住だ。

 その他大きな変化と言えば、以前は擁壁上に簡単な菜園が拵えられていただけだった1区画が、今回訪問時には、擁壁を崩して大掛かりなスロープが設けられていたことである。一部の擁壁がまだ不安定な状態で積み上げられたままなのが気になるが、とにかく何度も繰り返しているように、ここの分譲地の最大のネックは駐車スペースが極めて不足していることなので、このように車両が進入できる状態まで大工事を施されたのは、地域にとって大きなプラスだと思う。その敷地自体はあくまで個人の私有地とは言え、実際に車両が乗り入れできるように工事を行った実例がすぐ近くに生まれれば、それを目にした近隣の住民も刺激を受けて、同様の土地の活用方法を思案する可能性があるからだ。
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スロープが設置された区画。
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下2枚の画像は3年前に撮影した同地点の工事前の模様。一部が菜園となっていたほかは雑木が生い茂っていたが、伐採されて大きく印象が変わった。

 ただ現状では、やはりこの分譲地はどう見ても管理状態が悪すぎる。限界分譲地の売家が貸家に転用されているのを見るたびに僕は常々思うのだが、投資家の方々は投資物件を選定するうえで、単に家屋の状態や利回りだけでなく、こうした周辺環境についても考慮はしないものなのだろうか。地元の方の家選びの感覚を、なかなか正確に捉えることは難しいのかもしれないが、どうしてこの僻地の小さな限界分譲地で、ここまで賃貸経営の競争がヒートアップしているのか不思議でならない。

 賃貸経営の経験もない素人の僕が(一応所有地を1区画賃貸に出してはいるが)、偉そうにこんなことを言うのもおかしいかもしれないが、賃貸経営は出口戦略が重要と言われる中、ここはそのまま住宅地として使い続けるにはあまりに先行きが不透明すぎる気がする。結局は3年前と同じ結論を繰り返しているのかもしれないが、本当にこの先、このまま行き当たりばったりの土地利用が、果たして同じように持続するものなのか、他人事ながらやはり心配になってしまうのである。
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貸家の供給が続く分譲地へのアクセス
山武市板中新田
・圏央道松尾横芝インターより車で10分