芙蓉邸街

成田市

 成田市北部、旧下総町や旧大栄町に点在している分譲地は、このブログの開設当初からいくつか紹介してきた。ビバランド団地、リバティヒル500、外記林団地、日豊団地など、いずれも山林を切り開いて造成された古い分譲地であり、そして共通するのは、いずれも比較的大掛かりな造成工事によって分譲されたものであることだ。ビバランドや日豊団地など、この辺りの分譲住宅地は自主管理の共有設備を備えていることが多く、単に畑を潰しただけの、個別井戸、個別浄化槽、個別プロパンの自力インフラが基本である八街のミニ分譲地とは一風異なる。

 自治会管理の共有設備の問題点は、これまでも僕は繰り返し述べてきて、いい加減読者の方も飽き飽きしてきたことであろうと思うが、実際のところは僕の問題提起とは裏腹に、共有設備が備わった団地のいくつかは、今でも新築の着工工事を見かける機会が少なくない。

 個別井戸は水質の面で抵抗を持つ方も少なくなく、個別浄化槽も管理費が結構な額になる上、排水路がなければ処理済みの排水は宅内浸透などで処理するほかなく、雑排水を浸透処理している同じ敷地内で井戸水を汲み上げることに生理的嫌悪感を覚えてしまうのは仕方ない(実際これは水質面にどれだけ影響があるのかも未知数だ)。と言うことで、共有インフラ設備を備えた団地と言うのは、元々上下水道の普及率が低い北総では今日においても少ないながらの需要がある。

インフラ (5)

家庭用の電動井戸ポンプ。井戸水の利用に抵抗のある地元住民も少なくない。

インフラ (4)

排水処理用の宅内浸透升(手前)。浸透升は10年~20年程度で目詰まりすると指摘される。

インフラ (1)

現在は使用していないが、我が家にも蒸発散装置(排水を蒸発させて処理するシステム)が取り付けられていた形跡がある(単に蓋が流用されているだけかもしれないが)。

 自治会の内部事情(派閥・人間関係や会計状況)までは、外部からはなかなか窺い知ることはできないが、共有設備そのものであれば、部外者でも現地を訪問して視認することで、ある程度の管理状況が推察出来る。一見すれば、当たり前の話だけど、居住者が多く団地全体の管理が行き届いている分譲地は共有設備もメンテナンスされており、逆に共有設備がズタボロの住宅地は家屋も少なく、新築工事も見かけない。北総の住宅地は、資産性においてはどこもドングリの背比べ状態である以上、共有空間が整った住宅地に新規の住民が移入するのはごく自然なことだ。

 ただし、「管理」といっても、闇雲に住民から管理費を巻き上げて維持すれば良いというものでもなく、その舵取りは難しい。僕が懸念しているのは、その舵取りにおいて、高額な維持管理費を要する共有設備が、時には重荷となり得るケースもあるのではないか、ということだ。

 そこで今回から数回にわたって、旧下総町、大栄町内に点在するいくつかの分譲地とその共有設備をあえて対比させることによって、選ばれる限界ニュータウンとそうでない限界ニュータウンの特徴を浮き彫りにしていき(書くまでもなく誰が見ても一目瞭然だが)、それを踏まえたうえで、最後に個人的な意見を述べていこうと思う。今日は「選ばれた」限界ニュータウンである「芙蓉邸街」を紹介する。

 芙蓉邸街は旧下総町エリア、ビバランド団地や日豊しもふさ緑が丘団地からも近いエリアにある。団地の立地条件も、周辺の分譲地と何も変わらないが、千葉県道161号線側からこの団地へアクセス道路に進入して訪れると、農家住宅も見当たらない丘陵の上に切り開かれた団地の遠景が望め、その陸の孤島ぶりがことさら際立つ。例によって団地の南側におなじみの太陽光発電基地が設けられてしまっているが、この辺りの分譲地は、ビバランド団地のように管理規約で団地内に太陽光パネルの設置を禁じているところもあり、芙蓉邸街も団地内の区画にはパネルは設置されていない。

芙蓉邸街 (2)

県道161号線側からの芙蓉邸街のアクセス道路。

芙蓉邸街 (3)

谷津田の向こうに、芙蓉邸街が見える。

芙蓉邸街 (5)

丘陵上の斜面に切り開かれている芙蓉邸街。この辺りの分譲地はどこもこのような感じだ。

 芙蓉邸街は、おそらく旧下総町の中規模分譲地の中では、最も家屋の建築が進んだ分譲地だ。並ぶ家屋は多くが80年代後半~現在までの建築様式の平凡な民家であり、利便性に関しても他と全く大差はないのだが、空き地は全体の区画数のおよそ1~2割程度で、遠景はともかく一旦団地内部に入ってしまえば、日本のどこにでもある郊外住宅地の風景と変わらない。実はこの団地は周辺の他の分譲地と比較すると開発時期が遅く、ここは中堅ゼネコンの奥村組(本社・大阪市阿倍野区)が1985年に開発許可を受け、1988年に造成を完了しているので、造成と住宅建設のタイムラグがほとんどなかったことが、未利用地が少ない要因である。

芙蓉邸街 (9)

芙蓉邸街の団地案内看板。

 団地の入口にはバス停とバスの折り返し場がある。現在、芙蓉邸街へのアクセスには2系統のバス網があるがいずれも市で運行する小型コミュニティバスであり運行本数は少なく、それでこの折り返し場はややオーバースペックに見えるが、これもかつて通常の路線バスが運行されていた時代の名残であろう。今、住宅街から少し離れた位置にあるこのバス停を利用する人はほとんどおらず、屋根付きの駐輪場に自転車が置かれている姿を見ることもない。

芙蓉邸街 (7)

コミュニティバスの折り返し場とバス停。利用者は少なく、自転車が置かれていることもない。

芙蓉邸街 (8)

バス停から団地までは少し距離がある。勾配もあり、足腰の悪いお年寄りには少し辛いのかもしれない。

 団地内の街路は、普通乗用車程度であれば離合可能な幅員が設けられており、共有設備の他に、居住が進んだ分譲地というのは、やはり街路が広いことが多い。特に芙蓉邸街の場合、街路のほとんどは公道なのでなおさらだ。ただし市街地に近い古い分譲地の街路は、なまじ幅員が広いと渋滞回避の抜け道として利用されてしまうケースが多々あり(新しい分譲地はこれを阻止するため住宅地内は通り抜けできない道路構造になっていることが多い)、これが通学児童を巻き込む事故に発展するケースもあるので一長一短ではあるが、芙蓉邸街に関しては、元々ほとんど交通量もなく抜け道としても活用しようもないエリアに立地しているのでその点は問題ない。

 南向きの傾斜地なので日当たりが良いのはいいのだが、その分街路は結構勾配がきつく、ほとんどの宅地が擁壁を設けている。幸い、街路との極端な高低差はなく、車両が進入可能であり、1区画当たりの面積も50坪ほどはあると思うので、駐車場を確保できていない住宅は見当たらない。しかし、車ならともかく、徒歩での移動には少し辛い地形だ。もっとも、ここから歩いて行ける範囲には何もないのだが。

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街路は広いが、やや勾配が急だ。

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ひな壇ではあるものの、宅地内に車両の乗り入れは可能である。

 空き地は一定の範囲に集中して残されており、現在も売り物件の看板が立つ。数区画、手入れもされず荒れている宅地もあることにはあるが、訪問時も住宅の新築工事が行われており、また、築後間もないと思われる、最近の流行?である片流れ屋根の住宅も見かけた。僕は一度、某不動産ポータルサイトで、ハウスメーカーのトヨタホームがここの宅地を建築条件付きで販売しているのを見かけたことがある(今回はなかったが、現地にのぼりも立てられていた)。

 僕がこのブログで紹介している宅地のほとんど全ては、名の知れた大手不動産業者やハウスメーカーが取り扱うことはまずないが、一応、ハウスメーカーとしても、このくらいの設備の分譲地なら、例え僻地であろうと建築条件付きで広告を出してみようと考えたのだろう。実際、この辺りの物件を取り扱う地元不動産会社のブログでも、芙蓉邸街は旧下総町周辺で最も売りやすい団地であると述べている。

 一方、空き家はほとんどなく、僕が確認できたのは1棟のみ。ポストにチラシが溜まっていたことから空き家と判断したが、家屋の傷みは少なく、荒れてはいない。芙蓉邸街は、今日においても新規の居住者の流入が進む、下総町では稀有な住宅街だ。

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空地が残る一画もあるが、ほとんどは管理され、販売が続けられている。

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一部、未管理の宅地も存在する。

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ハウスメーカーの一条工務店が新築工事を手掛ける。

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最近よく見かける片流れ屋根の築浅住宅。

 団地内にはいくつかの公園があり、そのうちの一つは、地区の共同利用施設(公民館のこと。成田市は地区のコミュニティセンターを何故かこんな堅苦しい言い回しで呼ぶ)と広場に隣接しており、管理状況も申し分ない。そして本題である共有設備だが、芙蓉邸街は集中井戸、集中浄化槽、そして集中プロパンの設備を有している。調整池はかなり大掛かりなもので、ご丁寧に調整池の周囲もきちんと草刈りされている。

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地区内の公園。

 集中プロパンと聞くと、都市ガスと比較して料金が高額ではないかと考えてしまう方もいるかもしれないが、供給先が70件以上ある集中ガス供給システムは「簡易ガス事業」と呼ばれ、経済産業省の管轄となり過当な価格競争が禁止されている。そのため、しばしば料金が不明瞭と指摘される家庭用の個別プロパンと比較すれば料金は安めであると言われている。ただ当然、ガス供給設備の維持管理費は管理組合の負担となるので、結局は集中井戸、集中浄化槽と抱える問題は根本では同じだ。

 現時点においては、芙蓉邸街は共有設備の管理も行き届いており、問題が生じているような気配はない。ちなみに芙蓉邸街の管理費は月額4000円、更地の所有者は月額2000円であるとのことだ(地元不動産業者のサイト情報による)。

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集中井戸の配水場。

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集中プロパンガスの供給施設。

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芙蓉邸街の風景を特徴づける巨大な調整池。

 先述のように、芙蓉邸街は80年代後半の開発であり、ちょうど北総においても、爆発的に住宅建設が進んだ時代だ。70年代に開発され、しばらく需要を失っていた古い分譲地も、この時期に虫食い状に住宅建設が行われている。そんな時代にあって、近隣エリアで当時最も高規格であったであろう共有設備、共有空間を備えていたことが、この芙蓉邸街の家屋の多さの理由だろう。「選ばれた」と言っても、結局は造成されたタイミングの問題に過ぎないのだが、それが功を奏して、現時点では芙蓉邸街は団地機能が適切に保たれており、今なお続く新規住民の移入も、その環境に惹かれてのものと思われる。

 と言うことで、芙蓉邸街が常識外れの立地条件でありながら今日も団地としての機能を維持できている理由として、大まかにまとめると、

①街路が公道であり、幅員が広い
②充分な共有設備・共有インフラを備えている
③宅地に車両が進入可能であり、坪数も広い
④バブル期の造成であり、造成時から家屋の建築までにタイムラグが少ない

となり、いずれも当たり前の話ばかりなのだが、この④の「造成時期」、これが北総においては、居住密度の高低を分ける重要な要素の一つで、逆に芙蓉邸街よりものちの時代に開発されたものの、それが住宅市場が冷え込んだ時代であったがゆえに、ポツポツと宅地の利用は進んでいるとは言えいまだ大半の区画が空き地のままという分譲地も存在する。次回は、そんな新しくも寂れた分譲地「パレスガーデン成田」を紹介する。

芙蓉邸街へのアクセス

成田市名古屋

  • 圏央道下総インターより車で9分
  • 成田線滑河駅より成田市コミュニティバス「しもふさ循環ルート」 「芙蓉邸街」バス停下車
  • 京成成田駅より成田市コミュニティバス「水掛ルート」 「芙蓉邸街入口」バス停下車(朝夕のみ)

コメント

  1. もさ より:

    私は地方に居住しているので、人里離れた造成地というものになじみが薄く、
    数少ない人里離れた造成地も、中央の大きな資本が開発したものであるため、このような荒れ地は少ないです。
    そのため、住宅団地の共有設備は、古くに開発された地域特有の私道問題しか考えたことがありませんでした。
    人里離れた造成地では、団地専用の集中井戸・集中浄化槽・集中プロパンの設備などと言うものがあるのですね。

  2. 吉川祐介 より:

    >>もささん
    コメントありがとうございます。
    千葉の場合、元々の都市の規模や都市計画など全くお構いなしに住宅団地ばかり先行して作られたので、団地専用のインフラでなければ賄えなかったという事情があります。特に集中井戸は多く作られましたが、規模の小さな分譲地は、今となってはそのほとんどが放棄され、各戸自前の個別井戸を掘って対応しています。

  3. 関ジャニ衛陶 より:

    埼玉県男衾駅付近

    磯村建設跡地も面白いですよ。

    汲み取り 簡易水洗 合併処理浄化槽見ることできます。

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