1970年代に横行した、都市部から遠く離れた無価値の原野や山林を、あたかも未来の開発予定地であるかのごとく装って分譲・販売し、多くの被害者を出した原野商法。人跡未踏の原野に託した資産形成の期待は大きく裏切られ、今や所有地の訪問は言うに及ばず、地図上においてすら所在地の特定もほぼ不可能となり、ただ登記簿上にのみ、今なお購入者名義の所有権が残されている。

 当然のことながら、そのような不動産の売却の見込みは全くなく、購入者の多くは、その所有権を自らの苦い経験の残骸として、広く語ることもなく記憶の底に封じ込めてきたのが現状であるが(世代的に既に亡くなられている方も少なくない)、そんな購入者を狙った悪質な業者に土地の転売や買取りを持ち掛けられ、結果的には手数料などの名目でさらに多額の現金を騙し取られてしまう二次被害が続出してきたことはよく知られている。
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新聞紙上に堂々と掲載されていたかつての原野商法の広告。(「読売新聞」1972年11月23日)

 そんな悪質な原野商法と比較すれば、当ブログで紹介している限界分譲地は、一部の放棄分譲地を除き、基本的には住宅建築が可能な程度に造成工事が行われており、藪に覆われていなければ訪問も可能である。特に比較的規模の大きな住宅団地は、集中井戸や集中浄化槽などのインフラ設備や、公園などの共用スペースも設置されており、公図上のみ住宅地を装って分筆しただけで、実際には杭一本打たれることのなかった原野商法の分譲地と同一視するのは少々無理がある。

 だが問題なのは、立ち入り困難な原野であれ、造成済みの限界分譲地であれ、その購入者の大半は、自らの居住用の住宅地としてではなく、あくまで地価上昇による売却益を見込んだ投機目的で取得しているということだ。原野商法の土地の購入者の多くは、現地まで足を運ぶこともなく販売図面上でのみ物件を確認して取得しているが、それは限界分譲地の購入者も全く同じなのである。
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限界分譲地はごく最低限とはいえ造成工事が行われているが、購入者の動機は原野商法のそれと全く同じだ。

 むしろ、購入者のほぼ全員が今日までただの一度も売却の機会すら与えられることもなく、詐欺的な悪徳商法として社会的に広く認知されている原野商法と異なり、千葉や茨城の限界分譲地は、開発・分譲から一定の期間を経たバブル期以降、都市部での住宅取得が叶わなかった人の最後の選択肢として機能してきた実績がある。

 市場全体から見れば例外的な存在とはいえ、実際に不動産物件としての売却に成功し損失を免れた(あるいは食い止めた)購入者も少数ながら存在しているために、そのことが尚更地主に損切りの決断を遅らせている上、限界分譲地を取り巻く諸問題はあくまで所有者(投資家)の個人的な課題と見做され、社会的に周知されにくくなっている面もあるように思われる。
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 実際のところは、よほど条件の悪いところでなければ、捨て値の価格設定によって手放せた事例も多いのだが、何せ分譲当時の価格は、現在の実勢相場の10倍以上にも及ぶ価格であることが普通なので、地主としては最大限の妥協で安売りをしているつもりでも、現在の相場に照らし合わせてみればまだまだ高額、といったケースも少なくない。

 また、地域によっては非課税の場合もあるが、実勢相場の金額に関わらず、宅地として今なお固定資産税が徴収されている分譲地も数限りなくある。そして、これまで当ブログでも繰り返し紹介しているように、少なくない不在地主が、近隣住民のクレーム対策のため、終わることのない草刈り作業に費用を捻出している。ある意味では、非課税の原野などよりもよほど厄介で負担感の強い存在とも言えるのが限界分譲地であるが、実はそんな限界分譲地の地主に対しても、所有物件を重荷と感じる心理に付け込んだ悪徳業者が盛んに甘言を弄し、原野商法の二次被害と全く同じ手口が横行している実態がある。
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 多くの悪徳業者の手口は共通していて、登記簿上の所有者情報、あるいは何らかの手段でリスト化された分譲地の所有者の元に、土地の売却のサポートや管理を謳う美麗なパンフレットが送られてくる。パンフレットには、所有地の売却や管理、活用などのサポートを行うと記されている。(文末にそのパンフレットのサンプルを掲載しています)

 会社によっては「分譲地調査報告書」などと記載した紙切れも添付してくるが、その内容は、グーグルマップの航空写真を少し見れば誰でも書けそうな、大体どの限界分譲地にも当てはまりそうな極めて大雑把かつお粗末なものである。だが前述のように、元々限界分譲地の所有者は、自らの所有地に足を運んだことすらなく現況をまったく把握していないうえ、すでに高齢となって自力で遠方の所有地の確認に赴くことが難しくなっている方も多い。また、既に売却に挑んではみたものの、仲介業者ににべもなく断られてしまった経験を持つ方もいるためか、こんな杜撰な報告書でも一定の説得力を持ってしまうケースがあるらしい。

 買い手も付かない所有地を持て余し、地元業者にも見放され、最後の望みを託してしまった地主が送付元の会社に査定を申し込むと、業者側は、一切の取引事例や相場をも無視した高額の査定額で回答し、地主に淡い期待を抱かせる。売出値の設定はあくまで売り主側の自由とは言え、これほどネットでの物件検索が主流になった今の時代、周辺相場より著しく高額な物件に購入申し込みなどあるはずもなく、そんな価格で売却など絶対に不可能であることは、事情を知る者であればすぐにわかるのだが、予想を超える高額査定で舞い上がってしまった地主が媒介契約を結んでしまうと、業者は、売却に向けての宣伝広告費や交通費、管理費などの名目で、売主に諸費用を請求する。
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実際に、限界分譲地の所有者に送られてきたパンフレット(一部画像加工済み)。ネット上では悪評が多く見られる業者の一つ。
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グーグルマップを見れば誰でも書けそうな、極めて大雑把な内容の「分譲地調査報告書」なるものが添付されている。

 不動産取引において発生する仲介業者への報酬は、仲介手数料も含めすべて成功報酬であり、成約前の時点で、依頼者に仲介に関する諸費用を請求することは明白な宅地建物取引業法違反なのだが(売主が自発的に依頼した広告宣伝活動に要した実費は請求可能)、そこは業者側も姑息なもので、売主に請求する手数料は、仮に売主側が違反営業に気づいて賠償請求を行ったとしても、弁護士費用などを考えると割に合わない程度の額(30万円程度)に留めている。そのためほとんどの売主は、手数料を徴収しておきながら一向に売却の話が進まない事態に強い不信を覚えながらも、費用の回収を諦め、そのまま泣き寝入りする道を選んでしまっているのが現状だ。

 売却依頼を受けた物件の情報は一応、特定の物件サイトに掲載されてはいるのだが、言うまでもなくあまりに高額なため問い合わせる人がいるとはとても思えず、また業者自身もまともに売却活動を行う意思もない。この手の業者の「管理物件」は、どこも小さな看板を立てたきり、雑草一本抜きとられることなく完全に放置されている。
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違反業者との評判が絶えない某業者の管理物件。看板には「管理番号」の記載欄が設けられているものの、実際は適切な宅地管理など一切行われている気配がない。(一部画像加工済み)

 こうした悪質な業者の手口は、僕もこれまでの分譲地調査の過程で幾度となく耳にしており、実際に被害に見舞われた方や、危うく業者側の口車に乗りそうになってしまった方がいたという話も聞く。当ブログの読者の方でも、実際にどの業者がそのような違反業者に該当するのか特定できてしまう方も少なくないとは思うが、僕自身が確実な証拠を掴んでいるわけでもないので、未利用地が多い限界分譲地が抱える最も深刻な問題の一つでありながら、これまであまり具体的にこの話題に切り込むことができなかった。
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 ただひとつ、確実に断言できることは、先述のように本来なら成功報酬によってのみ経営が成り立つはずである不動産業者は、通常、資産価値も低く需要も少ない限界分譲地を積極的に取り扱うことはない、ということだ。物件の調査を行い、何か月、場合によっては何年も広告を出し、売買契約書類を揃え、売主と買主の間に立って日程などを調整したうえで契約に立ち会い、責任まで負わされて、それで仲介手数料がわずか数万円では、別に僕が不動産業界に転職したから言うわけではないが、慈善事業じゃあるまいし、やる気を出せというのが無理な注文であろう。

 例外として、土地の売買のほかに新築住宅の建築を請け負っていたり、ほとんど個人商店に近い形で細々と営業する地元業者であれば、住宅用地として安めの分譲地を取り扱っていることもあるが、地元どころか、都市部の一等地に事務所を構える業者が、実勢相場が坪1万円にも満たないような更地ばかり専門に扱っていて、まともな営業手法で商売が成り立つはずがないのである。こんなものは営業実態など調べるまでもなく、本来ならそんな遠方の会社から売却の誘いが来た時点で強い疑問を持たなければならない話なのだ。
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 ところが今もなお、限界分譲地の所有者の元には、このようないかがわしい業者からの、似たようなデザインのパンフレットの送付や営業の電話が絶えることがない。電話番号で検索して、出てくる口コミはどれもその悪質性を糾弾するものばかりだが、そんな悪評もしばらくすると削除依頼が出されて消えてしまい、複数の問題業者が今も営業を続けている。この手の業者が多く物件広告を掲載している、全日本不動産協会の物件サイト「ラビーネット不動産」の会社情報を見ても、掲載物件数は年々増加していることから、被害は今も拡大しているものと思われる。
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限界分譲地で頻繁にその看板を見かける大阪市内の某業者の、電話番号検索サイトにおける口コミ。調査費の名目で、成約前の時点から手数料の請求を受けた証言が記載されている(赤枠内)。
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ラビーネット不動産に登録されている某業者の登録物件数はまさかの2668件(2021年2月9日時点)。支店もほとんどない、雑居ビルのワンフロアで営業する零細業者では、到底管理しきれる数ではない。

 こうした状況の中、僕や知人の間ではしばしばこの手の悪徳業者の話題が上るものの、当ブログ上においては極めて曖昧な表現でその存在をほのめかす程度に留めていたが、今回、千葉県北東部のとある限界分譲地の物件を所有する方の元に、ここまでに紹介してきた手口とは一風異なる珍妙なパンフレットが送付されてきた。

 そのパンフレットは、地主の歓心を買うために、ビジネスライクなスタイルで通常の不動産管理会社を装っている従来のものと異なり、自分たちがいかに信頼に足る優良業者であるか、そしていかに同業他社が悪質な営業を繰り返しているか、といった内容を、畳みかけるような威勢の良い長文で述べている奇妙なものであった。

 ところが長文であるがゆえに、被害者の弁を待つまでもなく少々の裏取りのみで論理の破綻や矛盾点がいくらでも指摘できる、まさに「語るに落ちる」を地で行く極めて稚拙な代物で、もしかしたらこちらの想像とはまた異なる思惑があるのではないかと勘繰ってしまうほどたった。そこで、このパンフレットを一例に挙げ、限界分譲地の所有者を狙う商売の実態をまとまった形で紹介していこうと考えて作成を始めたのが今回の記事なのだが、その珍妙なパンフレットを通じて、悪徳商法の枠を超えた、別の限界分譲地の問題も見えてきた。後編では、おそらく北総の限界分譲地においてもレアケースと思われる、ある分譲地が抱える問題を紹介していくと共に、業者の中では後発と思われる、限界分譲地専門の違反業者の手口と欺瞞を紐解いていく。

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【参考資料】旧分譲地や全国の旧別荘地の所有者の元に送付されているパンフレットの一例。(社名は消してあります)
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フルカラーの美麗な印刷のパンフレット。通常の不動産管理会社を装い「不動産のポテンシャルを引き出すクオリティの高い土地建物管理業務を遂行」するとある。
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常識外れの広大さを誇る「当社お取り扱いエリア」。
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各所有者あてに、当該物件の地番を記載したこのような挨拶状が同封されている。
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上記業者による「不動産のポテンシャルを引き出すクオリティの高い土地建物管理業務」の一例。