にっぽり団地

成田市

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 にっぽり団地は、成田駅から空港を超えておよそ12km。旧大栄町の東関東自動車道からほど近い丘陵の先端にある、総区画およそ100区画程度の小さな住宅団地である。自治会名やバス停では平仮名表記の「にっぽり」だが、漢字では東京の同名の地名同様「日暮里団地」と表記する。ニュータウンではよく、自由が丘や成城などの著名な高級住宅地の名前を無断借用することがあるが、ここの「にっぽり団地」はこのあたりの字である「日暮里」から名付けられただけである。もっとも、東京の日暮里に高級住宅地のイメージはないとは思うが。

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写真中央奥、電柱が林立する辺りがにっぽり団地。

 団地は幹線道路から、このあたりの特産品であるサツマイモ畑を抜けて、結構奥まった位置にある。団地の入口には太陽光パネルの発電基地が造られているが、団地よりは一段低い土地に設置されているので、団地内からパネルが見えることはない。近年、別荘地に縦横無尽に設置された太陽光パネルが景観や住環境を損ねているとして問題になっているが、郊外のニュータウンにおいても、隣接する土地に広大なパネルが設置されて眺望が破壊されたり、パネルの反射光が直接住宅に注いでしまっているところがある。

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団地の入口に設置された太陽光パネル発電基地。

 団地内は入り口付近は住宅が隙間なく立ち並ぶが、奥に進むにつれて空き地が目立つようになってくる。街路は辛うじて軽自動車が離合できる程度の幅員はあるが、この団地は1区画当たりの面積が狭く(約30~40坪)、また東向きのひな壇であるため空地への車両の乗り上げも難しいためか、どの住宅も駐車場が1台分しかなく、路上駐車が目立つ。ただこの団地は丘陵の先端に位置し先へ抜けられるまともな車道は存在せず通過車両は皆無なため、住民同士が了解していれば路上駐車が直ちに問題になることは少ないかもしれない。

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入口付近には住宅が立ち並ぶ。給水塔と思われる設備も見える。

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奥に進むにつれて空き地が増えてくる。

 団地の入口には給水塔と思しき設備も見えたが、蔦が絡まり、周囲は藪に覆われ、稼働しているようには見えなかった。団地内の住宅にはどこも井戸ポンプが設置されていたことから、おそらく分譲当初は集中井戸を構築していた、あるいはその予定があったのだが、その後思うように住宅建設が進まず管理が困難になり使用を停止し、各戸が自前の井戸で生活用水を確保しているのだろう。団地内には数戸ほどの空き家があり、限界分譲地では見かけることの少ないワンルームのアパートが3棟ほど建てられていたが、あまり適切に管理されているとは言えず満室ではなさそうであった。

 この団地は街路など共有部の管理状態が悪い。側溝や擁壁は老朽化が激しく、一部崩れ落ちている擁壁も見かける。擁壁が崩れると、宅地の土砂が側溝へ流れ込み、団地の排水機能が損なわれる原因となる。擁壁は個人の所有物であるし、小規模な住宅団地では自治会費のみでインフラ設備を維持するのはなかなか難しいという事情があるが、実はこの団地は、そもそも分譲当初の販売手法に問題があったのではと疑わざるを得ない点があり、それが団地の衰退の遠因の一つとなっている。

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団地内にはワンルームアパートもある。

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空き家もいくつか立ち並ぶ。管理は悪く今後に不安が残る。

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老朽化し、崩れ落ちた擁壁。

 団地内にはいくつもの売地の看板が目に付くが、中には敷地の大部分が急峻な崖地で、宅地利用が困難な土地まで一区画として分譲され売地の看板が出されている。もともとこの団地の外周はかなりの急斜面であるにもかかわらず、外縁部の区画の大半は擁壁が造られていない。一部擁壁が構築されている宅地もあるが、その擁壁の高さや構造から判断しておそらく今日ではがけ条例に抵触して通常の建築許可が下りないと思われ、そのような旧分譲地は各地で見受けられるが、だがここはそれ以前の話として、崖地そのものが宅地として販売されている。

 確かに昭和の時代は、特に温泉地や別荘地などでは、眺望を優先し崖地上に強引に建築することも多かったが、この団地は別荘地でもない一般の分譲住宅地であり、おそらく分譲時に売主による充分な説明がなく、また買い手も転売のみが目的で現地の土地の形状を確認することもなく、図面上のみで土地の売買が行われていたことが予想できる。古い規格の宅地や家屋が、建築基準法の改正によって既存不適格になるのは仕方がない一面もあるが、さすがに歩行も困難な崖地が大部分を占める区画まで宅地として販売するのはかなり乱暴であると言わざるを得ないだろう。

 あるいは元々は宅地として十分なスペースはあったものの長年の風雨で浸食され、結果として崖地となってしまったのかもしれないが、いずれにせよ販売会社の横着な姿勢が原因であることは明白だ。居住性や実用性を度外視した杜撰な乱開発と断じてよかろう。

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崖地の売地。「40坪」との記載があるが平坦地は僅かで、大半は急斜面の崖地であり宅地利用は困難だ。

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擁壁が構築された東端の宅地。強度に難のある構造で劣化も進み、今日ではがけ条例に抵触する可能性が高い。

 東端の崖地に隣接した区画は、がけ条例で規定された建築制限のスペースを確保出来るほどの広さもなく、したがって仮に今日この土地に住宅を建築する場合、今日の建築基準法に適合した擁壁を再構築するか、深基礎などの特殊な基礎工事をしなくてはならず、多額の費用を要する。それが売出価格が坪2万に満たないここの土地代そのものよりはるかに高額なのは言うまでもなく、団地ではすでに、この東端の一角に関しては今後の利用を見込んでおらず事実上放棄したような状態で、まるっきり荒れるに任せた状態である。路盤の傷みが特に激しい一画は封鎖されており、立ち入ることもできない。

 この団地は70年代半ば頃に造成・分譲されているが、同時代の他の分譲地でもここまで損傷の進んでいるケースは少ないので、販売手法もさることながら、実際の宅地造成の施工レベルも低かったのではないだろうか。

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崖地に隣接する区画の街路は管理もされていない。

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空き家の管理もなされず、事実上、団地は部分的に放棄されている。

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東端の区画に至る街路の一部は路盤の傷みも激しく危険なため封鎖されている。

 にっぽり団地は眺望が素晴らしく、また成田空港から近いため、空港関連の業務に就く人には向いているかもしれないが、正直、宅地の現状を考えると、これから先、ここに住宅を建築することは賢明とは言えないかもしれない。これがほとんど建築物もなく、得体の知れない住人が住み着いた分譲地であれば、僕も容赦なくボロクソに書くのだが、予想以上に団地の現状が深刻であった。訪問時には団地内の道路で小さな子供が一人でボール遊びをしていたが、この団地は子供の遊び場としては危険な個所が多すぎる。このような小さな子供も安心して暮らせる住環境が再現されることを望まずにはいられない。

 成田市は戸建の中古住宅や貸家が恒常的に不足気味である。成田駅周辺に広がる成田ニュータウンは地価が高く、所得の高くない若い子育て夫婦はURの団地やアパートに住まざるを得ない。このにっぽり団地の空き家も、空港周辺勤務者が気軽に借りれる賃貸物件として再生されれば、団地内の整備も促され、新たな住民が呼び込める可能性もあるのではないだろうか。

 利便性の点から永住には不向きでも、賃貸であれば、不便でも地価が安く自家用車があれば不都合を感じない若いファミリーや夫婦を呼び込むことも十分可能なはずだ。それにはまず、自らの所有地を管理する意欲も能力もない不在地主の空き地や空き家の柔軟な活用を可能とする法整備が何よりも急務である。

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一世代前の規格の住宅団地であり現状は老朽個所も多いが、打ち捨てるには惜しい環境だ。

にっぽり団地へのアクセス

  • 東関東自動車道大栄インターより車で13分
  • 京成成田駅より成田市コミュニティバス「津富浦ルート」 にっぽり団地バス停下車 徒歩6分
  • 京成成田駅より千葉交通バス「吉岡線」 来光台バス停下車 徒歩21分

コメント

  1. 三谷洋平 より:

    近くを通ったので見てきました。台地の東縁を固める擁壁が相当な規模で崩落しています。もはや区画の所有者がどうにか出来るレベルではなく、というか、丸々2区画分ほどが台地上から「消失」しています。草木の状態から推して最近の崩落には見えず、少なくとも年単位で放置されていると思われます。ちなみに崩落直下の谷津田は半分がた崩落した土砂で埋まっており、既に耕作放棄されているようです。

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