出沼(いでぬま)団地は、前回紹介した新堤台の分譲地から直線距離でおよそ1キロほど南に位置する、やはり70年代に造成された旧分譲地だ。こちらは千葉交通のバス路線からは少し離れ、多古町のコミュニティバスのバス停が設置されているが、「出沼団地入口」バス停から団地に至る進入路は未舗装の農道まがいの狭路で、当初はナビを駆使したにもかかわらず道を間違えたかと錯覚してしまった。

 国土地理院の航空写真でも、その開発当時の模様を視認できるが、この団地は造成当初から、くの字状に鋭角に歪んだ形で開発されている。なぜこのような歪な形状となっているのかは、これも当時の航空写真を見れば一目瞭然だが、この団地の大部分の区画は、元々この地にあった細長い谷津田を、膨大な量の土砂で埋め立てて造成しているためである。今となっては残された谷津田も休耕地となり、現地を訪問してもそこが谷戸であったことは一見すると分からないが、団地の片隅には今も小川が流れる。地盤に少々不安の残る立地だ。
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1975年に撮影された出沼団地の上空写真。赤枠内が区画。団地の北側に谷津田が残り、台地上の農地ではなく、その合間に出来た浸食地形の窪地を埋め立てて造成したことがわかる。(国土地理院航空写真より引用)

 団地の入口付近には、もはや限界分譲地のランドマークと呼ぶに相応しい給水塔がある。他の分譲地のそれと違い、ここの給水塔は錆びの度合いも少なく、蔦や樹木が絡みついていないので、一瞬現役のものかと思いきや、既に管が外れ、利用できる状態ではなくなっていた。
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団地の入口にある給水塔。

 最近、僕の家の近所で、給水塔用地の敷地が共有持分として含まれている宅地が売られている。その分譲地の給水塔も既に使われている気配はなく、そんな物の共有持ち分など金を貰っても欲しくないものであるが、多くの旧分譲地の共有設備が、同様に区画所有者の共有名義となっている可能性が高く、もはや無用の長物と化した給水塔の残骸も、建前上は合意が取れなければ撤去は難しいのだろうか。超郊外の限界分譲地は不在地主の土地が圧倒的多数であることを考えると、合意形成などほぼ絶望的である。

 団地内は、中央を貫く町道を除き舗装されていない街路が多い。家屋は少なくほとんどが空地なのだが、その土留めがひどく歪んでいる個所がある。側溝も、土に埋まっているのはよくあるとしても、普通の造成工事では起こり得ないようなひどく崩れた状態で、新堤台の分譲地同様、あまり丁寧な造成工事が行われなかった可能性がある。区画によって擁壁の材質が異なるのは、所有者自身が擁壁を再構築した形跡だろうか。
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出沼団地内。ほとんどが空地で、家屋は少ない。
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ひどく歪んだ土留めや擁壁。
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側溝の位置も歪み、街路に埋もれている。

 新堤台と異なるのは、こちらの団地は賃貸アパートが点在していることだ。とにかく多古という町は、ほとんど市街化が進んでいないにもかかわらずアパートはそこかしこで目にする。それらアパートをよく見ると、名前と外壁の色が違うだけでどう見ても同一の構造のものが多く、明らかに同一の建築業者によって建てられている。昨今話題の、田舎の地主を血祭りにあげる大東建託の様な業者によるアパート建設ラッシュが、30年前の多古にも起きていたのだろう。出沼団地のワンルームアパートは2018年3月現在、家賃15000円からあり、以前紹介した「五宝つつじヶ丘住宅」にも存在した、無住のアパートも存在する。

 外観を見る限り、築30年程度であると思うが、つい最近入居者がいなくなった、という雰囲気ではない。これを見ると、さすがに多古町に話題のサブリースアパートが一切存在しないのもうなずける。築30年程度のアパートが瀕死の状態にあるこの町で、アパートで資産形成だの、家賃30年保証しますだの言われても、屁でもこいて寝てろ、という感じで、まともに話を聞く気にもなれないのが普通の感覚ではないだろうか。空室アパートの増加は多古にとっても由々しき問題だが、一方でこれらのアパートは、まちづくりを破壊する大東建託の乱暴な営業から町を守った道祖神でもあったのかもしれない。結果としては同じことなのだけれども。
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出沼団地には数棟の賃貸アパートがある。
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無住のワンルームアパート。
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出沼団地にある、現在千葉県最安値の賃貸アパート「エスポアール」の物件広告。(アットホームより)

 また、売地は売地で、2018年3月現在、日栄不動産が団地内の49坪の宅地を30万円で広告に出している。坪6000円というと宅地と言うよりほとんど山林のような坪単価だが、実際この団地は山林と化している区画が大半で、一応売地の看板が出されているものの、その進入路は車両の進入はおろか、降雨時には徒歩で入るのもためらわれるような状態のところもある。

 また、この団地には、おそらく中古車取扱業者と思われる会社があるのだが、あろうことか団地の街路を一本丸ごと車両置き場として利用していて、その大量の車両のおかげで進入できなかった街区があり、気の毒なことにそんな街路の先にも空き家や売地があった。このブログの調査時ですら見届けることが叶わなかった売地の看板など、もはや永久に日の目を見ることはないだろう。

参考:出沼団地の売地広告(日栄不動産のサイトに飛びます)
http://fudosan.cbiz.ne.jp/detailPage/sale/70005/952/?&allsup=70005&fr=g

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資材を運び込むのも面倒そうな団地内の売地。
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街路が大量の車両でふさがれ、正面から見ることが叶わなかった売地と空き家。20180316_150936
管理された区画もあるが、多くの宅地は雑木林と化している。

 出沼団地にしろ新堤台にしろ、立地としては似たようなものであり、管理状況も同レベルである。家屋数の少ない分譲地の街路や共有設備の管理が行き届かないのは当然ではあると思うが、いくつかの限界分譲地を見ていると、家屋がほとんどない分譲地は、草刈り業者によって管理された売地よりも、山林と化した未管理の宅地の割合が多くなる。おそらく、近隣での取引事例が少ないがために、わざわざ費用をかけて売りに出そうと考える人が増えないのだろう。

 多古町自体も、その都市計画マスタープランを読む限り、今となっては町内全域が大規模に開発されることは全く想定しておらず、町としてもそのような方向性は目指していない。全体としては農村的環境を保全する方向であるようだ。一方、五宝つつじヶ丘住宅や新堤台、出沼団地に関しては、その存在自体が無視されており、「住宅地」として引き合いに出されているのは積和不動産の分譲地や、旧来の市街地のみである。

 確かに、多古全体で見れば、分譲地の数は数えるほどしかなく、その存在が都市計画の根幹を揺るがすほどのものではないかもしれない。家屋の密度も、既存の農村集落のそれと大差ない。しかし既存の集落と大きく異なる点は、限界分譲地は各区画の所有者が広範に散らばっているうえ、その管理や利用方法は各所有者の自己判断に全面的に委ねられており、今なお市場に放出されている物件も少なくなく、統一された管理の基準や体制がまったく整っていないことである。これではよほど上手く舵取りしない限り荒れ果てて当然なのだ。数が少ないからと言って、問題を黙殺し、放置しても良いということにはならないだろう。
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空地、畑、雑木林、駐車場、倉庫、住宅、アパートが並ぶ街区。細分化され、明確な方針を持たない分譲地は無秩序な景観を生み出している。

 
 次回は、多古町の東側、今は香取市となった、旧栗源町にある放棄分譲地を紹介したい。



出沼団地へのアクセス


香取郡多古町出沼
・東関東自動車道大栄インターより車で13分
・多古台バスターミナルより多古町コミュニティバス「久賀ルート」  「出沼団地入口」バス停下車 徒歩2分