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 バルールド成田は、芝山町役場から徒歩でおよそ20分ほどの立地にある新興住宅地である。「成田」と呼ぶにはかなり無理のある立地条件ではあるが、近隣の著名な地名を借用する分譲地や分譲マンション、会社名は珍しくなく、いまだに「芝山千代田駅」がどこにあるのかわからない方も少なくないことを考えれば、「バルールド芝山富里」と名乗らなかったのは正解なのかもしれない。「バルールド」とはフランス語らしく「Valeur de NARITA」と表記するらしいが、直訳すると「成田の価値」と、分譲地として相当微妙な意味になるのだけれど、僕はフランス語には全く詳しくないので別の意味があるのかもしれない。
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バルールド成田の第7街区の案内板。傷みが激しく読み取り辛いが、「Valeur de NARITA」の表記が見える。

 前述のようにこの分譲地は芝山町役場から遠くなく(しかし分譲地のおよそ3分の1ほどは富里市域に属する)、その役場近辺からは成田空港行きの路線バスや大崎駅行きの高速バスなども発着していて、もちろん町運営のコミュニティバスも経由し、芝山の人口規模を考えれば交通の便は悪くなく、そのためか今日もなお新築住宅の建築は進んでおり、これまで紹介してきた限界ニュータウンの定義からは外れる要素が多いのだが、それでもあえて紹介することにしたのは、ここは以前紹介した「パレスガーデン成田」同様、バブル末期の造成から長い放置期間を経て、近年になってようやく住宅建築が進められた元「放棄住宅地」であるからだ。ちなみに団地内に設置された看板を見る限り、再利用を手掛けた会社も、パレスガーデン成田と同じ地元業者であるようだ。
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造成から長い期間放置されていたバルールド成田。
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1992年に撮影されたバルールド成田付近の上空写真。吉田教授の調査が入る2004年の時点まで、役場に近い東端の一部の区画を除き住宅建築はほとんど進まなかった。
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バルールドは芝山町と富里市にまたがって造成されているので、富里市運営のデマンド交通タクシーの十倉ルートもカバーしている。


 僕がブログの中で度々紹介している立命館大学教授の吉田友彦氏による放棄住宅地のレポート『平成16年度土地関係研究者育成支援事業研究成果報告書 首都圏郊外部における放棄住宅地の環境管理における基礎的研究』においても、このパレスガーデン成田は「部分放棄住宅地」として紹介されており、今日のように住宅が立ち並ぶ以前の、街路も封鎖され荒れ果てた模様の写真がいくつか添付されている。

 現在、ここは空港やその周辺企業に勤務する方向けのベッドタウンになっており、一区画が広いので(100坪前後)、贅をきわめた豪邸や個性的でオシャレな家が所々に点在するが、やはり未だに空き地は多い。そして、パレスガーデン成田同様、ここの住宅はキレイでも共有部分や空地は荒れ果てているものが多く、非常にアンバランスな印象を受ける。
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団地内にある住宅の大半は築浅の注文住宅だ。
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街路や空地は管理が行き届いていない個所も目立つ。

 宅地は現在でも販売されているものがいくつもあるが、販売価格は坪3万円前後のものが多く、芝山の立地を考えるとあまりお安い印象もないが、何せ100坪ほどの広い区画が多いので、駐車場スペースなどを広く確保したい方に一定の支持があり、今でも住宅の建築が行われている光景を見かける。街路も広いので、元々丘陵の斜面を切り出して造成してあるので多少傾斜はきついものの、自家用車での暮らしに不便を覚えることはなさそうだ。だがこの団地は、周辺の中規模分譲地とは大きく異なるデメリット(?)が一つある。実はここは、元々は集中井戸、集中浄化槽の設備を整えた分譲地であったのだが、長年の放置が災いしたのか、現在、集中井戸は枯れ、集中浄化槽も故障して復旧が困難になってしまったために、これから住宅を建築する場合、各戸個別の井戸、個別浄化槽を設置する必要があることだ。
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団地内の売地。90坪で236万円。

 浄化槽の故障は、おそらく当初設置した業者が倒産し、修復してくれる業者が見つからないことから放置に至ったのだという話を耳にした。近年建築が進んでいるとは言え、全体で見れば今なお総区画の半分は空き地なので、個別インフラに切り替えた方が得策だと判断したのだろうか。団地内には、既に人が立ち入った形跡もない共有設備が今なお残されている。
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団地内に今も残る集中井戸、浄化槽設備。雑草が生い茂り、管理されている様子はない。

 ちなみにここは、歩道にちょっと洒落た街灯が設置されているが、実はこの街灯も夜になっても点灯することはなく利用されていない。街灯は、電柱に取り付けられた、昔ながらの蛍光灯のものだけが機能している。一見するとごく普通の分譲地に見えるバルールド成田だが、共有設備の放棄、という荒療治を断行して、今も利用が続く分譲地なのだ。
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既に使われなくなった街灯。夜になっても明かりが灯ることはない。

 しかし、視点を変えて考えてみると、「共有設備の放棄」という選択手段が残されていることは、必ずしも悲観的になるばかりの要素でもないと個人的には考える。集中井戸、集中浄化槽の設備を備えた限界分譲地は北総に数多あり、それがこれからの時代、地域住民の負担だけで維持・管理を続けていくのは、どう考えても無理のある分譲地も少なくないからだ。給水塔などの水道設備は今日の時点で放棄している分譲地は多いが、成田市のビバランド団地のように高額の管理費を徴収しながら今なお運用を続けている分譲地は、その管理費や分担金がネックとなって、新規住民の移入も進まず、地価そのものがほとんど捨て値に近い価格で取引されていることもある。ちなみに平成30年9月現在、ビバランドの宅地の最安値は33坪で15万円である。

 空き地を多く抱えた北総の分譲地は、今となっては集中井戸や集中浄化槽の共有設備は、明らかにオーバースペックとなっているケースがある。「放棄」という手段にはどうしてもマイナスな印象が付きまとうが、それが地域の活力を押し下げる負の要素にしかなり得なくなっているのであれば、それを打ち捨てる勇気や決断も必要になってきている時代であると思う。
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追記:
読者の方から、団地内にある集中ガスの設備についてご質問を頂いたのですが、現在、この団地は集中ガスが稼働しているか確認するのを忘れていて、見た感じ稼働はしているとは思うのですが確証が取れないので割愛いたしました。集中井戸、集中浄化槽に関しては、異なる二つの仲介業者が同じことを述べていたので間違いはないと思います。

念のため、集中ガス設備の画像を添付しておきます。
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バルールド成田へのアクセス

山武郡芝山町新井田
・圏央道松尾横芝インターより車で7分
・成田空港第2ターミナル13番バス乗り場より空港シャトルバス「横芝屋形海岸行」乗車 「芝山文化センター」バス停下車 徒歩15分
・芝山鉄道芝山千代田駅より「芝山ふれあいバス」 芝山町役場バス停下車 徒歩16分