所有者不明土地特別措置法

所有者不明土地

 先日、僕はサブブログにおいて「鉄クズ買取」と題した一本の記事を公開した(現在は非公開)。それは、僕の自宅の前にある、今は解散して存在しない法人名義のまま放置されている公園跡地を整備した際、不法投棄されていた金属ゴミを買取業者に持ち込んだら意外と高かった、というエピソードを切り口に、資源や原材料の高騰について語ったものだったが、公開後、コメント欄にて読者の方より、それは遺失物等横領罪に該当する犯罪行為なので記事を取り下げたほうが良い、とのご指摘をいただいた。

(【参考記事】「限界分譲地の使い道を模索する⑤」)

 僕としては、ゴミが出てきてしまった以上仕方なく処分したものに過ぎず、いくら鉄クズが売れたと言っても、全体の作業量や、鉄クズ以外の粗大ゴミの処分などを考えれば到底割に合う額ではない。正直に言えばコメントを貰った当初は心外な思いではあった。のちにその読者の方よりTwitterでご連絡を頂いたが、その方も、別に非難する意図があったのではなく、過去に他人の処分したゴミを巡ってのトラブルを経験していたので、注意喚起の意味で指摘したそうである。

 しかし、いずれにせよ、厳密に法解釈すれば読者の方のご指摘の通りである。そんなつもりはなかっただとか、金儲けとして割に合わないだとか、そんな僕の思惑は、遺失物等横領罪の成立にはまったく無関係なことも事実である。ただ、それを言い出せば、ゴミの処分云々以前に、そもそも公園跡地(地目は公園ではなく宅地)に入り込んで雑木を伐採している時点で、法的には既にアウトな話でもある。僕が一人で黙って勝手に整備しているだけなら、地域においてその行為が問題視されることはまずないと思うが、僕はその模様を、ネットで地域外にも広く公開してしまっている。

 そうなると、仮にもし適法な手段での利用方法が存在した場合、その手順を回避して無断で使用していれば、それは単に僕が横着しているだけの違法行為である、との非難を免れることはできないだろう。

 そんな話をTwitterでしていたところ、以前も紹介した、空き地・空き家の譲渡を促すための情報サイト「みんなの0円物件」の運営者である中村領氏より、「所有者不明土地の利用の円滑化等に関する特別措置法」(以下「所有者不明土地法」)が定める「地域福利増進事業」としての申請を行えば、合法的な利用が可能になるのではないかとのご助言を頂いた。

 所有者不明土地法の施行については耳にしていたが、千葉の限界分譲地は、所有者そのものが特定できないと言うより、所有者が今日の相場に納得せず手放さない、あるいは所有したままその存在を黙殺して管理しない、という点が諸問題を引き起こしているので、僕はそれまであまりこの法について詳しく精査したことがなかった。しかし、確かに現状では、この法律以外に解決の糸口はないように思える。

国土交通省が発行する、所有者不明土地法に基づく「地域福利増進事業」のパンフレット。

 公園跡は、整備と言っても、単に雑木を切り払って定期的に除草剤を散布しているだけであり、事業と呼べるほどのものではない。「地域福利増進事業」という名称が示す通り、この法律は、所有者が特定できず市場に流通しない未利用地を、公益性の高い施設用地として転換していくことが目的なので、このまま僕の個人名で申請してしまっては、単なる土地の私物化を目論んでると疑われてしまっても仕方ない。

 そこで、建前ではあるが、僕と妻の二人で「木戸浜公園跡ボランティア会」なる名称の任意団体を設立し、簡単な規約書も作成し、僕がその会の代表として申請することにした。併せて、国土交通省が発行した「地域福利増進事業」のパンフレットの写しとともに、これまでの公園跡の整備の模様がわかる写真数点、公園跡の登記事項証明書、所有者の法人登記簿、公図なども準備して、横芝光町役場の都市建設課に出向いてみた。

 横芝光町は、もはや改めて言うまでもなく、なんの資産価値もない未利用分譲地が町内に溢れ返っており、それこそ前述の「みんなの0円物件」などのマッチングサイトを始めとした、持ってけ泥棒と言わんばかりの無償譲渡やバーゲンセールが繰り返されているような町である。わざわざ連絡の取れない面倒な土地に手を出す必要があるほど更地は希少ではなく、おそらくこんな申請は前例のないものであろうことは最初からわかっていた。

 案の定というか、実際に応対した職員の方は、そもそもこの制度の存在自体初耳だったようで、もちろん課内に資料も何もなく、僕が持参した国土交通省のパンフレットのコピーを取りだす有り様であった。

 ブログで公開していることも含めて、申請に至った経緯も簡単に説明したのだが、職員の方は「うちの隣もそういう空き地なんですけど、実際のところ、自分で勝手に刈っちゃってるんですよ」と、のっけから身も蓋もない最終手段を暴露して憚らない。そんなことを言われては、自分でもなんのために申請しているのかわからなくなってしまう。それでも職員の方は国土交通省などに問い合わせて、申請方法を調べて再度折り返し電話していただくことになった。

 折り返しの連絡はその日のうちにかかって来たが、まず、僕が申請している公園跡の整備が、所有者不明土地法が言うところの「地域福利増進事業」に該当するものであるかどうか、判断を下すのは市町村ではなく千葉県庁の用地課なので、申し訳ないが用地課まで出向いて判断を仰いでみてほしいとのことであった。

 宅地造成の開発許可じゃあるまいし、なんで一個人が県庁くんだりまで出向いてそんな大袈裟な話をしなくてはならないのかと、正直少しバカバカしくもなっていたが、他に解決の糸口もない以上あとに引くわけにもいかない。仕方ないので、翌朝、千葉県庁の用地課まで足を運ぶことになった。ちなみに我が家から千葉県庁まではおよそ50km。下道で約1時間半掛かり、決して近い距離ではない。

千葉県庁。

 報道機関や建設業などに携わっている方であれば、業務で足を運ぶ人は多いと思うが、少なくとも僕は日常生活において県庁に出向く機会など皆無なので、さすがに少し緊張した。目指す用地課の執務室は中庁舎の5階にあったが、どうやら地域福利増進事業に詳しい職員の方は今日は不在らしく、別の職員の方が一通り制度についての解説書に目を通してから中に案内された。

 用地課職員の方がまず最初に述べたことは、そもそもこの所有者不明土地法が定めた「地域福利増進事業」は、令和元年の施行後、その申請が認可された事例はまだ全国で3例ほどしかなく、しかもそれは同事業の発足にあたってモデルケースとして行われたものであり、市民の側から要望が上がって実現した事例はほぼ皆無であるとのことであった。千葉県においては前例がない。

 どうしてそんなに事例が少ないのか。申請にあたって、まずは当該の土地が本当に所有者が不明であるかどうかの調査を行う必要があるのだが、その時点で、申請者が所有者不明だと思い込んでいた土地でも、案外所有者が判明してしまうものらしい。これまで、幾度かは同事業の申請を希望した方はいたらしいのだが、大体まずこの点で「所有者不明土地」として認められず、申請が通らなくなってしまうとのことであった。

 仮にその土地の所有者(の一部)が本当に所在不明であると判明した場合でも、その手続きは煩雑をきわめる。具体的な事業計画書とともに様式に則った申請書を提出し、都道府県知事がその申請内容を確認したうえ、6ヶ月間、当該土地の事業用地としての使用の公告を行う。

 そして、その公告期間に関係者からの反対などがなければ、知事権限で当該土地の固定産税評価額に応じた補償金額と使用期間が裁定される。その補償金を、申請者が供託したところで初めてその土地が使用可能になるとのことだ。この点が、個人が単に公園を整備するために申請するとしたら、あまりにハードルが高いのでは、というのが用地課の職員の意見であった。

 職員の方が特に強調していたのは申請書の様式で、これに不備があると用地課としても受理できないと何度も繰り返していたので、よほど素人には作成が困難な代物であるらしい。

 

 まったくもって珍妙な制度である。いったいこの「地域福利増進事業」とやらは、誰をターゲットに行われているものなのだろうか。「地域福利増進事業」が想定する事業内容は、僕が希望している緑地や公園整備の他に、地域の町内会、NPOなどの集会所や活動拠点の建設、地域社会に利する商業施設の建築用地など多岐にわたるが、営利企業が事業として行うにはあまりに手続きが煩雑でしかも確実性に欠けるもので、実用的であるとはとても思えない。

 対して、一方で、町内会やNPOが利用するにせよ、最長で10年分の供託金を準備するとなると、よほど評価額の低い僻地でもない限り、その負担額は結構なものになるはずである。仮に、市街地から遠い地価の安い地域で利用するにしても、往々にして田舎の固定資産税評価額というものは、固定資産税が免税点に達して徴収できなくなるのを防ぐ目的なのか、実勢相場よりかなり高めに設定してあることが多く、非常に割高な保証金の供託を迫られることになる。

 供託なので、使用期間満了後は返還されるのかもしれないが、一般の市場に流通する事業用地にしたって、まともな土地(事業に適した土地)であれば、最終的に売却すればある程度は当初の取得費用を回収できるのだから、結局は同じことである。供託金の納付によって貸与される借地では担保にもならない。早い話が、この制度には、わざわざ一般の物件を差し置いて、ややこしい所有者不明土地に手を出すメリットがまったくないのである。さらに言えば、最長で10年間という使用期間も、事業の拠点施設を新造して使用するにはあまりに短すぎるのではないだろうか。

(【追記】本記事投稿の翌日、2022年2月4日に特措法改正案が閣議決定され、民間の使用に限り、使用期間が最大20年に拡大された)

 横芝光町はともかく、ある程度の都市であれば今でも土地はれっきとした資産なのだから、それをタダで使おうというのは虫が良すぎる話なのかもしれないが、それにしても多少は費用面におけるメリットがなければ、誰もこんな煩わしい制度を使おうなどとは考えないだろう。とりわけ、6ヶ月もの間、結論を先延ばしにして待たされるのは致命的すぎる。

 こんな制度を使う人なんているのですか、と職員さんに聞いてみたのだが、職員さんも、はっきりとは言わなかったが、実効性に難のある制度であるとの思いはあるらしく、県庁としても、この制度をそれほど広く周知させているわけではない、と述べていた。これでは横芝光町役場の職員が何も知らなかったのも無理はない。

 ちなみに所有者情報を追跡して、相続人の所在が判明した場合でも所有者不明土地の扱いにはならない(相続登記が行われていなくとも)。したがって県では今でも公共事業における用地買収の際、たとえ長年相続登記を怠り、法定相続人が数十名に及んでいるようなケースでも、所有者が判明している以上、粘り強く一人一人にコンタクトを取るそうだ。

 買収と言っても、相続人の数が多すぎると、一人あたりの受取額は、それこそ印鑑証明を取得する手間賃にもならないような小銭になってしまうケースもあり、当然協力を得られず難航することもある。そのため、用地買収が進まず停滞してしまっている公共事業がいくつもあるそうだ。

 そのあまりの制度のお粗末ぶりに、そんなことをしているから使われない土地が増えているのではないのですか、と、つい口から出てしまったのだが、しかしこれは用地課の職員さんを責め立てるわけにもいかない。言わないだけで、おそらく日々の業務において、部外者の僕などよりずっと不毛な思いをさせられる機会は多いはずだ。所有者不明土地の円滑利用を謳いながら、その実態は「所有者不明土地」の定義が一層厳格化されただけで、僕たち市民にとっては言うに及ばず、行政職員にとっても実利のある制度ではないように思える。

 という事で、わざわざ県庁まで出向いても、結局話はまったく進展しないまま帰路につく羽目になったわけであるが、ひとつ、用地課の職員さんが強調していたのは、まずはその公園跡地が、本当に所有者が不明なものであるかどうか確認した方が良い、という事だった。名義が解散法人であったとしても、仮に債務整理などを行っていれば、現在の権利者にたどり着く可能性はあるという。

 公園跡の所有者である「株式会社エス・ブイ・シー」は、2015年に会社法第472条1項の規定によって、事実上の休眠会社として「みなし解散」させられているので、債務整理など行っているかは分からないし、清算結了登記も行われていないままだが、みなし解散の時点まで、旧大蔵省を債権者とした、所得税の換価の猶予のための抵当権が設定されている(解散後に抹消済)。僕は法人登記については不勉強で付け焼刃の解説になるが、清算結了登記が行われていない限りは法人格はそのまま存続し、法人税は課税され続けているはずである。この辺りの線を辿れば、まだ追跡は可能であるかもしれない。

公園跡地の登記事項証明書。所有者である「株式会社エス・ブイ・シー」は既にみなし解散されている。

 そこで、公園跡の登記事項証明書と、所有者である「エス・ブイ・シー」の法人登記簿を持参して、再び横芝光町役場都市建設課に赴き、土地の整備の承諾を得たいので、固定資産税の請求先などから、所有者に連絡を取ってほしいとのお願いをすることにした。散々動き回って、最終的には本来最初に行うべきスタンダードな振出しに戻ってしまったわけであるが、数十年放置されていたであろう、民間レベルでは所有者情報を一切追跡できないジャングル化した放棄地であっても、結局のところは従来通りの手法を取るしかないわけである。

 ところで僕が持参した登記事項証明書を確認した都市整備課の職員さんは「株式会社エス・ブイ・シー」の名称を知っていた。バブル期の開発業者で、業務で閲覧する登記簿でしばしばその名を目にするらしい。固定資産税が今も徴収されているかは部署が違うのでわからないが、一般的な話として、既に解散してしまったバブル期の開発業者で、所在が特定できず、固定資産税の徴収も出来なくなっている土地は「それはもう、いくらでもあります」とのことであった。それこそまさに所有者不明であると断定して良いものであろう。国土交通省が発行するパンフレットに、所有者不明土地の一例として、どうして解散法人の名義の土地の存在が挙げられていないのか不思議である。

 ちなみに、ついでと言ってはおかしいが、僕の自宅の隣の区画も、こちらは単に住所変更が行われていないだけの個人の所有地であるが、この区画も一切管理されておらず荒れ放題なので、併せてこの区画の所有者にも連絡を取ってもらえるようお願いしておいた。

 本記事執筆時点での進捗状況は以上までである。本来なら、役場からの返答をもらってから書くべきなのかもしれないが、返答がいつになるかわからず、記事も長くなってしまいそうなので、今回はここまでの報告にさせてもらう事にした。新たな進展があればまた改めて報告したい。

 報告を中途で打ち切ってでも強く訴えたかったのは、所有者不明土地法の有名無実化の実態だ。この類の法律は、施行時こそ報道はされるものの、活用されないからと言ってそれが直ちに実害を引き起こすようなものでもないので、あまり続報がないのが通例だが、申請を受理する側の行政職員ですら、ほとんど何の期待も寄せていないような浮世離れした制度を創設しただけで、何か問題が解決したような気になっている人がもしいたとしたら、それは幻想にすぎないと強く述べておきたい。僕が公園跡を使えなくて困るなんて話は、単に僕のわがままであるが、公共事業の用地買収にすら生かせないような法制度など「特措法」の名に値しない。

コメント

  1. JK より:

    我が国の役所は素晴らしいですね!

  2. 愛読者A より:

    全く違うことで似ていると思うような感情を持ったことがあります。
    詳細省きますが、下請けの中小企業を元請けの大企業から守るための下請法ってのがあります。多くの大企業はそれを遵守している訳ですが、そうじゃないこともある訳で、とあることで私が下請法関係で被害者として対応をすることになったことがあります。、一応の相談窓口も整備されており、その窓口を順番にたどると、結局は霞が関に直接話しなさいとなります。末端の相談窓口から順次駒を進めているので「やっと話が聞いてもらえる」と思って教えられた番号に電話すると、内容も聞かず弱者救済のシステムではないようなことを一方的に言われ、けんもほろろにあしらわれます。
    つまり、大企業の横暴から中小企業を守るという大義名分のために、所有者不明土地法とは比較にならないような体制が構築されていますが、最後にこれはポーズでしかないことを思い知らされる訳です。
    なおこの案件、最終的には銀行紹介の弁護士と戦って数億円相当の賠償取ったのです。弁護士から雇われの身である私が自分の会社でもないのに、なぜにそんなに真剣に戦うのか?的なことを言われましたが、私の相手は取引先の大企業ではなく、霞が関だったのかもしれないと、後で思いました。

  3. 軟弱山男 より:

    制度があるからと聞きに行くと盥回し,結局 県庁ですか。
    肝心の県庁でもハッキリしない。
    この事例と違うかもしれませんが,補助金の申請で,自分で書いて申請したら,何度も書き直しをさせられて,その挙句に却下でした。
    後で知り合いに聞くと,元職員が行政書士で申請代行をしており,そこに頼まないと,受け付けて貰えない。 しかもコンサル業務で成功報酬として,許可があった補助金の何割かを支払う必要あり。
    結局,制度そのものが天下りや利権になっていた体験をしました。
    この事例が同じかは不明ですけれど。

  4. yamane より:

    最初から解決する気無いんだなあー、と。
    素人考えですが、税金払わないと普通は「没収とか差し押さえ」ですよね?
    何で土地に関してはこんなにルーズなんでしょうか、この国は・・・
    最近の「盛り土問題」も、この辺から来てるように思えてなりません。
    結局、御偉い代議士も霞ヶ関も、自分達さえ困らなくて甘い汁が吸えれば、どうでもよいのでしょう。

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