所有者不明土地特別措置法・その後

旧光町

 先日「所有者不明土地特別措置法」の記事において、僕は、自宅の向かいにある、解散した法人名義の公園跡について、横芝光町役場の環境防災課に、現在の所有者(権利者)への連絡を依頼したところまでお伝えした。今回、その件について役場側より返答があったので、その結果を報告したい。

 結論を先に言えば、この公園跡の所有者は、ついに特定できなかった。町は当初、登記上の所有者である解散法人の所在地宛へ手紙を送付したらしいのだが、当然、受け取られず返送されてきたそうなので、当該土地の固定資産税の納税を行っていた「納税管理人」の元へ、再度手紙を送付したそうである。

 手際が悪いのは、町民からの雑草管理などのクレームを受理する環境防災課は、税務課の業務である課税状況までは把握しておらず、固定資産税の徴収先をも特定できないためなのだが、別部署と言っても、さして大きくもない役場の同じ庁舎内であるし、このあたりはもう少し効率的な連携が取れていても良い気がする。

 僕は資料として、解散登記が明記された法人登記簿を渡しているのだから、そんな法人あてに手紙を出しても、あて所に尋ねあたらないことはわかりそうなものだが、手順としてはそれが原則なのだろうか。

 それはともかく、納税管理人の住所には手紙は届いたようなのだが、管理人の方はすでに亡くなられているらしく、手紙を受け取って役場に返答してきたのは、その管理人のご遺族の方であった。そしてそのご遺族の方が言うには、納税管理人の遺産はすべて相続放棄したとのことである。だが、この公園跡の登記には、その相続放棄は一切反映されていない。

 一般的に不動産の相続を放棄する場合、被相続人は家庭裁判所に申立をして、相続財産管理人を選任しなくてはならない。そして相続財産管理人が選任された場合は、登記事項証明書の所有者名義が、故人の所有者名から「相続人不存在 登記名義人 亡〇〇〇〇(故人名)相続財産」という表記で氏名変更される。

 併せて、相続財産管理人の選任は官報に掲載され、その他の利害関係者を一定期間探すことになるのだが、それでも誰からの連絡もなく最終的に相続人不存在が確定した場合は、その不動産は国庫に帰属することになる。

 ちなみに余談になるが、業者の中には、官報でこうした相続人不存在の不動産情報を取得して相続財産管理人に連絡を取り、市場価格より安く不動産の取得を試みるところもある(裁判所より任意売却の許可が下りれば可能となる)。

 この公園跡の固定資産税を負担していた「納税管理人」が、具体的にどんな財産を遺していたのか、そしてその行く末がどうなったかまではわからないのだが、仮に納税管理人自身の名義の不動産が遺されていたのであれば、相続放棄したご遺族は、少なくともここまでの手続きは行っているはずである。

 ところが今回の公園跡の場合、登記簿上の所有者は納税管理人の名義ではなく、あくまで今も法人のままである。前回の記事でも述べたように、この法人はみなし解散によって自然消滅しているもので、破産したわけではないので破産管財人も選任されておらず、清算結了登記も行なわれていない。納税管理人はあくまで、横芝光町役場が課税する固定資産税を負担していただけで、この公園跡の所有権を登記していたわけではないのである。

 したがって、納税管理人が亡くなっても、この土地は一般的な相続放棄財産が辿るべきはずの法律上の手続きを、一切経ることもないまま放置されていることになる。役場の職員の方の見解は、所有者不存在ということで、やはり国庫に帰属することになる、とのことであった。ただ、Twitterのフォロワーさんからのご助言などを頼りに、僕なりに調べてみたところ、それに掛かる費用や手間暇を度外視すれば、理論上では、この公園跡を再び市場に戻す手段はあるようだ。

 前述のように、この法人はすでにみなし解散登記が行われているものの、おそらく納税管理人であったはずの元取締役はすでに死亡しているので、株主や債権者などの利害関係者からの申立があれば、新たに裁判所は清算人を選任することができる。その清算人を売主として、当該物件を売却してもらった後、この法人登記を清算する、という流れになるようだ。

 しかし、この公園跡の土地の登記には、過去も現在も、誰の抵当権も設定されていない(追記:抵当権が設定された経歴がないのは同社名義の別の筆で、この公園跡に限っては一度大蔵省の抵当権が設定されていた履歴があります(解除済み)。混同していたので訂正します)。もちろん破産財団が存在した履歴もない。法務局によるみなし解散登記からもすでに7年が経過しており、この法人は、もはや20年近く放置され続けていることになる。

 この状況で、今更この法人の株主などの利害関係者を探し出すのは極めて困難な話であろう。こんな不毛な依頼を引き受ける弁護士がいるとも思えない。言うまでもなくこの土地には、そんな煩雑極まる手間暇に見合った資産価値などないからだ。

 ちなみに今回のこの件が、果たして「所有者不明土地特別措置法」が求める、不明土地としての要件を満たしているかどうか、再度千葉県庁の用地課に電話で問い合わせてみたのだが、それは地域福利増進事業の申請を受けて審議してみない事にはすぐには判断できない、そしてその申請を行うには、当該の土地について、横芝光町長や当該土地の管轄の法務局(千葉地方法務局匝瑳支局)に、書面などで申請して土地所有者の探索を行い、そこが本当に所有者の特定が困難な土地であるかの証明書が必要やら、何やらうんじゃらかんじゃらという事であった。

 ただ、職員の方に教えてもらった「所有者の所在が難しい土地に関する探索・利活用のためのガイドライン(第3版)」を読んでみたところ、第3章の3-4に「解散等をした法人が所有権登記名義人等となっている土地」の項目があり、これを読む限りでは、やはり原則として、前述のように、清算人の選任を行って所有権の移転を行うものであるとのことであった。おそらくこの土地も、この原則を以て所有者不明土地と認定されない可能性が高い。こんなもの、僕に言わせれば、ある意味では所有者不明よりもよっぽど厄介な事案だと思うのだが。

 という事で、結局、僕にはこれ以上この土地の権利者の確定に動くことはできない。それはあまりにも手間や費用が掛かりすぎるものだし、それに目をつぶって無理に動いたとしても、僕も、町役場の職員も、また清算人に選任される弁護士や、その選任の申立てを強いられる旧利害関係者などなど、おそらく全員が幸せになれない不毛な作業になるはずだ。みんな立場上、口に出しては言わないとは思うが、全員が共通して心の中で叫ぶはずである。そんな土地、黙って勝手に草刈すればいいじゃねえかよ と。

 そもそも前回の記事でも述べたように、町役場の職員は、この放棄分譲地の草刈りについて「自分の家の隣もそういう土地だが、勝手に草刈りをしている」と語っていた。僕が自分だけに都合よく解釈をしているのではなく、当地においては、実際にこれが現実的な解答なのだと思う。横芝光町においては、放置された僻地の空き地が持つ価値など、結局その程度のものに過ぎないという事なのだ。

コメント

  1. yamane より:

    ヘタな事をしないで、民法の取得時効を使って自分のモノにした方が早いような?
    20年掛かるらしいですが、誰も何も言ってこないんじゃないかなあ・・・(汗
    でも元の所有者が確定しない限り、名義も変えられないか。
    やっぱりどうにもなりませんねコレ(笑)

  2. とくめい! より:

    GW中、Youtubeから誘導されて、興味深く読ませていただきました。
    そしてTwitterの本件に関する愚痴も激しく同意しつつ興味深く読まさせていただきました。

    法人はみなし解散しても、営業ができないだけで、不動産等をすべて現金化して配分しない限りは清算未了なので、隣地で枝が迷惑を被っている等の理由で利害関係者として新しく清算人の選任を申し立てるしかないと思います。
    ただ、Twitter で言及されていた、https://www.meisuzuki.net/archives/10 を読む限り、予納金とかどれくらいになるのでしょうかね。
    この問題は、今後、日本各地で深刻になるかもしれないのに、現在ではほとんど解決方法が存在していない気がしています。
    「この問題の解決にはお金がこれくらいかかる」というところが分かる限りまで、前に進んでブログのネタとしてもらえると、注目する人は増えるんじゃないかな、という気もします。

    ここまでいかなくても、清算法人の不動産は、清算ン年後に所有不動産が判明したが清算人が関係書類を破棄して記憶も薄れたので登記復活を拒否してしまうとか、些細な理由で土地売買は交渉すら事実上、不可能になる気がしています。

    もちろん常識外の法外な金額をつめば何とかなるかもしれませんが、まったく誰も使っていない土地に対してそれではあんまりです。

    土地収用法の第三条にあてはまる事業者ならば、強制収用ができるし、このようなケースでは実際に収用されていると聞き及んでいます。

    所有者不明土地特別措置法は、所有者不明ではなく、所有者と交渉できない土地に対して、収用法に準じた扱いを個人にもできる方向で整備した方が、日本の国土の活用の観点からも良かったのではないかとも思っています。

    また、どれほど価値がない土地でも、権利者を確定させる意味で1筆あたり2000円程度の固定資産税を取り、納税人・清算人が死亡したらその遺産の相続者への登記を裁判所が命じさせるようにするだけでも、そうとう権利の整理は進む気がするのですけれども、書いててもやっぱりそれは無理だと思いました。さてどうすればいいのでしょうね。

  3. Tororo より:

    Youtubeの方から流れてまいりました。楽しませて頂いております。

    既に他の方も書いておられますが、清算人の選任を裁判所に求めるにあたって必要となる、利害関係人からの申立て、というのは、利害関係人には債権者も含まれますので、別にかつての株主等を探さなくとも、自らが債権者だとして申し立てればよいのではないかと思います(法律的には)。

    例えば隣地の雑草や雑木の枝・根が越境してきて自己所有の土地の利用が妨げられているから、自分に何とかしろと請求する権利があるとか(自己の所有権に基づく妨害排除請求権の主張)、あるいは、除草剤の散布やゴミの撤去などをその法人のためにやったとして、自分にその費用の請求権があるというとか(事務管理に基づく費用償還請求権の主張)。

    専門家ではないですし詳しくはわかりませんが、まぁ費用と労力が掛かりそうではあります。そして清算人から誰か(他にいないなら自分か)にその土地を売却してもらう。それで割に合うかというと……。

    ちなみに草刈り行為等に事務管理が成立するなら、適法行為になると思います。違法行為ではありません。ただし成立するかは……?具体的な事情にもよるのでないでしょうか。

  4. 民法勉強中 より:

    はじめまして。過去の記事へのコメント失礼します。

    すでにご存知かもしれませんが、改正民法264条の9の管理不全土地管理の制度なら、所有者が不明でなくても使えるはずです。
    https://ja.m.wikibooks.org/wiki/%E6%B0%91%E6%B3%95%E7%AC%AC264%E6%9D%A1%E3%81%AE9

    ただ、「他人の権利が害され〜」などの要件を満たすのが難しそうですね。。。

  5. lovegen より:

    東金講演会拝見しました

    この記事、有名ブログで紹介リンク貼られてました
    ttps://www.landerblue.co.jp/60019/

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