限界分譲地の隣地購入のお手伝い

雑記


 少し前の話になるが、富里市のとある限界分譲地に住む、僕のTwitterのフォロワーさんであるAさん(仮名)から、自宅の隣の空き区画(35坪ほど)を購入したいので、お手伝いをしてほしいとのお申し出を頂いた。おそらく70年代頃に開発されたと思われる、その限界分譲地の売家にAさんが転入したのは今からおよそ20年前。その時点ですでに隣の空き地はまったく管理もされておらず、竹も含めた雑木林と化していて、Aさん自身も、特に何もアクションを取ることもなくそのまま暮らし続けていた。

 近隣にある別の空き地も、草刈り業者に依頼して管理を行う区画は多くなく、分譲地の住民の中には、空き地に勝手に物置小屋(未申請)を建てて利用している無法者もいるのだが、Aさん自身は、以前までは特にそうした無断利用も行っていなかった。この「勝手に小屋」系住民は、実は分譲地を巡っていると時々見かけるし、一番ひどいところでは、区画内ではなく私道上に車庫が建てられている光景を見たこともある。

資材置き場として占有されている某町の限界分譲地の私道。

 ただ、それを撮影してブログ上で公開するのはさすがに気がひけるので、その現状についてこれまで語る機会はほとんどなかったが、これも間違いなく千葉の限界分譲地の一面である。他人様の土地を「資産価値0」とか言って失礼じゃないのか、という指摘をいただくこともあるのだが、当の住民自身、土地が「財産」であるという意識が希薄なケースは珍しくない。

 ところが2019年9月に発生した台風15号の猛威は、富里市のAさんの分譲地をも直撃。隣の雑木林に生えていた大木のうちのひとつが暴風でなぎ倒され、Aさん宅の外壁に穴を空けてしまった。ちょうどその頃、隣地の竹の根が地下に侵食してきたのか、Aさんの敷地内にも竹が生えだしていた始末で、このままでは隣地に自宅が破壊されてしまうと考えたAさんは、意を決して、他人の土地であることは承知のうえで、およそ20万円もの費用をかけて、隣地の雑木をすべて伐採し、重機を使って竹の根も除却した。

 伐採後は、再び雑木林に戻らないように砂利を敷き詰め、成人後にマイカーを購入した息子さんが新たにその空き地を駐車場として利用していたのだが、さすがに人の土地をそのように無断利用し続けることには抵抗があったので、今回、購入を決断することにしたそうだ。そこで、限界分譲地に関するブログを書く(最近は更新を怠っているが)僕がお手伝いをすることになったのである。このブログを開設当初から目にしてくれていた方は、Aさんのような、地元の限界分譲地の住民や利用者の方が少なくない。

 手伝いとは言っても、僕にできることは、隣地の登記簿を見て所有者に連絡を取ることぐらいだけだったが、それでも情報を見てみると、平成初期にその土地を購入していたのは東京都内の不動産会社で、その後、親族と思われる方に相続が行われていた模様が確認できた。業者名を調べてみると、現在もその仲介業者はまだ営業を継続していて、相続した方の名前が代表者になっていた。千葉の限界分譲地を投機目的で購入していたのは個人の投資家だけでなく、不動産会社や建築会社といった法人も少なくないので、おそらくこの土地も、先代の同社の社長が投機目的で購入し、その後不良資産と化したまま放置していたものであろうことはすぐに想像ができた。

 早速電話で連絡を取ってみると、一体僕が何者なのか、相手は訝しがっていた模様だったが、知人の依頼を受けて連絡を取っていること、自分は単なる一個人であり、土地の買い取りを持ちかける業者などではないことを伝えると、所有者さんは、とりあえず購入希望者の方ともお話したいので、一度富里市の現地まで来るという。断る理由もないので承諾はしたものの、Aさんもやむを得ない事情があったとは言え無断で整地も行っていたので、その件を巡ってトラブルとなる恐れは充分にあったし、わざわざ東京からはるばる富里の田舎まで来るなんて、もしかしたら非現実的な高値での売却を期待されてしまっているのではないかと、Aさんも僕も不安にかられることとなった。

 しかし約束の当日になって顔を見せた所有者さんは、やっぱり不動産業者だけあって、その行動原理は損得勘定が最優先であるらしく、何も管理していないのに、なぜかいつの間にかきれいに整地されていた自らの所有地の状況についてもまったく関心がない模様であった。明らかに何者かによって無断利用されているのに、それについて見とがめることもなければ、質問すらされない。ただ、今こそがこの負動産を手放す最後のチャンスだというオーラが全身からみなぎっていて、到着して5分後には商談へ突入した。

 所有者さんが語るには、やはりこの土地は先代の社長(父親)が投資目的で、当時は1000万円を超える価格で購入していたのだが、その後は売却するあてもなく、数年前にその先代社長が鬼籍に入られて、現在の所有者さんに相続が行われたものであるとのことだ。Aさん宅の隣地のほかに、すぐ近くの別の1区画(こちらも雑木林)も所有しており、その2区画まとめての売却を取引の条件として提示した。どちらか片方だけ残されたら、ますます手放すのが困難になるからであろう。2区画合わせて合計で70坪ほどだが、相手が提示した売却価格は50万円であった。

 一般的に言えば、富里の限界分譲地であれば、これよりもさらに安い価格で購入できるところは、探せばある。しかし今回の場合、Aさんの自宅の隣地であり、しかも場合によってはトラブルが起きていたかもしれない可能性を考えると、50万円という言い値から、さらに無理に値切って相手の心証を悪くさせる道理はない。Aさんも、もう1区画付いてくるのであれば願ってもいない僥倖ということで、異論を挟むこともなくその価格で快諾し、無事に交渉が成立することになった。

 個人間交渉による売買のケースとしては、今回の事例は極めて幸運なものである。まず隣地の所有者が事業者で、連絡を取るのがきわめて容易であったこと、そして現役の仲介業者なので交渉慣れしていて、話が早かったことで、拍子抜けしてしまうほどあっさりと売買が成立してしまった。これがもし、隣地所有者が、不動産知識の乏しい相続人だとこうはいかない。まず登記簿記載の住所が更新されていなかったら、その時点で役場を通じなければ連絡を取るのが困難であるし、ましてや分譲当初に購入した本人が今も所有し続けていた場合は、どうしても購入当初の価格の記憶があるため、なかなか50万円という価格で納得してくれるケースは少ない。

 不動産情報サイトや草刈り業者のサイトには今もなお、誰も買わない高値で大量の売地物件が掲載されているが、これらの多くは、分譲当初の価格が忘れられず、現在の相場観も持たない売主が、価格変更を行うこともなく掲載を依頼し続けているものである。実際今回の交渉も、所有者さんの母親、つまり当初の購入者である先代社長の奥さんも同行していたが、交渉終了後、いよいよ帰り際になったところで、それまでずっと待機していた車内から出てきて、この土地は昔自分の旦那が高いお金で買ったもので、手放すのは寂しいけれど息子の判断で売ることになった、と何度も繰り返していた。

 1000万もの大金を支払って購入した土地を最終的に50万円で売るのだから、いくら現在の所有者は息子であったとしても、どうしても黙っていることはできなかったのだろう。これが高度成長期・バブル期に土地を購入した方々の偽らざる気持ちであることは事実で、たとえそれが現代の感覚からどれほど乖離したものであったとしても、失った額の大きさを考えれば、こればかりは致し方ない話なのかもしれない。だが、そんな時代はもはや遠い過去の話であることも厳然たる事実である。

 そんなわけで今回は、久々の更新になったが、限界分譲地の個人売買のお手伝いを行ったということで、Aさん自身の承諾もいただいたうえで、備忘録も兼ねてその顛末を簡単に書き記すことにした。なかなか個人売買というのは一見ハードルが高いように見えて、成立するときはあっけないのも個人売買の特徴である。

 限界分譲地の数多あるデメリットの中でも特に深刻なのもののひとつが、1区画あたりの面積が昔の水準で、今の時代には狭すぎることだが、こうして隣接した所有者間で売買が成立すれば、お互いにとっても幸運な話だ。最近僕は、手が回らなくて横芝光町の土地以外の不動産を手放していたが、機会があればまた、どこかの空き家の登記簿を上げてコンタクトを取ってみたくなる貴重な経験であった。

 

(当記事の分譲地の所在地は非公開であり、写真と本文は関係ありません)

 

 

コメント

  1. 千葉則幸 より:

    岩手の限界集落に住んでいますが、隣地が相続登記がされず不在地主となっています。
    イノシン酸のすみかになっています。

  2. Y.Y より:

    交渉成立後にノコノコ車内から出てきて昔話を始める母親はどうかしています。
    余計な事を言って、購入希望者が「それじゃ、やっぱりやめます。」とか言い出したらどうするつもりなのか?
    商売にはありがちですが、売り手側の思いとかは購入者には関係ありません。
    購入者は購入しようとしている商品と購入価格が見合っているかどうかでしか判断しません。
    売り手の思い入れとか作り手の意気込みなんて関係無いのです。
    そういう事が分かっていないから何十年も売れないのですよ。

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