九十九里町作田  小屋用地として再利用される旧分譲地

B級別荘地

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 これまで当ブログでは、主に成田空港周辺の旧分譲地を探索してきた。それらの分譲地のほとんどは、空港特需を見込んだ投機目的で造成・分譲されたものだが、千葉県の超郊外の分譲地は、何も空港周辺にだけあるのではない。千葉県の外房側、九十九里浜に近い海岸エリア、具体的な市町村を挙げれば、横芝光町、旧松尾町、旧成東町、旧蓮沼村(いずれも現山武市)、東金市、九十九里町、大網白里市、白子町あたりにも、想像を絶するほど膨大な数の旧分譲地が今なお残されている。

 開発時期は空港周辺同様、70年代から80年代にかけてのものが大半だが、成田空港から近い立地とは言えず、九十九里浜方面の分譲地は、単に往時の住宅地開発ブームによって開発されたか、あるいはバブル期のリゾート開発ブーム時に別荘用地として分譲されたものと思われる。

 別荘用地と言っても、九十九里浜の沿岸付近は旧来からの集落があるためか、のちに開発された分譲地は、市街地と海岸の合間に広がる田園地帯に散在していて、水着姿でビーチに繰り出すには微妙に遠い立地のものが多く、分譲地を見ただけでは別荘地なのか単なる住宅用地なのか判然としない。いずれにせよほとんどの分譲地が空き地だらけで、その合間にポツポツと、どこでも見かけるようなバブル期の安戸建が散在するばかりであり、その様相は北総の限界ニュータウンと変わらない。

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外房側の分譲地は九十九里浜から少し内陸に入った田園地帯に散在している。

 おそらく北総以上に豊富かつ価格破壊が起こっている外房側の分譲地をこれまでほとんど紹介してこなかったのは、単に僕自身が北総台地上に住んでいて海側の調査まで手が回らなかったというのが大きな理由だが、今回から外房の分譲地を紹介するにあたっては、あらかじめお伝えしておかなければならない注意点がいくつかある。

 利便性が0なのはこのブログではデフォなので良いとして、基本的に海に近い分譲地は低地であり、しかも周囲は田んぼや沼である場所がほとんどなので地盤が軟弱であり、場合によっては冠水の恐れがあること(台地上でも窪地であれば冠水するが)。特に海から近い分譲地では井戸を掘削すると塩分交じりの水が出る可能性があること。そして一部の自治体の沿岸地域では東日本大震災の津波被害があったこと。また別の問題として、職探しの点において北総よりハードルが高いこと、などだ。

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田園地帯なので鬱蒼とした山林は少なく、外房は全体として明るい雰囲気だ。

 ただ、外房側の低地はとにかく平坦であるのでその開放感は素晴らしいもので、特にマリンレジャーを嗜む方にとっては災害リスクを承知の上でもやはり海に近い立地を望むのは自然なことである。道路事情も、北総台地上の自治体よりはずっと良く、サイクリングにも適した交通量の少ない道路が多い。北総は空港が近いせいでどうしてもトラックなどの交通量が多いし、内陸なので冬は冷える。今回は九十九里町の分譲地を訪問したが、こうして田植えの季節に訪問すると、地盤を重視して八街を選んだ僕たち夫婦でも、さすがに外房の環境には惹かれざるを得ない。

 と言うことで、当ブログの読者の方でも、やはりいくつかの欠点を承知の上でも外房方面への移住を希望する方もいらっしゃると思うので(と言うより、基本的に移住先としては北総より外房の方が人気はある)、今後は海側の分譲地も積極的に紹介していきたいので、まず手始めに九十九里町を訪問したのだが、さて今回紹介する分譲地には、更地を格安で購入し、セルフビルドで小屋を建て、その暮らしぶりをYouTubeやブログで公開している吉田克也さんという方が住んでいる。

 実は僕自身、東京に住んでいた頃から吉田さんの動画はよく視聴しており、八街移住後は妻と二人でYouTubeのライブ配信にもしばしば参加させてもらっているご縁から、今回、吉田さんの住む九十九里町作田の分譲地を案内していただけることになった。

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九十九里町の限界ニュータウンの空地を格安で購入して暮らす吉田さんの小屋。

 吉田さんはこれまでにも、その小屋暮らしの模様が注目されてテレビ番組への出演経験もあるので既にご存知の方も多いはずで、はっきり言ってこんな僕の限界ブログなどよりもはるかに知名度があり、僕が紹介すると言うよりは、吉田さんの知名度に僕が乗っかると言った方が正しいが、これまでのメディアの紹介は当然ながら吉田さんが自身で建てた小屋の構造やその暮らしぶりにスポットを当てたものが多く、吉田さんが小屋の建設用地として選んだ分譲地の模様を伝えるものは少なかった気がするので、今回は、「小屋用地」として利用される限界分譲地、という視点で、この九十九里町作田地区の分譲地を紹介していきたいと思う。

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東金駅前。九十九里町方面へのバスは、かつて片貝海岸まで結ぶ鉄道会社であった九十九里鐡道が運行している。

 そもそも九十九里町は、千葉の超郊外で住宅開発が進むよりもずっと前に九十九里鐡道が廃線となって以来(1961年東金駅~片貝駅間廃止)、元々単線で運行本数の少ない東金線の東金駅から細々とバス便で結ばれているだけで、高速のインターもなく、交通の便のよくない小さな自治体である。その九十九里町の中でもこの作田の分譲地は町域のはずれに位置し、広大な平野部の中に孤島のようにポツンと位置しており、駅や市街地は言うに及ばず、海岸まで歩いて行くのもちょっと躊躇われるような距離で、一体この分譲地は誰に向けて造成されたのか不思議になるような立地なのだが、蓋を開けてみれば誰向けでもなかったようで、今なおほとんどの区画が空き地のままだ。

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分譲地の周辺は、あまりに広大な九十九里平野が広がる。

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周囲はいまだ大半の区画が更地のままだ。

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一見すると気持ちの良い広場に見えるが、背の低い雑草が茂った更地はすべて未利用の区画である。

 しかもどういう分譲の手法を取ったのかわからないが、売地の看板は見えるものの、どこに接道しているのか一見しただけではよくわからない区画もあり、辛うじて街路と判別できる道路も、果たして建築基準法の道路として認められているか疑わしいものもある。実際には吉田さんの小屋も含め、一般の住宅も点在しているので、全て建築許可が下りない分譲地ではないのだが、物理的に工事車両が進入できない立地では住宅地としての利用など進むべくもない。

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未舗装であることもあり、分譲地と街路の境界が不明瞭な区画が多い。

 吉田さんの案内で分譲地内を散策したが、確かに周囲には一般の家屋があるものの、空き家が多い。外房の中古物件は別荘として利用されるケースもあるが、ここにある空家の多くは別荘として利用されている気配もなく、荒れているものが多い。中にはひどい地盤沈下を起こしていて、家屋全体がひどく歪んでいるものもある。バブル時代のいい加減な住宅工事が伺えるが、施工主はたまったものではなかろう。また、限界ニュータウンでは時折見かける、火災で半焼したまま放置されている家屋も1棟あった。

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分譲地内にある空家。

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地盤沈下によって骨組みが歪んでしまった空き家。

 更地の多くは草刈り業者によって管理されているが、中には、極めて好意的に解釈すれば「資材置き場」と言えなくもない利用方法をされている土地もある。それより特記すべきなのは、この分譲地は、吉田さんのもの以外にもいくつかの小屋があるということだ。聞けば、作業小屋として利用されているものもあるが、1軒、以前は実際に居住者がいて、現在は売りに出されているということだ。小屋暮らしをしているのは吉田さんだけではなかったのである。

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吉田さんのもの以外にも、小屋はいくつかみられる。

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かつて実際に居住者がいた小屋。現在は売りに出されている。

 さて、吉田さんはその自身の小屋暮らしの模様を包み隠さず動画やブログで配信している。吉田さん自身は動画を見ても、また実際にお会いしても、どちらかと言えば控えめで穏やかな方だが、これまでの小屋暮らしの中では、時に辛い思いをすることもあったらしい。限界分譲地とはいえ、周辺は一般の家屋が多いので、小屋を建て、薪で煮炊きする吉田さんの生活スタイルに違和感を覚える向きもあったのかもしれない。実際、YouTubeのコメント欄でも、近所の空地にこんな小屋が建ったら嫌だ、などという心無い書き込みがされていたのを見たこともある。

 だが、僕に言わせれば、こんなどこを見渡しても地平線しかないような九十九里平野のど真ん中では、そもそもベッドタウンとしての需要など、そんなものは最初からなかったのだ。それはなによりもこの空地の数が証明している。車の音もなく、小鳥のさえずりしか聞こえないこの地で、わざわざ高額のローンを組んで家屋を建築することと、吉田さんのように自ら小屋を建て、井戸水を汲み、時には土を耕す生活の、一体どちらがこの地に相応しい利用方法か。この分譲地の空き家の現状を見れば、その答えはもう出ているはずだ。

 確かに吉田さんの小屋は豪奢な造りであるとは言えないし、井戸も手漕ぎ式で、排水の制約から化学洗剤は使えず、一見するとあまり文明的な機能はない。しかしその一方で、吉田さんは高価な機材を駆使して動画編集と配信に勤しんでいるし、商業地から遠い立地の不便さをインターネット通販でカバーしている。限界ニュータウンでは必須と思われがちな自家用車も、吉田さんは保有していない。元々東北から就職のため上京してきた吉田さんは千葉県に地縁もなかったが、継続的なネット配信のおかげで訪問者も絶えない。都市部では到底手に入らない広い敷地を格安で入手し、建築費用も抑え、デメリットを最新技術でカバーするその生活スタイルは、閉塞的な状況に追い込まれている千葉の限界ニュータウンの活用方法の一つとして、大いに参考にできるものだと、僕は考えている。

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小屋用地として再利用される旧分譲地へのアクセス

山武郡九十九里町作田

  • 圏央道山武成東インターより車で19分
  • 東金線東金駅・求名駅より東金市循環バス「豊成路線」 「東中」バス停下車 徒歩11分
  • 総武本線成東駅よりちばフラワーバス「海岸線」 「鳴浜小学校」バス停下車 徒歩20分

コメント

  1. 暇人 より:

    吉田さんのblgで知ってきました。
    とってもおもしろい!!
    最後にババ引いた人が必ずいるわけですがそれでも世の中なんとか
    なっているんですね。不思議な世の中です。

  2. 吉川祐介 より:

    @暇人さん
    コメントありがとうございます。吉田さんのブログで紹介していただいたおかげで、通常の数倍のアクセスがあって驚いている次第です。
    空地の所有者は今でも売れずに困っている人も大勢いますが、一方でその地の草を刈って生計を立てる人もおり、それでお金が回っている面もありますね。吉田さんは取得金額も安いし、陳腐な言い方になりますが、お金や資産価値といった概念では換算しきれない色々な経験を得ていると思います。 

  3. ファマ より:

    かつやさんのブログから来ました。
    バブル期を知らない世代ですが、夏草や 兵どもが 夢の跡と言いますかなんとも言えない趣を感じます。
    株式投資を趣味としているため、我が国の行く末といいますか人口分布、人口動態に大変興味があります。発展を終えた国の没落の仕方を学ぶことは新興国への投資で大いに役立つと思います。勉強のため定期的に訪問させて頂こうと思います。楽しみにしています。

  4. 吉川祐介 より:

    @ファマさん
    お読みいただきありがとうございます。僕のブログは、Twitterなどではブログ開設当初から不動産投資を行う方からコメントを頂くことがよくありますが、僕自身は投資経験がまったくないので、おそれ多いと言いますか果たして参考になるのか不安なのですが、考えてみれば仲介業者でもあまり扱いたがらない物件ばかり調査する人というのは、投資の方ではあまりいないのかもしれませんね。ぜひ今後ともよろしくお願いいたします。

  5. 通りがかり より:

     かつやさんのブログから伺いました
     かつやさんは近隣住民からロケストの件などでいろいろクレームが来たようで、一時期は対人恐怖症状態になった様子です
     貴ブログを読んで近隣住民の文明的と言われる生活のほうが異端であり吉田さんのライフスタイルがむしろ合理的なのではという論点は目からウロコでした
     限界ニュータウンという論点のブログは珍しいと思いますのこれからも誠意的にアーカイブしてください

  6. 吉川祐介 より:

    @通りがかりさん
    こんばんは。お読みいただきありがとうございます。
    千葉の超郊外で時折耳にするのは、バブル時代の地価高騰時に住宅を取得してしまった人の中には、安く土地をゲットできた新住民に対するやっかみを抱えている人もいるという話です。そういう人は、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いと言いますか、何かといろいろ口出ししてくるかもしれません。
    何にせよ、家の近所に小屋が建つことに不満を持つ人は、そこが住宅地としての需要などないという現状が認識できないのでしょうね。超郊外の限界ニュータウンにファミリー用の家屋が建てられたのは、地価狂乱のバブル期というごくごく短い期間の異常な現象であって、時には野焼きも行われる農地のど真ん中にマイホームを建築しておいて、煙がどうのこうの言っても始まりません。

  7. T より:

     勉強になりました。
     私は船橋市在住ですが、波乗りが好きで九十九里町に10年ばかりトレーラーハウスをか借りておりました。
     トレーラーハウスを解約して3年後、九十九里町の海岸まで徒歩3分の物件を300万円で購入しました。(土地100坪 平屋68㎡ S49年築)
     現在は子供達も大きくなり、それぞれが「海の家」へ遊びに行っています。
     近隣に住宅がありますが、高齢化の影響なのか近所の付き合いがなく、自由で静かな時間を味わっています。
     バブル期の地価は、現在の10倍以上だったと聞いております。
     仕方なく都心から離れた方々は、可哀そうですね。
     住宅の画像を拝見いたしましたが、敷地が狭いですよね。
     田舎なのに50坪くらいの小さい土地でも、2500万円はしたと聞いております。
     現在、バブルがはじけた恩恵を受けて、海生活を楽しんでおりますが・・・
     今後の過疎化する地方都市や住宅地・中古物件や空き家の増加・高齢化による耕作放棄地の増加など土地に関わる話はネタが尽きないと思いますが、引き続き情報の発信をお願いいたします!
     ありがとうございました。

  8. 吉川祐介 より:

    @Tさん
    こんばんは。お読みいただきありがとうございます。
    土地の購入者に関しては、投機目的なのだから仕方ないと思いますが、家を建てた人は、当時はそういう住宅事情だったので、時代の犠牲になったとも確かに言えますね。今となっては狭い宅地の家は、買い手も借り手もなかなか付きません。30年前と今では物価も違うのに、それでも今は当時の半額ぐらいで、倍くらいの敷地の家が買えるのですから。
    ただ、今でも相場の数倍の売値を出している物件もありますが、多分購入金額ぐらいの元は取りたいのでしょうけど、相場を無視した値付けが土地の流動性を阻んでいる面もあるので、難しいところであります。
    この辺りの分譲地は、吉田さんのように、ベースキャンプとしての小屋や、Tさんのように別荘利用が一番適していると思います。敷地が広いのがお羨ましい限りです。平屋も最近は人気で、平屋物件はすぐに物件情報から消えてしまいますね。

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